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デート

 その後、補給や編成について軍議を重ねた。 


「北進して、魔神の占領地域に……、仮に『魔神領』と呼称しますが、魔神領に北進する我が軍の戦略目的は、罪劫王の城塞の攻略です」


 カイン陛下が、緊張感をはらんだ声を出す。

室内の空気が張り詰めた。


「今まで倒した罪劫王は7体か、次は8体目になるのう」


 大精霊レイヴィア様が、桜金色ピンク・ブロンドの髪をクルクルと指で弄びながら言う。

 気が抜けないな。罪劫王はどれも手強かった。

 特に罪劫王バアルと罪劫王ディアナ=モルスは本当に厄介だった。


「罪劫王の城塞の位置はこちらです」


 カイン陛下が、テーブルの上に地図を広げた。


「どうも、敵は情報を隠匿する意図がないようで、こちらの偵察隊はかなり正確に位置を把握できました」

「つまり魔法などで城塞の位置を隠蔽するなどの行為をしなかったという事ですか?」


 勇者エヴァンゼリンが意外そうに言う。


 自軍の情報を出来る限り隠匿しようとするのが、戦争の常套手段なのに、この罪劫王は隠蔽する意図がなかったという事だ。  


「余程自分自身の強さに自信があるのでしょうね」


 俺が発言すると、全員が賛同の色を見せた。


「信じがたい程の愚か者でない限りはそうやろうね」


パンドラ王女が、肩をすくめた。

 

俺は地図に視線を投じた。

 魔神領の南端に罪劫王の城塞があった。これはこの城塞を攻略しないと北進は出来ない。

 無視しして迂回したら、背後をつかれて挟撃されるか、もしくは補給線と連絡線が遮断されてしまう。


「城塞は必ず攻略しなければなりません。10万の精鋭軍が集結し、補給が整うのは10日後。10日後には北進します」


 カイン陛下が宣言した。

 俺を含めた全員が頷く。


「10日後まで、私たちは何をすれば良いでしょうか?」


 クラウディアが問う。


「ナギ殿達は、どうかゆっくりと休息なさって下さい。主戦力たる皆様には英気を養って頂きたい」

「了解しました」


 俺が答える。

 休むのも戦士の仕事だ。

 その後、1時間ほど軍議をした後に解散した。



◆◆◆




「10日間の休みか。何をしようか」 


 天幕からでると俺は伸びをした。


「悪いがワシは寝させてもらう。疲れたわい」


 大精霊レイヴィア様が、欠伸をもらした。


「お疲れさまです」


 俺が労りの言葉を出す。ご老人には親切にしないとね。


「誰が老人じゃ、無礼な」


 レイヴィア様が、俺にデコピンした。

 うおっ。なんで分かった?

 読心術?


「心など読まんでも、顔に出ておる。今後は易々と心を読まれないように注意せい」


 レイヴィア様は、そういうと兵士に案内されて自分の天幕に行った。

 俺たち一人一人に天幕があてがわれているのだ。


「私も休ませてもらう。ではまた」

「……私も一人になりたい」


 槍聖クラウディアと大魔道士アンリエッタも、自身の天幕に向かった。 残るは、俺、セドナ、勇者エヴァンゼリン、メディアの四人となった。


「ナギ様、私は少しエヴァンゼリン様とお話したい事があります。ですから先に天幕に行っていて頂けませんか?」


 セドナが、俺に言う。


「うん? まあ、かまわないが……」


 セドナは一礼する   


「セドナ、ボクに話ってなんだい?」


 エヴァンゼリンが、セドナに問う。


「あちらでお話ししましょう、エヴァンゼリン様」


 セドナが、にこやかにエヴァンゼリンの手を取り、この場を離れていく。

 何を話し合うつもりなんだろう?


 少し興味がわいて、思わずセドナに声をかけようとした。

 だが、俺が口を開く直前、メディアが


「ナギ様、天幕に行きましょう」 


 と俺の手を握った。


「いや、セドナに少し話が……」

「そりゃっ!」


 メディアが、ローキックを俺の太ももに叩き込んだ。

 痛い!

