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皇帝からのワイン

「ところで、そちらのお嬢さんは?」


 カイン殿下が、メディアに碧眼をむける。


「初めて、見る顔やねぇ」


 パンドラ王女も、メディアに視線を投じた。

 そうか、カイン殿下とパンドラ王女は、メディアと面識がなかったな。


(これは、説明が必要だな)


 と、俺が思った時、メディアが、カインとパンドラ王女の前に進み出た。


 ツインテールの黄金の髪と、美しい紫瞳をした8歳ほどの外見の少女が、ミニスカートの裾をつまみ、優雅に一礼する。


「初めまして。メディアと申します。ナギ様の忠実なる従者サーヴァントでございます」


 完璧な宮廷の礼儀作法で、メディアはカインとパンドラに答える。

 カインとパンドラ王女は、好感を持ったようだ。


(どこが、忠実なんだよ!)


 と、ツッコミたいが、あえて言わず、俺はフォローした。


「カイン殿下、パンドラ殿下、メディアは信用できる人物です。俺が保証します」

「ボクも、保証するよ。メディアは、大切な仲間だ」


 エヴァンゼリンも同意してくれる。


「メディアの力がなければ黒曜宮マグレア・クロスの攻略は不可能じゃった。これからの魔神との闘いにおいて、メディアは欠かすことの出来ない重要な戦力となるじゃろう」


 レイヴィア様も、擁護してくれた。


「ナギ殿たちが、そう言うのでしたら、私は信じるのみです」

「メディアちゃん、よろしゅうな」


 カイン殿下とパンドラ殿下が、微笑する。

 ひとまず、味方だと納得してくれたようで有り難い。 

 メディアについて詳しく話すとなると、女神ケレス様の事まで説明しなくてはならなくなる。


 しかも、かつてはメニュー画面という無機物だったという、荒唐無稽な話までしなくてはならない。


 とてものこと、俺には全てを上手く説明できる自信がないから助かる。


豪華で巨大な天幕に通されると、俺たちはテーブルについた。

 赤い絨毯が敷かれ、高価な調度品が置かれている。


 一目で精鋭とわかる近衛兵が、五名ほど彫像のように立っている。

 美しい侍女たちが、俺たちの前に水の入ったコップとお菓子を置いてくれた。


黒曜宮マグレア・クロスを攻略されたばかりなのに、申し訳ありませんが、軍議を行いたいと思います。よろしいでしょうか?」


 カイン殿下が、俺たちを見る。 

 俺は頷いた。 

 今は戦争中だ。情報の連携は素速く行わないといけない。


「もちろんですよ。カイン殿下。今は戦時中です」

「ナギ様。じつはカイン様は、もう『殿下』ではないんよ。すでにグランディア帝国の皇帝に即位されたんよ」


 パンドラ殿下が説明してくれた。


「皇帝に即位されたのですね」


 じゃあ、カイン『殿下』ではなく、カイン『陛下』とお呼びしないとな。


「若輩者ではありますが、我が父カスタミア陛下の名に恥じぬように、責務を全うするつもりです」


 若き皇帝が答えた。

 父親が亡くなったばかりなのに、内心の苦悩はおくびにも出さない。

 本当に好青年だな。

 なんか、友達になりたくなってきた。


「まずは、黒曜宮マグレア・クロスの内部での事を、報告して頂ければ幸いです」


 カイン陛下が、丁重な姿勢で聞いてくる。

どう説明したものか……。

 色々な事がありすぎて、俺では上手く説明できる自信が無い。


「ナギ。私で良ければ代わりにカイン陛下とパンドラ王女殿下にご説明するが……」


 槍聖クラウディアが、説明役を買って出てくれた。

 助かる。


「頼む」


 俺が、そう言うと、クラウディアが頷き、カイン陛下とパンドラ殿下に説明をはじめた。

 クラウディアが、説明を終えると、カイン陛下とパンドラ殿下は、安堵の表情を見せた。


「では、罪劫王ディアナ=モルスを見事に討伐されたのですね?」

「凄いことやわ」


 カイン陛下と、パンドラ殿下が、喜色を見せる。


そして、カイン陛下とパンドラ殿下は、俺たちに対して、頭を下げた。


「ナギ殿、そして皆様、ありがとうございました」

