罪劫王ハーゲンディ VS 槍聖クラウディア
令和元年5月4日(土)の12時から、私の新作小説【アルフォンス・サーガ】を連載開始いたしました。
架空ファンタジー戦記です。
舞台は中世ヨーロッパ風の架空世界。
アルフォンス・ベルンという17歳の少年。
天才軍略家であるアルフォンス・ベルンが、戦争で無敵の大活躍をする戦記ファンタジー小説です。
中世ヨーロッパの戦争のように数万の大軍が衝突して合戦を致します。
宜しければ、ご一読下さい。
よろしくお願い申し上げます。
「……そうか。発動条件はその声か……」
クラウディアはようやくハーゲンディの魔法を理解した。
ハーゲンディの魔法は、敵の視界と平衡感覚の歪みを徐々に強めるのだ。
初動段階ではあまりに微少すぎて気付かなかった。
ハーゲンディは魔力を発動させる時、敵に感知されない術に長けていた。
クラウディアほどの練達の騎士に発動も、そして自分に魔法がかけられたことさえも気付かせない。
(……一番、相性の悪い敵とぶつかってしまったか……)
クラウディアのような騎士に取っては一番、相性が悪い敵だった。クラウディアは槍聖として、優れた動体視力と平衡感覚に恵まれていた。そしてそれが最大の武器の1つである。
その武器を奪われた。如何に強大な力でもあたらなければ意味が無い。
(いや、それ以上に……)
クラウディアは片膝をついた状態のままハーゲンディを見上げた。
「……お前を甘く見た。いや、騙された。……お前の知能を見誤った……」
「そうだよ~。私は敵に侮られるのが得意なんだ~。みんな私の言動と姿を見て愚鈍だと思い込む。私が精緻な魔法を操るタイプには見えなかったでしょ~」
ハーゲンディが牛の顔に残忍な笑みを滲ませる。
ハーゲンディの魔法は狡知極まりないものだった。敵に一切関知されない魔法。それらを編み出して、操るには高度かつ精緻な頭脳が必要になる。ハーゲンディは、その高い知能を隠していたのだ。
「さて、お姉ちゃんには死んで貰おうかな~」
ハーゲンディが、ゆっくりと地面に跪いたクラウディアに近づく。
両者の距離が4メートルにまで接近した時、クラウディアが全身の力を使って槍を繰り出した。
巨岩を粉砕する槍の一撃。神速の刺突。だがそれはハーゲンディの戦斧で弾かれた。クラウディアの手から槍がはじけ飛び、宙空高く、放り上げられる。
「無駄だよ~。必ず起死回生を狙っての一撃がくると予想していた。私は絶対に油断しないんだよ~」
ハーゲンディはクラウディアを蹴り上げた。腹部を蹴り飛ばされたクラウディアは8メートル以上転がって大地に仰向けに倒れた。
「頑丈なお姉ちゃんだね~」
ハーゲンディは嘲弄した。並の人間ならばハーゲンディの蹴りで上半身が吹き飛んでいる。
ハーゲンディはゆっくりと近づいた。もはやクラウディアには力が残っていない。勝利を確信する。
だが油断はしない。クラウディアが放り出した槍を見る。その槍にむかってハーゲンディは黒炎の魔法を放った。
クラウディアの槍が黒い炎で燃え上がる。
「これで聖槍はなくなったね~。槍聖が聖なる槍をなくしたら何かな? ああ、ただの人間か~」
ハーゲンディは油断なく戦斧を構え、大きく振り上げた。クラウディアは動かない。悔しげに自分を見ている。
「さて、聖なる槍は完全に破壊されたよ。本当は槍を遠隔操作して私を背後から貫く筈だったんでしょう?」
ハーゲンディが冷静に告げると、クラウディアは諦めたように口を開いた。
「……そうだ。よく分かったな。お前を背後から槍で串刺しにするつもりだった……。あの槍は遠隔操作。つまり私の意思で操作できるのだ……」
クラウディアはそう告白すると目を閉じた。
「だろうね。槍が独りでに飛んできて、私は背後から貫かれて死ぬ。悪くない作戦だったよ~」
ハーゲンディが戦斧を握る両手に力を込めた。
クラウディアが目を閉じた。ハーゲンディはそれを死を覚悟したと理解した。
「さて、槍聖クラウディア、死ね」
ハーゲンディが戦斧をクラウディアの頭部めがけて振り下ろした。
直後、頭蓋が砕けた。血と脳症が宙空に振りまかれ、頭蓋骨の欠片が大地にばら撒かれる。