 的確に急所に打ち込みやがった。


「どうした? なんでいきなりローキックするんだ?」


 いくらなんでも凶暴すぎるだろ。


「良いから行きますよ。本当にナギ様は、こういう時に気が利かない……」


 メディアが、呆れた表情で首を振り、俺を引き摺るようにして天幕に向かった。






 俺の専用の天幕に入ると、メディアは、


「じゃあ、私はこれで失礼します。すぐにエヴァンゼリンさんが来るでしょうから、身だしなみを整えておいて下さい」

「エヴァンゼリンが? 作戦会議か? なら、他のメンバーも呼んだ方が……」

「違います! 作戦会議ではありません! 少しは気を使え! 女性に気配りしろ!」


 メディアが、俺にビシリと指をさす。


「こらこら、人を指で指すな。お行儀が悪いぞ」

「そんな事は、どうでも良いです。とにかく、エヴァンゼリンお姉様とセドナお姉様に優しくしてあげて下さい」

「いや、いつも優しく対応しているつもりだけど……」


 俺が言うと、メディアは頭痛をこらえるような表情をした。

 そして溜息を出しながら首をふる。


「いえ、もう良いです……。とにかく私が言った言葉を必ず実行するように!」


 そう言うとメディアは天幕から出て行った。

 おいおい、何を怒ってるんだ?

 俺はわけが分からず、椅子に座った。

 やがて、メディアの言うとおり、エヴァンゼリンが俺の天幕にきた。


「や、やあ、ナギ。少し良いかな?」


 エヴァンゼリンが、頬を薄く染めていた。


「ああ、もちろん。どうかした?」


 俺が問う。


「その……、良かったらボクとデートしないか?」


 灰金色の髪の勇者の提案にナギは数瞬戸惑い、やがて、


「分かった」


 と答えた。



◆◆



 

 俺とエヴァンゼリンはデートをする事にした。

 なんでもエヴァンゼリンは、セドナに俺とデートをするようにアドバイスされたそうだ。

 前線基地の中を俺とエヴァンゼリンは歩いていた。


 時折、兵士達が俺とエヴァンゼリンに対して敬礼してくる。


 エヴァンゼリンは慣れた仕草で敬礼で返し、俺もぎこちないが、エヴァンゼリンを真似て敬礼を返す。

 兵士達は俺とエヴァンゼリンが敬礼を返すと、非常に嬉しそうな顔をしていた。


 そのまま暫く歩き、人気が少ない場所にくるとエヴァンゼリンが口を開く。


「その……、ナギはさ。パンドラ王女殿下が好きなのかな?」


 隣を歩くエヴァンゼリンが、わずかに怯えた顔つきで俺を見る。 


「え? なんで?」


 俺は純粋に当惑した。そんな事があるわけないじゃないか。パンドラ殿下は、文字通りお姫様だぞ? 身分の違いは当然として、パンドラ殿下とは知人でしかない。


「な、ないよ! なんでそんな風に思ったの?」


 俺が驚いて問う。


「でも、『パンドラ殿下は命に代えても俺がお護りします』って……」


 エヴァンゼリンが、灰色の瞳を俺にむける。なにやら、彼女の瞳に疑惑の色が宿っている気がする。


「それは戦友だからだよ! パンドラ殿下はまだ幼いのに前線で闘うという決意をされている。なら戦友として護らないと! それに不敬な言い方かもしれないがパンドラ殿下はまだ幼い。『男は子供を護る義務がある』。俺はそう祖父に教わった!」


 俺は焦って大声で弁明する。


「そ、そうか。そうだよね……。ごめん、ボクが早とちりをした」


 エヴァンゼリンは安堵の吐息をついた。


「でもさ、あんまりああいう事をいうと女の子を誤解させるから言わない方が良いと思うけどな?」


 エヴァンゼリンは少し怒ったような口調で言う。


「? え、誤解? なんで?」


 さっぱり訳が分からない。


 エヴァンゼリンは肩をすくめた。そしてヤレヤレと首をふる。


「いや、いいんだ。ナギはもう何を言っても無駄だろうし」


 無駄とは少し言い方がキツくないかな?

 なんだか少し落ち込んだ。


「でもさ、『命に代えても俺がお護りします』っていうのはカッコイイセリフだったよ。ボクも言われてみたいものだね」


 エヴァンゼリンが、からかうような表情を浮かべた。


「いつでも言うし、いつでも実行するよ。俺はエヴァンゼリンがピンチになったら、命に代えても護る」


 当然だ。エヴァンゼリンは大事な仲間だ。


「あ、……う……」


 エヴァンゼリンは頬を染めた。そして、モジモジと胸の前で指をあわせる。エヴァンゼリンがこんなに動揺するなんて珍しいな。


「どうした? 大丈夫か?」

「な、なんでもない……。奇襲攻撃に少し驚いただけだよ」


 エヴァンゼリンが、小声で言う。


「奇襲攻撃ってなんだ?」


 俺が尋ねるとエヴァンゼリンは耳まで真っ赤になり、そっぽを向いてしまった。

 どうしよう。俺は嫌われてしまったのだろうか?

  

 

 


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