罪劫王ハーゲンディ VS 槍聖クラウディア
槍聖クラウディアは全身を血で染めていた。すでに左腕が潰されて使い物にならなくなっている。
右手でのみ槍を持ち、ハーゲンディをにらみ据える。
クラウディアの前に牛頭人身のミノタウロスがいた。ハーゲンディの正体だ。巨大な戦斧を持ち、クラウディアに嘲弄の視線を投げつける。
「弱いね~。そういえば槍聖クラウディアは、勇者エヴァンゼリンのパーティーメンバーの中で一番弱くて有名だったね~」
ハーゲンディが牛の口から野太い声を出す。
「泣きわめいてエヴァンゼリンやアンリエッタにでも助けを求めたら~?」
「そうしたいが、出来ない事情があってな」
クラウディアは右手でのみ槍を持ち、腰をかがめるとハーゲンディめがけて吶喊した。
クラウディアの槍がハーゲンディの喉元めがけて伸びる。槍は魔力で青く光り輝き、その突きは巨人を一撃で屠る。だが、それほどの刺突がハーゲンディには容易く打ち払われた。
戦斧と槍が激突し、刃鳴りが響き渡る。
クラウディアは槍を縦横に振るった。右、左、下、上、左、左、右、下。あらゆる角度から槍の斬撃を繰り出してハーゲンディに叩き付ける。
だがハーゲンディはそれら全てを打ち払い、受け流す。
(なぜ、届かない? どうしてここまで差が出る?)
クラウディアの胸奥に疑念が渦巻く。最初の段階ではほぼ互角だった。ハーゲンディは強い。だが自分も負けてはいなかった。速度、破壊力、技量、魔力、ほぼ同等だった筈だ。こうまで差が出る筈がない。なぜ、自分の槍がこうも容易く迎撃される?
なぜ攻撃がハーゲンディに届かない?
「無理だよ~。お姉ちゃんの槍は私に当たらないんだよ~」
ミノタウロスの口から薄気味悪い声が響く。
ふいにクラウディアの視界が歪んだ。視界が暗くなり、平衡感覚が鈍る。
(しまった。これは……)
クラウディアは膝を突いた。ハーゲンディは狂笑した。
「ようやく気付いたようだね~。幻惑魔法と平衡感覚の歪みだよ~」
ハーゲンディの声がクラウディアの鼓膜に響く。悪魔の声には魔力が込められていた。




