悲壮
相葉ナギとセドナは、城内の一室にとおされた。
そこは20畳ほどもある瀟洒な部屋で、ナギとセドナはそこに滞在するようにと命令された。
「ま、僕の保護観察下にあるわけだから言い方が悪いけど軟禁だ。でも、牢獄にいるよりかはましだろ?」
勇者エヴァンゼリンは、そう言うと室内のソファに腰掛けた。
大魔道士アンリエッタと槍聖クラウディアも座り、ナギとセドナに対面のソファに座るように薦める。
「初めまして。私はクラウディア・フォン・ベルリオーズ。どうぞ、よしなに」
槍聖クラウディアが、凜とした声を出した。ナギとセドナは深く頭を下げて自己紹介する。
城勤めの侍女が、紅茶を運んできた。
「さて、少し聞いてもいいかな?」
勇者エヴァンゼリンが、長い足を組んだ。所作が優雅だが、それ以上に女の子なのに、どことなく男らしい。清潔感があり、颯爽とした雰囲気。
セドナが、ぽお~っとした視線をエヴァンゼリンにむける。
憧れの宝塚女優に会ったファンみたいだ。
「何を聞きたいのでしょうか?」
ナギが問うた。
「グシオン公爵についてさ。君が討ち取ったグシオン公爵について、できる限り詳しく話して欲しい」
エヴァンゼリンが、端麗な顔をナギにむけた。
「……情報は、貴重……」
大魔道士アンリエッタが、無表情で言う。
「うむ。私も知りたい。と、いうのは私達は、丁度、ナギ殿とセドナ殿がグシオン公爵と闘っていた時、貧民街で暴れた魔物と闘っており、グシオン公爵と闘えなかったのだ」
槍聖クラウディアが、真摯な口調で言う。
「もちろん、ナギ君が隠したい情報は言わなくていい。冒険者にとって自分の魔法、武技、スキルは秘匿事項だからね。ナギ君の言える範囲でいいんだ」
エヴァンゼリンが、鷹揚に言う。
「分かりました。まず、俺がグシオン公爵を最初に見たのは、空の上でした……」
ナギはグシオン公爵について話し始めた。
恩寵スキルである《食神の御子》については言及せずになるべく詳細に語る。
話し終えると、エヴァンゼリン、アンリエッタ、クラウディアは沈思した。
やがてエヴァンゼリンが口を開く。
「そうか。グシオン公爵はそうやって、君を罠に陥れたのか……」
「……策謀は、怖い……」
「ああ、時に謀略は、一個師団にも勝る威力を発揮する。ナギ殿、よくぞ討ち取ってくれた」
アンリエッタとクラウディアが言う。
「いえ、そんな……」
ナギは安堵して言った。グシオン公爵を倒した功績をきちんと認めてくれたのが嬉しかった。
「しかし、君の持つ津軽真刀流とは大した剣技だな」
エヴァンゼリンが、興味津々として灰色の瞳を輝かせた。
「そうですかね?」
ナギが照れる。
「ああ、公爵クラスの悪魔と互角に戦えるとは凄い剣技だ」
エヴァンゼリンが感心して言う。
「ええ、俺は凡人ですが、津軽真刀流は偉大な剣術流派であると自認しています」
ナギが心持ち胸を張る。
「うん、うん。さすが『僕と手合わせしてみたい』と、と意気込むだけのことはある」
エヴァンゼリンが、微笑した。
ナギの顔が青ざめ、セドナが当惑してナギを見る。
アンリエッタはぼんやりと、あらぬ方向に視線を送り、クラウディアは不思議そうにナギとエヴァンゼリンを交互に見る。
「エヴァンゼリン、なんのことだ?」
クラウディアが問う。
「僕はこの古都ベルンにきた初日に大通りで、ナギ君と目を合わせてね。その時に、ナギ君が言った台詞さ。『僕と手合わせしてみたい』ってね」
エヴァンゼリンが紅茶を飲みながら、猫のように目を細めた。
ナギは慄然とした。
(あの時の……)
エヴァンゼリンを初めて見たときのことを思い出す。
「思い出してくれたかい?」
エヴァンゼリンが言う。
「ええ……」
ナギは確かに『エヴァンゼリンと一度手合わせしてみたい』と言った。そして、その後エヴァンゼリンはナギに振り向いて、
『いつでも相手になるよ』
と、唇を動かした。
「今から、少し手合わせしようか?」
エヴァンゼリンが紅茶のカップを置いた。
室内に電流のような緊張感が走った。
クラウディアが、
「エヴァンゼリン」
と窘めた。セドナは怯えてナギとエヴァンゼリンを交互に見る。
「……それは断れますか?」
ナギが尋ねた。
「もちろんさ。でも、出来れば受けて欲しい」
エヴァンゼリンが灰色の瞳を真っ直ぐにナギに注ぐ。
「理由は?」
「強くなりたいから」
ナギの問いにエヴァンゼリンは即答した。
「僕は強くなりたい。魔神を倒したい。僕はそのためだけに生きている」
エヴァンゼリンの端麗な顔に数瞬、凄惨かつ悲壮な光がよぎった。
ナギは目を閉じ、やがて開いた。
「……分かりました。お手合わせしましょう」
「ありがとう」
ナギとエヴァンゼリンはほぼ同時に立ち上がった。




