普段着
前線基地の中で、俺とエヴァンゼリンは並んで歩き続けた。
さて、どうしようか?
エヴァンゼリンとデートをするのは良いが、前線基地の中でデートというのは難しい気がする。
当たり前だが、前線基地は軍事施設だ。
こうして歩いていても視界に映るのは、鎧兜に身を固めた重装備の騎士達。
建造物を作る為に忙しく働く工兵。
あとは軍馬とかである。
「……ごめん、ナギ。ボクから誘っておいてなんだけどデートするには不向きな場所だね」
エヴァンゼリンは端麗な顔に恥ずかしそうな表情を浮かべる。
いつも凜々しいボーイッシュな美少女が見せる照れ笑い。
うおっ、可愛い。なんて強烈な破壊力なんだ。
心臓がドキドキする。
意識するとなんだか緊張してきた。
女の子とデートどころか、会話すらろくにした事がないからどうして良いか迷ってしまう。
「それに服も……、つい癖で普段着のままだったよ。女の子失格だよね……」
エヴァンゼリンの着ている服は確かに普段着だった。
絹製のシャツ、男性用のズボン。
足は革靴。
動きやすさを重視しており、すぐに戦えるよう動きやすさを重視している服装だ。
エヴァンゼリンが、自分の胸に手を当ててシュンとうつむく。
その仕草が、やたらと愛らしい。
「その……、良いんじゃないかな? 十分可愛いよ」
俺は素直に本心を言う。
「そ、そうかな?」
「うん。そういう服装の方が俺は好きだ」
「そ、そうなのかい?」
エヴァンゼリンが嬉しそうに灰色の瞳を輝かせる。
「うん。エヴァンゼリンらしくて良い。それにエヴァンゼリンは元々、もの凄く綺麗だから、お洒落をする必要がないくらいだよ」
実際、エヴァンゼリンは類い希な美貌の持ち主なので、こういう普通の服を着ているだけでも華がある。
「……、そ、そう」
エヴァンゼリンはまた顔を赤らめてうつむいた。
しまった。
俺はまた失言でもしたのか?
そのまま暫く歩くが、エヴァンゼリンはずっと顔を赤く染めたまま無言でうつむいている。
視線すら合わせてくれない。
やばい……。
無言でいるのが辛い。
エヴァンゼリンは怒っているのだろうか?
とにかくこの空気を変えたい!
俺は脳味噌をフル回転させて考えた。
デートと言えば、何をするんだっけ?
アニメや漫画だと恋人たちは、映画館、遊園地、カラオケ、ゲームセンターとかで楽しく遊んでいた
けど生憎この世界にそんなもんはない。
俺は必死で過去に読んだマンガやアニメ、映画、小説などを思い出してデートプランを考える。
そこでふと閃いた。
一つだけある。
「あのさ、エヴァンゼリン。良かったらお菓子でも食べないか? 俺が作るからさ」
恋人が、スイーツを食べるのはデートの定番だ。
そして、俺の得意分野でもある。
「うん。ぜひ食べたい」
エヴァンゼリンが、嬉しそうに灰色の瞳を俺にむけた。
良かった。
ようやく俺の目を見てくれた。
でも、女の子って甘いモノが好きなんだなー。
まあ、俺も大好きだけどね。
◆◆◆
身分の高そうな騎士に話しかけて、お菓子を作りたいから少しだけ食料を分けて欲しいとお願いした。
「少しといわず、いくらでもお使い下さい」
50歳くらいの騎士はそう言って食糧倉庫に入れてくれた。
莫大な量の食料があり、食材も豊富だった。
お菓子を作る材料を分けて貰い、調理場も貸して貰った。
巨大な調理場では多くの料理人が働いていた。
なにせ数万人の食事を賄うのだから、料理人が多いのは当然だ。
俺とエヴァンゼリンは端っこの方をお借りして料理を作り始めた。
「その……、ボクは何を手伝えば良いかな?」
エヴァンゼリンが尋ねる。
「エヴァンゼリンは料理ができるの?」
「……ごめん。何も出来ない……」
エヴァンゼリンが、がくりと頭をたれる。
なんだかすごい落ち込んでいる。
こんなに落ち込んだエヴァンゼリンを見るのは初めてだ。
「そ、その言い訳かもしれないけど聞いて欲しい!」
エヴァンゼリンが勢いこんで喋りだした。
「あ、ああ、どうぞ」
俺は少しだけ面くらいながら聞く。
「料理をするのが嫌いなわけじゃないんだ。でもボクはなぜか料理だけは苦手で……」
「そうなのか。良いんじゃないかな? 人には向き不向きがあるし」
「そうなんだよ! それにボクは魔王軍とずっと戦いつづけてきたから料理を覚えるような時間もなかったし!」
「そうだよな。確かに魔王軍と戦っていたら料理をする暇なんてないよな」
俺はウンウンと頷く。
だが、ふと灰金色の髪の勇者は気まずそうな顔をして押し黙った。
どうしたのかな?
