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招待

 二日後。

 罪劫王の城塞が地平線の奥に見えてきた。


 同時に城塞の前に布陣している魔神軍も視界に映る。

 偵察部隊の報告では、魔神軍の兵数は推定12万から14万前後だという。


 魔神軍の9割位は歩兵や、魔物に騎乗しているいわば陸軍兵。


 残りの1割は、翼竜ワイバーンや翼の生えた魔物で構成された空中戦を闘える空軍兵だ。


 豚頭人オーク食人鬼オーガ蜥蜴人リザードマン小鬼(ゴブリン)巨人(ジャイアント)


 骸骨兵スケルトン・ソルジャー骸骨騎兵スケルトン・ライダーなどのスケルトン系の魔物。


 死霊騎士デス・ナイト屍体兵ゾンビ・ソルジャーなどのゾンビ系。


 毒赤蜘蛛ポイズン・スパイダー大刃蟷螂ブレイダー・マントスなどの蟲系統の魔物。


 多様な魔物の混成部隊だ。あまりに多種多様な魔物がいすぎて、全ては把握しきれない。


 だが、一様に整然とした隊列を組み、戦意も旺盛なようだ。


 推定総数15万前後の大軍となるとさすがに凄まじい威圧感がある。地平線まで埋まっているような感覚だ。


「隊列を崩すな! このまま前進!」


 カイン陛下が、号令する。


 金髪碧眼の若き皇帝の声が戦場に響く。英雄の条件の一つに声に力があり、そして大きいという格言がある。


 力強くカリスマ性のある声は将兵達を鼓舞し、よく通る大きな声は戦場で遠くまで命令を伝える事ができるからだ。


 豊臣秀吉もナポレオンも、戦場では誰よりも大きくよく通る声を出して命令を下していたという。 


 カイン陛下の声はまさに連合軍の総司令官に相応しい声だった。


 金髪碧眼の皇帝の直属兵・不死隊ウルスラグナが、整然とした隊列を組んだまま馬上槍を構える。 


 不死隊ウルスラグナは、カイン陛下の治めるグランディア帝国最強の精鋭部隊だ。


 全員が一騎当千の猛者であり、不死隊ウルスラグナ総勢3000名の戦闘能力は、10万の兵力に相当すると言われている。


 純白の鎧兜とマントに身を包んだ不死隊ウルスラグナが、戦意に燃えて魔神軍と対峙する。


 中天に浮かぶ陽光が、不死隊ウルスラグナの純白の鎧を白く輝かせていた。


「ナギ殿、手筈通りにお願いします」


 カイン陛下が隣にいる俺に言う。


「了解です」


 俺は頷く。 


 事前に作戦は決めていた。


 まず、主戦力である俺、セドナ、大精霊レイヴィア様、メディア、融勇者エヴァンゼリン、槍聖クラウディア、大魔導師アンリエッタは可能な限り力を温存しておく。


 罪劫王以外の魔神軍との交戦は、カイン陛下と不死隊ウルスラグナ、パンドラ王女、そして連合軍10万が行う。


 俺とパーティーメンバーは、罪劫王とのみ交戦する。


 俺もパーティーメンバーも魔力量は桁違いに多いが、無限ではない。罪劫王以外の敵軍の将兵と戦い魔力を減少させ、そのせいで罪劫王に敗北したら目も当てられない。


 両軍の距離が縮まってきた。


 互いの陣営から戦鼓の音が響く。


 10万の連合軍が進軍する事で大地が揺れる。


 戦場が、燃えるような戦意に覆われた。


 敵味方双方の殺意と闘志が蒸気のように天地に満ちる。


 連合軍がさらに前進し、魔神軍との交戦が開始されるまさにその直前、タイミングを測ったように、突然、大宮殿の上に巨大な映像が浮かんだ。「なんだ?」


 俺は思わず目を見張り、巨大な立体映像に視線を投じた。


 魔法による投影映像だった。 


 人間そっくりの外見をした青年の映像が巨人のように宙空にたたずんでいる。


 全長500メートル程もある青年の魔法映像に、その場にいる敵味方双方の視線と意識が集中する。


 カイン陛下、パンドラ王女、不死隊ウルスラグナの兵士達、連合軍の将兵と魔神軍の将兵の視線と意識が青年の魔法映像に注がれる。


 もちろん、俺のパーティーメンバーもだ。


 巨大な魔法映像で宮殿の上空に投射された青年は、微笑を湛えていた。

 少し長めの金髪に錆色さびいろの瞳。

 端正な顔立ちで貴公子のようだ。


 年齢は20歳前後に見える。


 白を基調として黄金で装飾された貴族的な儀礼服に身を包んでいる。

 俺は青年の顔立ちを見て、なぜか強烈な不快感を感じた。

 彫刻のような美男子なのに、精神の歪みが顔に表れているような嫌な感じがするのだ。


