白銀たなびくは、祀ろはぬオオカミ3
「がっ!?こ、この、あたしがぁ………っ!!」
胸元に少女の腕が深々突き刺されたビビィが血を吐く。
「よくもウチの身内をヤッてくれたな。テメエらに殺されたもんの分だ。受け取りやがれ」
凶悪な面構えで引導を渡すヴェネライラ。
ビビィは白眼を剥いて後ろでに倒れ伏し炎の中へと埋れていった。
ザイファは呆気に取られた。
一瞬で、自分たちが苦戦した相手、しかも二人を一撃で倒してしまった。
つまらなそうに渋い顔をする銀髪の少女。
「ちっ………血生臭い荒事からは足洗ったつもりだったのによ……因果かねえ」
辺りには変わり果てた仲間たちの亡き骸。みんな知り合いばかりだ。家族も同然だった。
思い出す。前の世界でも。
大抵、気のいい奴らばかり先に逝っちまう。盃交わした兄弟家族が死ぬのは気持ちいいものではない。
「………ヴェネ」
哀しそうに仲間たちの遺骸を眺める少女になんと声を掛ければいいか迷巡するザイファ。
「………ん?なんだ、何かイヤな臭いがする………」
ヴェネがスンスン鼻を鳴らす。
「臭い?血と焦げた臭いが邪魔して判らないが………」
ザイファも鼻を鳴らすがヴェネライラの感じる臭いが何なのか解らない。人狼族の嗅覚は他種族一鼻が効く。
「………この臭い………何かがくるっ!!ザイファッ!婆ちゃん連れて逃げろっ!!他の生きてるやつにも伝えろっ!ヤバイヤツが来やがるっ!!」
ヴェネが険しい顔で警告する。
ヴェネライラは特別人狼族の中でも鼻が効く。その彼女がヤバイというなら相当だ。
「ヴェネッ!お前はどうするっ!?」
ザイファラウルがカルエラの肩を担ぎ立たせながら問う。
「………オレは足止めする。その間に他の奴ら連れて出来るだけ遠くに逃げろ」
銀髪の少女が振り返らずに言う。
「………!………判った。お前も必ず来い。約束してくれ」
ザイファが少女の決意に何か言い掛けたが、飲み込んだ。
「ん。約束だ」
親指をぐっと立てニカッと笑いサムズアップするヴェネ。
ザイファは息が荒い手負いのカルエラを担ぎ声を高々上げる。
「生きている者っ!動ける者たちはっ!北に向かえっ!!聴こえるかっ!!北に向かえっ!!我らは北に向かい生き延びるぞおおおおっっっ!!!」
そしてザイファたちは焼けた村跡から立ち去る。
生き残りはザイファの声に従い北に向かうだろう。北には秘匿された他種族の隠れ里がある。みんなそこに行くだろう。
ザイファと婆ちゃんがいれば大丈夫だ。
焼けた村跡の広場に強力な魔力の流れが収束し地面に幾何学の円陣が幾つも浮かび上がる。
「………やれやれ。いったいいつまで時間がかかっているのですかね。獣人の村ひとつ墜とすのに」
光を放つ円陣から何者かが姿を現した。
燻んだ金髪に黒縁メガネ。青白く病的気味な痩身の男。目付きは細く鋭く冷徹さを醸す。
黒のローブを羽織り片手に長柄の杖を持つ。
「おや?村はほぼ制圧が完了しているではないですか。ビビィ、ジャフ。………ふむ。反応が有りませんねえ」
「そいつらならオレが始末したぜ」
痩身の男が向き直る。瞬間、背後の炎からヴェネライラが躍り出て飛びかかる。
鋭い鉤爪で無防備に後ろを向く首筋に狙い定めて。
だが。
不意をついた攻撃は片手に持つ杖で軽く止められていた。
「………ふむ。なるほど。彼らを倒したのは君ですか」
ジロリと細い眼が此方を見据えてくる。
「!?」
ゾワリッ!と背筋に寒気を感じたヴェネは素早く身を翻して距離を取った。
「………テメエっ、覗きやがったなっ。オレのステータスを………っ!!」
さっきの気持ち悪い感覚。
間違いない。コイツオレのことを閲覧やがった。
『鑑定』されたのだ。
「………ははあ。なるほど。なるほど。これならば彼らが敵わないのも納得ですねえ。ふむふむ」
痩身の男はメガネをくいっと持ち上げ至極感心している。
目の前の空間に何か自分だけ見えるように操作している。
あれはステータス画面っ!?
なんかすっげえイヤな予感がする………。
「そうですか。君もなんですね。いや、奇遇です。私も同じなんですよ。君も使えますよね?『鑑定』。ああ、見ていいですよ、私のステータス。遠慮なくどうぞ」
戯けた仕草をする男。
言われるまでもなくオレはコイツを『鑑定』した。
鑑定したら………
名前はケイオス・グランバール。
職業カオティックネクロマシー。
ステータス、魔法、スキル、その他諸々、etc………
うんなもんどうでもいい。それよりよりコイツ………
「………マジか………」
記載されている一文。
異世界転生者。
このメガネ野郎、オレと同じ転生したヤツだ。