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成人の儀

 




「そっちに行ったぞっ!追い詰めろっ!!」


「奴は手負いで凶暴だっ!気をつけろっ!!


 狩り衣の男たちが槍や斧を手に煽り、吠え猛る。


『ブォモォオオオオオオオオオオォッ!!!』


 鋭い針のような毛並みを逆立てた長く鋭い牙を持つ黒く巨大な猪が身体中から多量に出血しながらも蹄を奮い大地を蹴る力に衰えは微塵も感じられず、むしろ自身にここまで手傷を負わせた相手に文字通り怒髪天に怒り心頭だった。


 周りの武器を持った獣の被り物の衣装を纏った男たちが猪が逃げ出さぬように決められたコースに陣取り歓声と声援を上げる。


 勢いをつけて爆走する巨大猪。


 その背後からもの凄い勢いで追い駆けてくるは白銀の少女。


 白く銀色に輝く長い髪を風を切って靡かせ、華奢だがしなやかな四肢を軽やかに操り木から木、枝から枝へまるで忍者か軽業師のようにシュババババッと飛び移り、勢いよくジャンプして空中でクルクルと前方回転し、走る巨大猪の横腹に向かってその美麗な足先を構え強烈な蹴りを叩き込む。


『ブボォオオオオッ!!?』


 唐突に横っ腹に痛恨の蹴りを受けて血反吐を吐き派手に転がりまくる巨大猪。


 蹴りを放った反動を利用し、クルンと身を翻し華麗に地面に着地する少女。


「……まだ息あんのか?しぶといねー、よくこんなタフな黒曜猪見つけてきたな。誰が連れてきたんだ?」


 可憐かつ凛としたよく通る鈴の音の声を放ち、獣の皮を鞣した狩り衣を纏う少女は白銀の麗髪をさらりと後ろに梳き、頭部に生えるふたつの獣耳をピピンと立たせて腰から伸びるフサフサした髪と同じ白銀色の尻尾を跳ねさせる。


 その少女はとても白く、儚く、あまりにも美しかった。


 年端は15ぐらいか、まるで切り離された時を駆ける白銀の孤狼のような風貌であり、神々の世界から舞い降りた戦さ場の女神ように煌々と輝き、見るものを圧倒し魅了する容姿を備えていた。



「その黒曜猪は族長が直々に捕まえて来たんだ。お前の成人の儀だからって特別ガタイが良くてイキのいいのがいいだろうってな」


 少女の側にシュタンッと身長2メートルは優に越す長身の細身だが筋肉が逞しい金色の鬣の二十歳ぐらいの狩り衣を身に着けたイケメンが現れる。


 その青年の頭部にも獣の耳が付いており、腰から金色の尻尾を生やしている。


「あ〜、なるほど。婆ちゃんの仕業か。どうりでオレが今まで見てきた成人の儀より難易度高いなぁって思ったよ。ザイファの時はこれよりもうちょいサイズ小さかったよな?」


 白銀の獣耳少女が隣の金髪獣耳青年に言う。


「まあ、自分の可愛い孫娘の晴れ舞台だからな。気合い入れて用意したんだろう……おっと、やっこさんまだまだ元気みたいだ。部外者が手を貸したら儀式失敗になっちまう。ま、お前のことだから心配は要らんと思うが、油断するなよ。ヴェネ」


 ザイファと呼ばれた青年が動き出した猪を一瞥し、白銀の少女に声をかける。


「おうよ。オレがマジになったら、こんくらいの魔獣なんざチョチョイのチョイさ。今日はせっかくの成人の儀でお祭りだからわざわざ手加減して盛り上げんてんのよ。あとでコイツ一緒に食おうぜっ!」


 ヴェネと呼ばれた少女はニカリと艶やかな唇から犬歯を見せて青年に魅力的な朗らかな微笑みで笑いかける。


「!! お前はっ……またそうやって……」


 青年は顔を赤くして小さく呟き、そっぽを向いてその場からシュバッと飛び上がり木々の中へと姿を消してしまう。


「ん?なんだ?どしたんだ?あいつ……」


 少女は、はてと首を傾げ訝しげに顎に手を置く。


『ブ、ブモオオオオオオオオオォォォッッッ!!!』


 倒れていた巨大猪がヨロヨロと起き上がり、憤怒の表情で目の前の少女を睨み吼える。


「ま、いっか。さあて猪くん、お前にはオレの華麗なる異世界転生の栄誉ある礎になってもらうぜ」


 白銀の麗しき美少女ヴェネがギランと飢えた狼さながらに鋭い犬歯を覗かせ獰猛に嗤った。








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