「人類連合軍諸君、お初にお目にかかる。私は罪劫王バラキエルと申します」

映像の青年が、音楽的な美声を発した。だが、その美声さえもなぜか例えようもなく不快だった。


「我が居城・『憂悶宮殿カストロ・ボニアス』にようこそお越しくださった。心より歓迎する」


 罪劫王バラキエルが、地上に錆色の瞳をむけた。罪劫王バラキエルの視線は、あろうことか俺にむかって突き刺さった。


「ほう。貴方が『相葉ナギ』か」


 罪劫王バラキエルの不愉快な視線が俺にまとわりつく。珍しい昆虫や美術品を鑑賞するような奇怪な視線だった。


「『人類の救世主』にして、異世界からの『来訪者』。そして私のあるじ・魔神の『宿敵』……」


 罪劫王バラキエルが、舞台俳優のような口調で言う。言葉を切ったが、その所作が俳優の演技のようでわざとらしく不快だ。


「私は貴方を待っていた。今日はなんという佳日かじつであろうか……」


 罪劫王バラキエルが歓喜に震えるような声を出す。


「相葉ナギ殿。貴方に対してどのようなもてなしをするべきか、私はとても悩んだ。貴方にどうしても聞きたい事があったからね」


 罪劫王バラキエルが、錆色の瞳に奇怪な光を宿す。


(俺に聞きたい事?)


 一体なんだ?


「是非、我が居城『憂悶宮殿カストロ・ボニアス』に貴方と貴方のパーティーメンバーをご招待したい。だが、私が招いても警戒し、おいそれとは来てくれないだろう。よって少々陳腐な手段を執らせてもらう」


 罪劫王バラキエルが、明るい微笑を浮かべパチリと指を鳴らした。 


 錆色の瞳の罪劫王の映像の背後に、人影が映り込んだ。 

 奴隷の首輪と手枷をつけられた8歳から16歳前後の少女たちの映像だった。


 人数は200人程。全員、無表情でその瞳に生気は無い。生きる事を諦めた人間の瞳だった。

 豪華な広間の奥に、そんな人形のような少女たちが規則正しく整列して立っていた。


「ゲス野郎め」


 俺の胸に殺意が渦巻いた。


 セドナ、大精霊レイヴィア様、メディア、勇者エヴァンゼリン、槍聖クラウディア、大魔導師アンリエッタ、カイン陛下、パンドラ王女も怒りの視線を罪劫王バラキエルに突き刺す。


 俺の小さな声量でも、魔法で音波を拾っているのだろう。罪劫王バラキエルは俺の声を確実に聞いていた。


 その証拠に、低い笑声を俺の発言に対して漏らしている。


「いわゆる人質という奴だ。まあ古典的だが君たち人間には有効だろう? 陳腐な手段という奴は有効だからこそ常套手段として使われるし、そうである故に陳腐となる。まあ、本来は私の美学に反するから、こういう手段は使用したくなかったのだがね」


 罪劫王バラキエルは瞳を閉じて首を振る。


「だが、私は芸術家であり、同時に紳士だ。だから、礼儀に則った事しか要求しないよ。どうか安心して欲しい」


 罪劫王バラキエルが、論理の破綻した言葉を口先から紡いだ。人質を取っておきながら紳士とは笑わせてくれる。


 それ以上に不愉快なのは、この罪劫王バラキエルという奴はおそらく本心から言っている所だ。


 自分は紳士であり、礼儀に則っていると本気で考えている。


(狂ってやがる)


 頭に血が上る。殺意で血が沸騰しそうだ。だが、その時、ふと爺ちゃんの思い出が脳裏をかすめた。


『ナギ。闘う時に冷静さを失うな。怒りに身を任せるな。敵を殺す時でさえも水の如く冷静でいろ。首を刎ねる時でさえも心を微動だにさせるな。怒りは迷いを生む敵と思え』


 俺は爺ちゃんの言葉を思い出して腹の底から深く呼吸した。


 二度の呼吸で冷静さを取り戻すと、罪劫王バラキエルの巨大な映像にたいして視線を投じる。


「さっさと要求を言え」


 俺が言うとカイン陛下が、


「ナギ殿」


 と小さいが鋭い声を出した。


 カイン陛下の懸念は分かる。


 罪劫王バラキエルが、『人質の命を救いたければこの場で自害しろ』と言うのを恐れているのだろう。


 だが、要求を聴かないと膠着するだけだ。


「私の午餐会ごさんかいに相葉ナギとそのパーティーメンバーを招待したい。ぜひ我が憂悶宮殿カストロ・ボニアスにお越し頂きたい。その間、私の麾下の軍勢は一切の攻撃を停止させる。もちろん、私も貴方達を攻撃しない」


 罪劫王バラキエルが、舞台俳優のような大仰な声音でいう。自分に酔うような声だった。





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