2話 初めての会話
和室に来た少女は図書館で私のことを見てなかったのか、表情を変えず一瞥だけする。
「メグミはミキちゃんの隣に座りなさい。」と叔母が言うと、メグミと呼ばれた少女は私の右隣に座る。
メグミは近くで見てみると小柄で、長い黒髪の間から見える横顔を見るだけで、私は心が動くことを感じる。
叔母は去年に再婚したと聞いていて、再婚相手には連れ子がいることは知っていたが、この子のことだったとは。
しかし、せっかく隣になったのに、何を切り出したものやらと話せず、固まる。
「いただきます。」親戚一同全員で合掌し、ご飯を食べ始める。
私はご飯を食べながら、何かメグミと呼ばれている少女との話題を探そうとする。
しかし、祖母から私の近況について聞かれ、いつもの通り仕事には慣れてきて頑張っていることだけ返す。
すると話題が仕事の内容に入ってしまい、しばしメグミと話す話題を考えられなくなってしまった。
しばらく話を続けていると、気づけば叔母が来て、私とメグミの間に座った。
「ところで、ミキちゃん、ミキちゃんはメグミのこと初めてよね。」
「えぇ。初めてです。」
「この子ね、今高校二年生で、大学受験を控えているの。
で、よければいろいろミキちゃんのアドバイスしてあげれないかしら。」
「はい。大丈夫ですよ。」母さん、ナイスアシスト!と内心思いながら私は答えた。
「じゃあ、メグミ、ミキお姉さんはA大学の大学院を卒業していて、今は東京の大企業に勤めているの。
進路のことで悩んでるならアドバイスもらいなさい」
「そんな対したものではないですけど、何でもどうぞ。」
とメグミに対して、やさしい感じで話す。
メグミの顔は少し緊張しているように見えたが、意を決したのか目を合わせ口を開いた。
「ミキさんは、なんで情報系を選んだんですか?」
「好きだからかな。小さい頃からパソコン触っていて、これを職業にしようと思ってたんだ。今となっては少し後悔しているんだけどね。」
「そうなんですか?」
「お仕事になると何であれ大変なの。メグミちゃんは何かしたいことってあるの?」
「私は……」
メグミの顔が曇ってるように見えた。
まだ進路が決まっていないのだろうと思い、質問を変えることにする。
「高校二年生だとまだ決まっていない人多いよね。メグミちゃんは何か好きなことってある?例えば、例えば読書とか。」
「あっ、はい本は好きでよく読みに行きます。」
「どんな本が好きなの?」
「えっと、それは……。恋愛小説とかです。」
少し照れた顔をするメグミを見て、かわいいと猛烈に思う。
「最近だと何を読んでいたの?」
「えっと……。今日はH物語を読んでました。」
「それ図書館で読んでたよね。」
「えっ!?ミキさんも図書館にいたんですか?」
「うん。私のホームだったんだあの図書館。」
「そうだったんだ。じゃあ先輩ですね。」
メグミの顔に柔らかな笑みが浮かび、私は胸がキュンとした。
「そ、そうなるかな。」
「ミキさんはどんな本が好きだったんですか?」
「私も恋愛小説が好きだったかな。あとは情報系の本」
「その頃から今の仕事のことが好きだったんですね。」
「そうだね。好きだったんだ。メグミちゃんはパソコンとか普段から使ってるの?」
「少しですが、家で調べ物するときに使ってますよ。今日の本もそこから探しました。」
「へーそうなんだ。」
メグミの顔は何か自慢げで、子供っぽくて可愛く見える。
「メグミちゃんは、学校の教科だと何が好きだったりするの?」
「学校の授業ですか……。」
メグミの顔が曇った。もしかしてあんまり成績良くないのかな。
「読書好きなんだったら、国語とか得意だったりしないのかな」
「古典とか漢文とか苦手なんです……。」
「そうなんだ。じゃあ数学とか理系科目は?」
「私は文系に進もうとしているんであんまりなんです……。」
「メグミちゃんは文系なんだね。じゃあ世界史とか日本史は?」
「それもあんまりなんです……。」
て、手強い……。
メグミの顔を見ると意気消沈しているように見え、心苦しくなった。
何とか手を差し伸べたい、と名案が浮かんだ。
「それなら、わかるか心配だけど、もし良かったら勉強見てあげようか?」
「いいんですか?」
「うん。私大学の頃に家庭教師のバイトしてたことあって。その時に理系と文系の生徒を見てたことあるんだ。
それに、こっちで今することあるわけじゃあないから、時間はあるし。」
「嬉しいです!」
一転してメグミは嬉しそうで、私の心も嬉しくなっていった。
その日、私は家に戻ると、すぐにずっと前に開設して続けているブログに書き込まざる得なかった。
実家に帰ったこと、そこにかわいい女子高生がいたこと、そして先輩って呼んでくれたこと、胸がキュンとしたこと。
記事を書き終わり、投稿すると布団に寝転がる。
明日に会う約束もしちゃったし、明日楽しみだなぁ。
おっと、高校のテキストを復習しとかないと、私は参考書を探して復習をすることにした。