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午餐会(ごさんかい)

 扉の先には広大な広間があった。

 豪華な調度品に彩られ、二千人は優に収納できる広さがある。


 白い大理石の床と壁が、天井からの魔法光で白く輝いている。

 きざはしがあり、その上に玉座が置かれ、玉座の横には何故かピアノが置いてあった。 


(一見すると玉座の間だが、なぜピアノがあるんだ?)


 俺は疑問に思った。

 玉座の隣にピアノがあるのは奇妙な光景だった。


 広間の中央部には巨大な長方形のテーブルが置かれ、奥の座席に罪劫王バラキエルが座っていた。


 さらにその奥の部屋の隅には、人質にされた237名の少女たちが整然と立っていた。


 人質の少女たちは全員、純白のワンピースを身につけており、靴も白かった。

 全員虚ろな目をしており、一切の感情がうかがえない。


「ようこそ、私の午餐会ごさんかいへ。この日を心待ちにしていました!」


 罪劫王バラキエルが、椅子から立ち上がり優雅に一礼した。


「さあ、お座り下さい。まずは食前酒からどうぞ、それとも水が良いですか?」


 白い布がかけられたテーブルには白いテーブルクロスがかけられ、中央には花瓶が置かれ、花までいけられていた。


「とりあえず、座ろう」


 俺が小声で呟くとセドナやエヴァンゼリン達が頷く。


 『誓約』を交わして午餐会に出ると約束したのだ。出席しないと魂が損壊して死亡してしまう。


 それに断れば人質の少女たちの命が危うい。


 俺を含めた全員が着席すると、罪劫王バラキエルは満足そうに頷いて自らの着席した。


(いったいこれはどういう状況なんだろうか?)


 宿敵である罪劫王と食卓をともにしている。あまりの事に苦笑を漏らしてしまいそうだ。


午餐会の間は相互不可侵を『誓約』したので、互いに武力行使は一切できない。


 俺たちは罪劫王バラキエルに攻撃できない。その代わり罪劫王バラキエルも俺たちに攻撃できない。


(敵を前にして一切攻撃出来ないというのはどうにもストレスがかかるな……)


 やがて、10名ほどの人質の少女たちが給仕を始めた。


 俺たちの前にグラスを置き、食前酒と水を注いでいく。


 手慣れた所作だった。どうやら、日常的にこういう事をさせているらしい。


 そして、よく観ると全員が美しい顔立ちをしており気品があった。


「どうです。私の少女たちは優美でしょう」 


 罪劫王バラキエルが、道具を自慢するように言う。


「彼女たちは元々、この北の大地周辺にいた国家群の人間でしてね。全員、王族、貴族などの特権階級の令嬢ばかりです」


 罪劫王バラキエルが、隣に立つ少女の顔に指をはわせた。少女は無言でされるがままに罪劫王バラキエルに顔を触らせている。


「なにせ平民や農民階級だと文字すら読めない無教養な娘達が多い。色々と仕込むにもある程度の教養と知性がないと手間が掛かり過ぎますからね」


 罪劫王バラキエルが、得意気に語り出す。食前酒が注がれたワイングラスを手に取り、香りを楽しむと食前酒を口に含んだ。


「さあ、皆様もどうぞ、この食前酒は中々のものですよ。滅亡した王国の王が所持していた酒蔵の酒です。どれも品質は保証します」


 罪劫王バラキエルが、楽しそうに言う。


「毒が入っていないか心配で飲めそうにないな」


 俺は冷然とした口調で言った。


「おやおや、これは失礼を。では重ねて『誓約』で誓いましょう。『午餐会の飲食物に毒物を混入させない事を誓う。この禁を破った時は、罪劫王バラキエルは即座に死亡する』。さてこれで如何ですか?」


 罪劫王バラキエルが、淀みない声音で言う。


 俺は嘆息し、セドナやレイヴィア様、エヴァンゼリン達とアイコンタクトした。


 『誓約』をした以上は毒の混入はないだろう。


 一応、午餐会(ごさんかい)に参加するとこちらも誓った身だ。誓約が終わるまでは相互に武力行使はできない。


 罪劫王バラキエルと闘う為には午餐会を終わらせないといけない。つまり、食事を食べないといけないわけだ。


(仕方ない……)


 俺は水を飲んだ。


 セドナ、レイヴィア様、勇者エヴァンゼリンたちも水を飲む。罪劫王バラキエルの出した酒など飲みたくもない。


「さあ、愉快な宴を致しましょう。私は人間の作り出した芸術と文化を心より愛しているのですよ。食事もまた偉大な文化の一つです」


 給仕の少女たちが、料理を運んできた。



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