白銀たなびくは、祀ろはぬオオカミ
「ガッハッハッハッ!どうしたどうしたっ!威勢がいいのは最初だけかっ!!もっと俺を愉しませろっ!犬コロっ!!オラオラオラオラッ!!」
「チィッ!図体デカいくせによく動きよるっ!それによく喋る口だっ!!」
巨漢ジャフから繰り出される大剣の練撃を戦斧で弾きいなし、隙あらば筋肉質ながらしなやかな魅力的な肢体から強烈な拳と蹴りを放ち身体に叩き込む人狼族長カルエラ。
「ガッハッハッハッ!いくら打っても無駄だっ!むうううんんっ!!」
ジャフがニヤリと笑い防御することもせずカルエラの放った丸太の如き太い足蹴りをポージングをとり、鍛えた腹筋で受け止めた。
カルエラの強靭な蹴りが鳩尾に確かに入ったが、まるで硬質な岩盤を叩いたような異質な鈍音を立てて防がれる。
「ぐっ!!またかっ!?貴様、やはり魔術で儂の攻撃を防いでいるのかっ!!」
攻撃した脚先から鈍痛を感じて身を後退し、すかさず戦斧を振るうカルエラ。
「ガッハッハッハッ!そうだっ!これが俺様の固有魔術っ!!貴様の攻撃など痛くも痒くもないわぁっ!!」
鋭い戦斧の刃がジャフの首筋に当たった瞬間、肌色の部分がまるで石畳のように硬質化され、カルエラの戦斧を甲高い金属音を持って弾き返した。
「……自らの肉体を岩に変える魔法か。なんとも厄介極まりない術を編み出すモノだな人間」
カルエラは長年愛用した自慢の大戦斧の刀身に入ったヒビ割れを忌々しそうに隻眼の顔を顰めて見る。
「ガッハッハッハッ!俺様の身体は無敵の鎧だっ!!」
ジャフの巨体の表皮にビシリビシリバキバキと岩石のプロテクターが装着され角張った硬質な鎧となる。
「そして、武器にもなるっ!!」
岩盤に覆われ一体化した巨大なガントレットとなった拳を高く振り上げ、一瞬のうちにカルエラの懐に移動し豊満な爆乳に叩きつける。
「ゲッッッバあぁッッッ!!?」
メートル超えの大脂肪満密の豊肉がぐにゃりと強かに凹み、柔らかながら張りのある巨大な乳房が潰れてカルエラは目を見開き一気に後方に吹き飛んで廃墟化した住居跡を破壊して埋れた。
「ガッハッハッハッ!死なないように手加減するのは、やっぱり難しいなぁっ!!それでも俺様と渡り合う技量が有るのは、いい、実にいいなっ!ん?あっちも派手にやってるようだな」
ジャフがチラリと見る方向から炎の渦が逆巻き伸び上がり周囲を燃やしながら爆砕すると、身体中を火の粉に巻かれた人狼族の青年が転がりながら迫る鞭を躱して飛び出してきた。
「あっははははははっ!!逃げてるだけじゃ戦いにならないわよーっ!ほらっ!ほらっ!いい加減丸コゲになる前に観念しなっ!!」
赤髪ポニーテールの際どいビキニアーマー美女が高笑いしながら炎の鞭を縦横無尽に振るい辺りを火の海に変えながら現れる。
「くぅっ!炎が意志を持った生き物のようにっ!これがこの人間の操る魔術なのかっ!?」
長槍を素早く回転させ纏わりつく炎を消し払うザイファ。
その身体にはケロイド状になったミミズ腫れの火傷跡がいくつも重なり合い痛々しい有り様だった。
「ぬんんグゥウッ!ザイファっ!無事だったのかっ!!」
廃墟の瓦礫を蹴飛ばし豪腕で砕けた太い柱を担ぎ払い退かし、カルエラがザイファの安否を知る。
「族長っ!?貴女もご無事でしたかっ!!」