やがて、数秒の沈黙の後エヴァンゼリンが口を開く。
「……ごめん。嘘をついた。本当は魔王軍との戦い最中でも料理を覚えようとすれば覚えられたと思う……」
「そうなの?」
俺が問うと、エヴァンゼリンがコクリと頷く。
「料理はいつもクラウディウアにして貰っていて……。それに甘えて料理を覚えるのを怠った。ごめんなさい……」
灰金色の髪の勇者が、犯罪者が自白するような顔で言う。
嘘がつけないタイプなんだなー。
こういう所が『勇者』って感じがする。
「ボクは料理のセンスが壊滅的で……。作った事もあるけど野菜もまともに切れなくて……。しかも、いつも変な味になってしまって食材を無駄にしてしまうんだ……」
エヴァンゼリンによると、いつもクラウディアばかりに料理を作らせて悪いと思い、料理を覚える為努力をした時期もあったそうだ。
だが、その度に手酷く失敗して、ヤル気を無くしてしまったらしい。
「本当に気にしなくて良いよ。さっきも言ったけど人には向き不向きがある。それに俺は料理が好きだからな」
「そうか。……すまない」
エヴァンゼリンが、恥ずかしそうに言う。
「まあ、そこで座って見ていてくれ。すぐに作るからさ」
俺は料理に取りかかった。
作るのはチーズケーキだ。
まずは型にビスケットを砕いて下地を作る。
そして、クリームチーズ、砂糖とレモン汁を攪拌して混ぜ合わせる。
隠し味に少しだけ葡萄の果実酒を入れる。
そして、卵と薄力粉を攪拌。
その後、生クリームを作る。
型に流し込んでオーブンで焼く。
オーブンはパンを焼くための巨大なヤツなので少し火加減と時間にきをつける……と。
「よし。出来た」
「す、すごいな……」
エヴァンゼリンが、驚いた顔をした。
褒められると照れるな。
まあ、自分で言うのも何だか良い出来映えだ。
「基地内で食べるのも味気ない。景色の良い場所を探そうか」
俺の提案にエヴァンゼリンが頷いた。
◆◆◆
俺とエヴァンゼリンは飛行魔法で飛翔していた。
前線基地から離れ、草原地帯を眼下に見下ろしながら景色の良い場所を探す。
二十分後、湖が見えてきた。
陽光を反射して、鏡のように水面が煌めいている。
俺とエヴァンゼリンは湖畔に降り立った。
「綺麗な湖だね」
エヴァンゼリンが、感心しながら湖を眺める。
ルリ色に輝く湖面をしており、鏡のように空を映し出している。
こんな場所があるとは運が良い。
草原の中にポツンと佇むルリ色の湖。
ロケーションとしては最高だ。
俺は樹霊魔法を発動させた。
地面から木が生えて、木製のテーブルと椅子が作られる。
「さて、湖面を見ながらチーズケーキを食べようか」
「うん」
エヴァンゼリンが着席する。
俺は宝物庫から先程作ったチーズケーキを取り出した。
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