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真偽

 銀色に輝く女神ケレス様の手紙についた鳥のような白い羽が消失し、ヒラヒラとナギの手元に舞い降りる。


ナギは両手で手紙を持つと数瞬手紙を鋭い目で見た。今回女神ケレス様に会うならばどうしても尋ねなくてはならないことがある。罪劫王バアルの言葉の真偽を問うのだ。

 

 罪劫王バアルは人間の記憶を読み取り、又その人の記憶にある存在全ての心が読めるという。それが例え神であろうとも……。

 

それが事実だとするならばナギは女神ケレスに真相を聞かねばならない。

 即ち罪劫王バアルが今際の際に語った言葉が真実か否か……。

 

 

 罪劫王バアルとの死闘の最後になされた問答がナギの脳裏に響く。



◆◇◆◇◆



「相葉ナギ、俺はお前の記憶を読んだ。お前は女神ケレスに騙されているぞ!」


 瀕死の罪劫王バアルが叫ぶ。


「騙されているだと?」


 ナギが静かに問う。

 

「そうだ! お前は次元震で死んだと説明されただろうが、それは嘘だ!」


「なら、真相はなんだ?」


 ナギは静かに問うた。


「女神ケレスはお前を選んで殺害したのさ! 理由は、お前が相葉円心の孫だからだ!」


「俺がお爺ちゃんの孫だからだと?」


「そうだ! お前の祖父・相葉円心はかつてこの異世界で英雄として活躍したのだ!」

 

 バアルの瞳に奸悪な笑みが閃いた。


「爺ちゃんが英雄か」


「そうだ! だから、お前が選ばれた。英雄の孫である相葉ナギよ。お前はおかしいと思わなかったのか? 『偶然、次元震に巻き込まれた』。そう女神ケレスは言っただろう? そんな偶然があるものかよ!」


「女神ケレスの陰謀でお前は殺され、この狂ったクソッタレの異世界に放り込まれたのさ! 

 女神ケレスは、『魔神を倒せる人間は英雄・相葉円心あいばえんしんの孫である相葉ナギしかいない』そう計算した。だから、お前は女神ケレスに選ばれたんだ!」

 

 

◆◇◆◇◆


 

 回想がナギの脳裏から去ると、彼はワイングラスを傾けて果実酒を胃の腑に流し込んだ。弱い酒だ。強い酒が欲しい、と思った。だが、ケレス様に会う前に酔うわけにもいかない。


 ワイングラスをテーブルに置くと、ナギは右手をテーブルの上において人差し指をタップした。沈思する時のナギの癖である。


(レイヴィア様がセドナを奴隷商人の下で匿っていた。これは良い)

 

 この行為自体はレイヴィアがセドナの身を慮ってのこと。逆にナギはさすがレイヴィア様だと感心したくらいである。

 

 まさか、セドナが奴隷商人に匿われているなど誰も分かるまい。レイヴィア様とセドナの敵対者は不明だが、奴隷商人が味方になって庇護していてはセドナを探し当てることは不可能だ。奴隷商人というのは、その職業上、秘匿性が高い。


 保護対象であるセドナを数多の奴隷の1つにして隠してしまえば、保護するのにこれ程適した場所もない。

 

 事実、古代ローマ帝国において、とある属州の王族が敵対する勢力から身を隠すために奴隷商人を利用して、政敵から逃げおおせた例がある。

 よって、レイヴィア様がセドナを奴隷商人に保護させたのは道義的にも合理的現実的側面からも容認しえる。

 

 例えレイヴィア様がセドナに嘘を吐いていたとしても、それも作戦の一部だ。実際、セドナはかなり裕福かつ安全に匿われていた。


(だが……)

 

 とナギは思う。

 女神ケレス様の嘘は別だ。ナギの黒瞳に形容しがたい光が浮かぶ。

もし、罪劫王バアルの言った言葉が真実ならば、そのままにはしておけない。


(俺が次元震に巻き込まれたのは偶然だと女神ケレス様は言った)

 

 だが、罪劫王バアルは『偶然』ではなく必然的に女神ケレス様が俺を殺したのだという。理由は俺が相葉円心の孫であるからだそうだ。


 祖父・円心はかつてこの異世界に来訪しており、しかも英雄だった。


《魔神》を倒すためには孫である俺を異世界に転移させる必要があり、そのために俺を次元震で故意に殺害した。


 俺は人差し指をタップしながら細く長い息を吐き出す。


 罪劫王バアルの言葉が真実であるという証拠はない。だが、もし真実であるとするならば……。


 俺は女神ケレス様からの手紙を開いた。そこには流麗な日本語が書かれていた。


『相葉ナギ様。貴方を夢幻界にご招待します。どうぞお越し下さい』

 

 その文字が手紙に浮かぶと同時に俺の身体が純白の光に包まれた。俺は神剣〈斬華〉の鯉口を切った。鯉口を切った時、宝玉が砕けるような冷たく美しい金属音が響いた。

  

 

  

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