「……ああ。実戦からだいぶ離れていたから身体がずいぶん鈍っちまってな。この様だ。なんとも情けない。ゴホッ」
カルエラは褐色の巨胸に出来た真っ赤にうっ血した痣をなんでもないとばかり笑い、口端から血唾を垂らし、血を吐く。
「貴様らあっ!偉大なる我ら人狼族の族長に無礼をっ!!許さんぞおおおっ!!」
ザイファが怒り犬歯をギリリと噛み、槍を手にして余裕綽々に佇む石鎧を纏うジャフに狙い定め向かおうと脚に力を込める、が。
「よそ見して悪い子だねぇっ!あんたの相手はアタシだろう?そんな筋肉ダルマなメス犬なんかよりアタシがた〜っぷりと満足させてやるよぉ〜っ!!」
「ぐうぅっ!!」
ビビィが炎の鞭を打ち据え、咄嗟に回避し肩に肉が焼ける臭いを残して焼き跡を作るザイファが倒れるカルエラの前に移動して槍を構える。
「ガッハッハッハッ!ビビィ、張り切ってるな。どうやらなかなか粋のいいオス犬を見つけたじゃないか」
「あら?ジャフ、アンタこそまだそのメス犬殺してないんだねえ。珍しい。いつもならオスはすぐ殺してメスは犯してから殺すのに。そのメス犬気に入ったのね」
「ガッハッハッハッ!応よっ!ここまで頑丈な相手は久方振りだっ!それもメスだっ!いつもみたいに嬲って犯して殺すのも良いが、こいつは俺の鍛錬のサンドバッグにちょうど良いっ!最近全く、まともに対等に闘えるヤツがいなくて困ってたんだっ!こいつは持って帰って俺様の性処理兼戦闘訓練人形にするつもりだっ!旦那に肉奴隷に改造してもらうっ!」
ジャフは新しい玩具を見つけた無邪気な子供のように笑う。
「ふぅ〜ん。アタシもこのボウヤが気に入ったから魔術士の旦那に頼んでしっかりと言うことを聞く忠実な可愛い奴隷に仕立てて貰おうかしら?立派な忠犬に、ね。ふふふ」
巨漢の岩男と炎を纏う妖艶な女が不気味に笑い合う。
「……チッ……ヤキが回ったね。儂も歳か……身体が言うこと聞かないねぇ……ザイファ、あの子は……」
「……離れの屋敷に。聡い子です。日頃から何かあれば逃げるように常に言い聞かせてあります。彼女の血は誇り高く故に尊い。我等人狼族の由緒ある神代の礎。決して絶やしてはならないと。だから彼女はこの事態を理解してすでに去っています。……いると思います……多分……恐らく……だったらいいなぁ……」
キリリとしたイケメン顔のザイファが徐々に自信なさげに変わる。
「……くっくっくっ、まあ無理だろうな。あの跳ねっ返りなら黙って大人しくしているわけがないな。何せ儂の孫だからねえ。こんな状況なら尚更……」
はぁはぁと息も絶え絶えに守るように槍を構えるザイファたちにジリジリとゆっくり歩み寄るジャフとビビィ。
自身たちの勝利を揺るぎないものと、確信している雰囲気。
揺らぐ焼け付く熱風。
肌にこびり付く血とすすけたの焦げた匂い。
降りかかる災いが死神と葬列を成し、遵守たる死などもはや臨むべからず苛む。
その時。
ぶわりっと今まで吹いていた不快な風とは違う新たなる風が吹き荒れ、たちまちに肌に纏う理不尽な怖気を掻き消した。
目の前に、白く煌びやかに輝く長い銀糸が流れる――――
「ウチのシマにコナかけ腐りやがってぇ――――」
眩ゆい白銀をその華奢な総身に宿す麗しかな少女。
「テメエらあ、命ハジく覚悟デキてんだろうなあ?」
ヴェネライラが猛々しく銀の双眸を剣呑に爛々と燈し、立ちはだかった。