「ナギ様御一行の功績は、比類無きものです。ホンマに感謝や」


 グランディア帝国の皇帝と、ヘルベティア王国の王女が、俺たちに深く頭を下げたまま言う。

 臣下の身である槍聖クラウディアは、珍しく慌てた。

 臣下の身で、主君に頭を下げられたら、困惑するだろう。


「頭を上げて下さい。俺たちは当然の事をしただけですから」


 俺が言うと、金髪碧眼の若き皇帝は、俺を真っ直ぐに見た。


「いえ、いくら感謝しても足らぬことです。ナギ殿、貴方は罪劫王ディアナ=モルスを討ち取って下さった。我が父カスタミア陛下の仇を取って下さったのです……。この恩義は終生忘れません……」


 カイン陛下の碧眼には、うっすらと光るものがあった。

 そうだった。


 罪劫王ディアナ=モルスとその一党は、彼の父親の仇だった。

カイン陛下は、侍女たちに目配せした。

 侍女たちが、ワイングラスを俺たちの前に置き、赤いワインを注ぎ込む。


 芳醇で、熟成された高級ワインの匂いが心地良く室内に広がっていく。


 匂いだけで、極上のワインだと分かる。

 しかし、このタイミングで、なぜ酒を出すんだろう?


『この赤ワインの意味は?』


 俺は、クラウディアに念話テレパティアで聞く。

 この世界の宮廷作法に一番詳しそうなのがクラウディアだからだ。


『武功を上げた人間に対して、貴人が示す礼儀だ。ありがたく頂戴すれば良い』


 ああ、なる程。

 そういう風習なのか。


 そういえば、古代ゲルマン人やフン族も、武功を上げた人間に族長が、酒を振る舞うという風習があったな。


 チラリと、俺の右隣に座るセドナを見る。


 セドナのワイングラスには、林檎ジュース。 

 そして、メディアにも、林檎ジュースが注がれていた。

うん。 

 ちゃんと年齢を確認しているな。

 さすがは皇帝陛下の侍女たち、仕事ができる。


皇帝カインが立ち上がり、ワイングラスを掲げた。

 パンドラ王女も立ち上がり、同様にワイングラスを掲げる。


 クラウディア、エヴァンゼリン、レイヴィア様が立ち上がる。

 俺もそれに習って立ち上がり、ワイングラスを掲げた。


「英雄ナギ、そして、勇者エヴァンゼリン一行に神々の恩寵があらん事を。そして、私は神々に誓う。私、カイン=ブレス=ローグ=グランディアは、英雄相葉ナギと、勇者エヴァンゼリン一行への恩義を未来永劫忘れぬ事を誓う」


 この場にいる最上位の位階の持ち主である皇帝カインが音頭を取る。

 全員が、ワイングラスを傾けた。

 極上の赤ワインが、喉を通り、とろけるような喉越しを感じる。

 良い酒だ。

 これは上手い。


 脳内で、オーケストラが演奏しているような高揚感が湧き出る。

甘くとろけるような味わいと同時に、ほのかな渋みがある。

 マンゴー、桃、洋ナシの香りと味わいが、完全な調和をもって舌に響く。


『ナギ様。一応、《食神の御子》で、このワインを登録しておきますね』


メディアが、念話テレパティアで、気の利いた事を言う。


『ああ、頼む』

『ワインを製造したら、私にも樽を10個下さい』


 いや、自分が飲みたいから、《食神の御子》を発動させたのかよ。


 しかも、樽10個ってなんだよ。

 お前は、八岐大蛇か?


『お前は幼女だから、酒はダメ』

『酷い! あんまりです!』


 メディアが、俺を睨む。


『ダメものはダメだ。お前みたいな幼女に酒は飲ませられん。大人の外見になるまで待ちなさい』

『大人って……、私は8歳児の外見のまま永遠に成長できませんけど……』

『じゃあ、永遠に酒は禁止な』

『ブギー!! 鬼、悪魔、人でなし!!』


 メディアが、念話テレパティアで叫ぶ。

 このワインは本当に美味いなァ。

幼女の叫びと共に、俺はワインを楽しんだ。


お読みいただき、ありがとうございました!

少しでも「面白い!」「続きが読みたい!」と、思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです。

よろしくお願い申し上げます。

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