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ピアノ

ピッコマで【異世界幻想記】のコミカライズが先行配信中です!!

どうか、お楽しみ下さい。

作画は【潮ナユタ先生】です。



罪劫王バラキエルとの午餐会(ごさんかい)に出た食事は、どれも美味かった。


 人質の少女たちの中で料理を担当する者たちがおり、彼女達が厨房で作ったそうだ。

 食後のデザートを食べ終わると、


「さあ、食べ終えたぞ。そろそろ本題に入らないか?」


 と俺が切り出した。俺の仲間達も食べ終わり、罪劫王バラキエルを見すえる。


「まだ食後のコーヒーを飲み終えていないが……。まあ良いでしょう」 


罪劫王バラキエルが、余裕の笑みを浮かべる。


「実は貴方達に提案があります」


 罪劫王バラキエルの言葉に俺を含めた全員の顔に緊張が走った。


「提案とは?」


 俺が代表して問う。


 俺はちょうど罪劫王バラキエルの真正面に座っている。バラキエルは、端正な顔に微笑を浮かべたまま、


「私が作曲した音楽を聴いて、批評をして頂きたい」


 と言った。


 思わず、俺たちは視線を交わし合った。 


「どういう目論見だ?」


 俺が問う。


「深い意味はありませんよ。貴方達の……、特に相葉ナギ殿の批評を頂戴したいのです」


 罪劫王バラキエルの言葉に俺は眉をひそめた。


「俺の批評を?」

「ええ」


 罪劫王バラキエルが、優雅な仕草でコーヒーを飲んだ。

 そして、カップを置くと口を開く。


「私は人間の造り上げた芸術を愛しています。ですが、自分の作品を人間に批評してもらう機会が少なくてね。捕虜にしたり、奴隷にした人間に批評して貰った事もあるが、それらは命惜しさの偽りの讃美が殆どでした」


 罪劫王バラキエルが、淡々とした声音で言う。


「だから、本心からの批評が欲しくて申し出た次第です」

「俺には特に批評して欲しいという理由は?」


 俺が問う。


「貴方が『来訪者』だからですよ。時折、この惑星にくる異世界の人間。彼らはこの惑星フォルセンティアに多くの文明と文化をもたらしてきた。その中にはもちろん、音楽、絵画、彫刻などの芸術もある。『来訪者』の批評を聞ける機会など滅多にあるものではない。だからです」


 罪劫王バラキエルが、再びコーヒーカップを傾けた。


「俺たちが批評をして得る利点は?」


 俺は静かな語勢で尋ねた。


「利点は特にありませんが、人質の少女たちが半数ほど死にます」


 罪劫王バラキエルが、錆色の瞳に悪意の笑みを浮かべた。

俺が激昂して怒鳴る寸前に、大精霊レイヴィア様が口を開いた。


「言っておくがのぉ」


 大精霊レイヴィア様の全身から、怒りを内包した魔力が蒸気の様に揺らめいた。


「貴様のくだらん音楽を聴いて批評するまでは良しとしよう。じゃがの、もし人質の少女たちの命を盾にワシらに自殺を強制してもムダじゃぞ」


 レイヴィア様は、あえて憎まれ役を買っている事が俺にも分かった。セドナもエヴァンゼリン達もそれが分かっているからこそ押し黙っている。


「ワシ以外のメンバーは誰しもが善人じゃ。それ故に人質の少女を盾にされれば身動きできなくなる者もおるやもしれぬ。じゃがワシは違う。 

いざとなれば人質の少女たちを見殺しにしてでもワシは貴様を討つ。一切の容赦も躊躇(ちゅうちょ)もせぬ。大精霊たるワシに人間としての倫理観を期待するでないぞ」


 レイヴィア様が、桜色の瞳に冷たい殺意を宿した。

 玉座の間の空気がレイヴィア様の魔力に当てられて振動する。


 だが、罪劫王バラキエルは涼しい顔のままであり、人質の少女たちもまた無表情のままだった。


 おそらく人質にされていた時間が少女たちの感覚を麻痺させてしまったのだろう。

 その事を思うと胸が痛む。


 同時にレイヴィア様に対しても申し訳ない気持ちになる。

 レイヴィア様の言うとおり、俺は人質の少女たちを助けたい気持ちが強い。

 レイヴィア様も含めて、全員が本音では助けたいのだ。


 だが、安易に隙を見せればこちらが討たれる。

 だから、あえてレイヴィア様は冷酷にも見える言葉を吐いて罪劫王バラキエルを牽制したのだ。


「そんな真似はしませんよ。それに人質を取る程度で貴方達を倒せるなどとは思っていません」


 罪劫王バラキエルは愉快そうに小さく笑う。

嫌な笑いだ。誓約がなければすぐにでも斬りかかっているのに。


「さて、話を戻しますが、どうします? 私の音楽の批評をしてくれますか?」

「本当に音楽の批評だけか?」


 俺が重ねて問う。


「ええ、それだけです」


 罪劫王バラキエルが言う。

 俺は口を閉じると、仲間達と視線をかわした。


 セドナ、大精霊レイヴィア様、メディア、勇者エヴァンゼリン、槍聖クラウディア、大魔導師アンリエッタ、全員が賛意の視線を返してくる。


 音楽の批評だけなら良いだろうという合意が出来た。


「分かった。批評をする。お前の作曲した音楽を聴かせろ」


 俺は吐息をつきながら言った。


「それは有り難い」


 罪劫王バラキエルは、嬉しそうに言うと椅子から立ち上がり、玉座の隣に置いてあるピアノに歩み寄った。


「これからお聴かせする曲名は『悲哀(ひあい)』といいます。人間はいつか必ず死ぬ。わずか80年ほどしか生きられない哀れで卑小な生物です。彼ら人間の死の恐怖と僅かな寿命しかない事に対する悲哀をテーマにしています」


 罪劫王バラキエルはそう告げるとピアノを弾き始めた。


ご感想、お待ちしております。


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