剣技
ナギの目の前にグシオン公爵が降り立った。互いの距離は30メートルほど。人間達は慌てて逃げ惑い、街路には死体と負傷して横たわる人間、そしてナギとセドナ、グシオン公爵のみとなる。
「お初にお目にかかります。私はグシオンと申します。偉大なる魔神より、公爵の位階……」
刹那、ナギは神剣・〈斬華〉を抜いてグシオンに飛びかかった。横薙ぎの剣閃が、グシオンに襲いかかる。
グシオンはバックステップで剣閃を優雅に躱し、第二撃目の袈裟切りを自身の二の腕で防ぎ止めた。火花と衝撃音が弾ける。
「礼儀しらずですねぇ。名乗りの途上に斬りかかるとは……」
「なぜ、人間を殺した?」
ナギの黒瞳に怒りが弾ける。グシオンは神剣・〈斬華〉を腕で防ぎ止め、鍔迫り合いの状態に持ち込んだ。そして、ナギに醜悪な顔を近づけ、凶悪な笑みをナギに向ける。
「なぜ? 楽しいからに決まっているでしょう」
グシオンがおぞましい悪意を吐き出しながら嘲弄した。
「もう良い。死ね……」
ナギが鍔迫り合いを止めて、ゆるりと体から力を抜く。グシオンが力を外され、前によろける。転瞬、ナギは神剣・〈斬華〉を捻り混むようにして、グシオンの首めがけて斬撃をはなつ。
グシオンは地面すれすれに頭部を回避させた。そこにナギの二の太刀が、真っ向から振り下ろされる。
「チィっ」
グシオンが舌打ちと同時に横っ飛びに飛んだ。グシオンの翼に激痛が走る。左の翼が神剣・〈斬華〉によって斬り飛ばされていた。
同時にセドナが、《白夜の魔弓》で放った矢が襲いかかり、グシオンの左肩に貫通する。グシオンは呻き、大きく後退した。30メートルの距離を取る。
(やりますね……)
グシオンは素直に感嘆した。公爵位たる悪魔である自分の体を切り裂く刀。自分の体を貫通する弓矢。どちらも神の力を有している。
そうでなければ自分に負傷をおわすことなどできない。グシオンは油断なく身構えるナギとセドナに視線を投じた。
ナギの少女のような顔を見る。
(不思議な少年ですね。妙な技を使う)
力も速度も自分の方が遙かに上の筈だ。なのに妙な動きで、公爵級悪魔である私の攻撃力や防御力を削がれてしまう。
(そうか、人間が使う剣技ですか……)
バカに出来ない技だ。人間という虚弱な存在が、虚弱ゆえに練り上げた闘争の技法。人間は武器を使うことにより自身の数倍の力をゆうする獣を殺すに至る。だが、不思議だ。この少年の使う剣技はあまりに強すぎる。
グシオンはいぶかしく思った。異世界フォルセンティアには、地球ほどに卓抜した剣技がない。
それは異世界フォルセンティアには魔力があり、剣術よりも、魔法を使った闘争方法に人類が、より多くの時間を配分したからだ。
結果として、異世界フォルセンティアの剣技は、地球に比べて劣ったものとなり、その差異がグシオンを当惑させたのだ。
(ふむ。強敵は勇者エヴァンゼリン、大魔道士アンリエッタ、槍聖クラウディアくらいだと思っていましたが……)
グシオンは猿のような顔に、わずかに残念そうな笑みを浮かべた。
「このスーツは3番目に好みだったのですがね……」
グシオンは左肩に刺さった矢を手で引き抜いた。同時に、グシオンの口から咆吼がもれる。100頭の獅子が吠えるような轟音。大気が振動する。グシオンの体が膨張した。
頭部に4本の角がはえ、筋肉が隆起していく。グシオンの着ていたスーツがはじけ飛ぶ。
ナギとセドナの瞳に驚愕の光がゆらめいた。グシオンの体は巨大化し、3メートルの巨躯に変身した。岩のような筋肉が全身に張り巡らされている。
「鬼か……」
ナギは神剣・〈斬華〉を脇構えにした。まさにグシオンは鬼だった。
昔話にある鬼のごとき姿。圧倒的な魔力がグシオンの体から放出される。
グシオンの息が、白い蒸気のように口から吐き出される。そしてグシオンの手に、巨大な鉄の棍棒が出現した。
「楽しませて下さいよ~」
グシオンが双眸に殺意と残忍な笑みを浮かべた。同時にグシオンが突進した。一瞬で30メートルの距離がゼロになる。ナギめがけてグシオンが棍棒を振り下ろした。力まかせの豪速の一閃。ナギは神剣・〈斬華〉を斜めに振り、受け流した。
「ぐうっ」
一撃でナギの体に痺れが走る。棍棒が地面に激突して、コンクリートを破壊する。刹那、セドナが《白夜の魔弓》で矢を射放つ。グシオンの左目に矢が突き刺さる。
だが、グシオンは一切セドナに注意することなく、ナギのみを殺すことに的を絞る。グシオンは、棍棒を引き抜くと水平に薙いだ。暴風のような唸りをあげて棍棒がナギの体に襲いかかる。
ナギは後方に座り込むようにして回避し、そのまま地面を転がるようにして起き上がった。グシオンが棍棒の刺突を繰り出した。ナギが神剣・〈斬華〉で受け止める。だが、衝撃でナギは吹き飛ばされた。
「ナギ様!」
セドナが叫び。彼女はグシオンに矢を連射した。グシオンは3本の矢を肩と脇腹に受けながら、ナギに追撃する。ナギめがけて棍棒が再び振り下ろされる。ナギは神剣・〈斬華〉で棍棒を受け流した。
『 津軽真刀流:武技〈水葉〉 』
刀だけでなく、体全体を水と化して相手の攻撃を受け流す。
グシオンが舌打ちする。
(またですか。この少年の剣技は一体なんなのです)
致命傷になる筈の攻撃を逸らされる。どうにも、こちらが攻撃しずらい位置に常に移動する。
それは剣術の理術である〈間〉と〈間合い〉だった。
〈間〉とは時間。〈間合い〉は、距離と角度である。
剣術とはこれをうまく活用し、相手よりも有利にたつのが基本である。
だがそれを知らぬグシオンは苛立った。
グシオンは棍棒を袈裟切りに薙いだ。ナギがそれをまたも〈水葉〉で受け流す。だが刹那、グシオンは魔法による衝撃波を放った。強大な衝撃波がナギとセドナの体を吹き飛ばした。ナギとセドナの肉体に重い衝撃が打ち込まれ、内臓がゆれる。
ナギは肋骨を2本折り、セドナは全身を強打し、2人ほぼ同時に地面に叩き付けられる。
「手間をかけさせてくれましたね~」
グシオンが街路に倒れたナギとセドナに苛立った声を投げる。巨体化したグシオンが街路を踏みつけながらナギに迫る。恐竜が歩くような地響きがする。
ナギは〈斬華〉を握りながら俯せに倒れていた。ナギが口から血を吐き出す。
(まずい。あばらを2本やられた……)
このままでは死ぬ。……メニュー画面!
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『《食神の御子》:《冥王の使者》を発動します。ご武運を……』
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