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権力

「良かったのうナギ。英雄になるとは男子の本懐じゃろう」


レイヴィアは軽く腕を組み、茶化すように言った。


「そうとばかりは言えませんよ」


ナギは黒瞳をレイヴィアにむけた。


「まあのぉ」


と、レイヴィアが応じる。


「あの……どういうことですか? 素晴らしいことではありませんか。ヘルベティア王国の国王イシュトヴァーン王。それに大陸各国の君主から賞賛されるなんて滅多にあることではありませんよ?」


セドナが幼い顔に不思議そうな色彩を示した。


「各国の君主に賞揚されると言うことは、権力者達に目をつけられた。ということでもあるんだよ」


ナギがセドナに諭す。


「そうじゃ。つまりじゃな。下手をすれば駒として操られることにもなりかねん」


「そんなナギ様が駒だなんて……」


セドナが瞳に困惑の光を宿す。


「いや、既に駒に組み込まれたと見た方が良いだろうな。俺を英雄として祭り上げた後は、金や名誉を与えた上で、『勇者エヴァンゼリンとともに、魔神を倒せ』とやんわりと強制する……、と言った所ですかね。どう思います? レイヴィア様」


ナギが言うと、レイヴィアが軽く首をふった。


「確実にそうなるじゃろうな、現在の情勢を鑑みるに他の選択肢は与えてくれまい……」


「あの……、それは悪いことですか?」


セドナが、優麗な顔に不安そうな色彩を浮かべる。


「見方によれば悪くないよ。各国の君主の後援を得た上で勇者エヴァンゼリンの仲間になる。そうすれば一定の金、地位、権力、保証がつくのは間違いない」


ナギは言葉を一度切ると、語を継いだ。


「悪い点は、ひっそりとした平穏な生活が送れなくなることかな」


「そうなるな」


レイヴィアが、桜金色ピンク・ブロンドの髪を手で梳く。


他にも悪い点は多々ある。例えば権力者達の意向に反した場合に抹殺されること。疑惑をもたれた場合も同様に命の危険がある。


権力者達から力をもらうと、それに比例して危険度も上がる。権力とは、その力の中枢に近づく程に危険が増すものなのだ。


だが、それをナギとレイヴィアはあえてセドナには語らなかった。こういう話はセドナにはまだ早すぎる。教えた所で、解決策もないので不安にさせるだけだ。


年長者二人が懊悩していると、セドナが明るい声を出した。


「でも、それならば良い面だけをみれば如何ですか?」


ナギとレイヴィアが黄金の瞳の少女を見やる。


「良い面だけ?」


「はい」


ナギが問うと、セドナが溌剌とした笑みを浮かべた。


「既にナギ様は、十二罪劫王の1人・ダンタリオンを倒されました。これで魔神軍は完全にナギ様を強大な敵と認定した筈です。そうなれば平穏な生活などもとより不可能です。ですから、各国の君主から援助して貰って、なおかつエヴァンゼリン様達のような強い人達とともに魔神軍と闘っていく好機と捉えては如何でしょう?」


セドナの発案に、ナギとレイヴィアは視線を交差させた。なるほど一理ある。魔神軍相手に奮戦すれば権力者達が、ナギ達を処断するような真似はすまい。


使える駒をみすみす捨てるような馬鹿はいない。


(悪くないな……)


とナギは思った。現時点では最良の選択かもしれない。


ふとナギはレイヴィアと視線を合わせた。ナギとレイヴィアが目だけで意思を疎通する。


「セドナ、悪いけど何か美味い酒が飲みたい」


「お酒ですか?」


セドナが小首を傾げた。


「うん。甘くて桃果汁が入った酒がいい。できれば赤ワインが欲しい。それと少量で良いから何か果物が欲しい」


「分かりました! なるべく早く探してきます!」


セドナが蝶のような優美な動作で部屋を飛び出した。


ドアがしまりセドナの足音が消えると、ナギとレイヴィアは同時に吐息を出した。


「さて、ではセドナがいない間に今後の方針を決めるかのぉ」


レイヴィアが細い指でこめかみを揉む。ここから先はセドナには聞かせたくない話になる。


「ええ、選択肢は3つ。一つ目、権力者の思惑に従う。二つ目、隙を見て逃亡。三つ目、拒否。どれが良いですかね?」


ナギが苦笑する。


「三つ目の『拒否』は論外じゃ、確実に抹殺されるぞい」


「では、二つ目は?」


「『隙を見て逃亡』も難しい。ヘルベティア王国は警察制度が発達しておる。冤罪でも被せられて指名手配されたら厄介じゃ」


「では、権力者の思惑通りにする。これしかないですね」


ナギが結論を出す。


「まあの。ナギよ、今頃、各国の王や皇帝が何を考えおるか分かるか?」


「ええ、『魔神軍と闘うなら生かしておいてやろう。闘わないなら秘密裏に抹殺してしまおう』。まあ、こんな所でしょうね」


ナギが人の悪い笑みを作る。


「お前さん、存外、世の中の世知辛さを知っておるのう」


「『俺は英雄だ。勇者だ。凄い』なんて、安易に考える程、子供じゃありませんよ。そういうのは幼稚園児までの特権です」


エヴァンゼリン達とともに魔神軍と戦うのは良い。

だが、権力者達に後ろから刺されるのはゴメンだ。


地球においても国家に尽くした英雄、偉人が権力者の薄汚い私欲によって、抹殺された例は数多い。

僕はセドナを護らないといけないんだ。脳天気な子供ではいられない。


「よし、では覚悟するしかあるまいな。エヴァンゼリン達とともに魔神を倒す。良いな?」


「ええ、元々魔神軍と闘うつもりでしたしね。それにエヴァンゼリンさん達は、信用できる人達です。彼女達とともに闘えるのは嬉しいです」


間違いなく、ヴェルディ伯爵やイシュトヴァーン王は、エヴァンゼリン達のパーティーに加盟するように要請してくるだろう。戦力とは集中させねば意味は無い。相葉ナギという存在を、エヴァンゼリン達のパーティーに組み込むのは戦術の基礎だ。そのくらいは予測がつく。


「では祝賀会での振る舞い方は……」


レイヴィアが声を潜める。


「愚鈍な少年を演じます。魔神を倒すこと以外に興味はない、と主張します。特に『権力には興味が無い』と周りにアピールしないといけませんね」


「ああ、なるべく愚物を装えよ。権力者どもに侮られるくらいが良い。使い安い駒だと思われておくのじゃ」


「相当、疲れる演技になりそうですね~」


ナギが嫌そうな声を出した。


「仕方あるまい。権力を持つ者と接触する時は、最大限に警戒するのが常識じゃ」


ナギは、仰る通り、と苦笑した。


ふいにドアが開いた。セドナが満面の笑みを浮かべてナギに声をかける。


「ナギ様! 遅れて申し訳ございません! 赤ワインの桃色果汁入り、氷入りです! それと林檎、サクランボ、枇杷、白葡萄を切り分けて、少量お持ちしました!」


「「早い! 優秀すぎる!」」


ナギとレイヴィアが同時に言い、セドナが不思議そうに小首を傾げた。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 63話とこの64話でいきなりナギが自分の事を「僕」って言い始めてるのですが、何か理由があるのですか? あと65話の途中もですね
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