表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

180/198

カインとパンドラ王女

 黒曜宮マグレア・クロス全体が鳴動し始めた。


 罪劫王ディアナ=モルスの死によって、黒曜宮マグレア・クロスが、存在する力を失ったのだ。


 地震のように室内が揺れ、亜空間が歪み出す。

 大気が振動し、ナギ達の肌を打つ。



「亜空間に綻びが出たのう」


 大精霊レイヴィアが、あたりを見渡す。


黒曜宮マグレア・クロスが、消滅するのですか?」


 槍聖クラウディウアが、桜金色ピンク・ブロンドの髪の大精霊に問う。


「ああ、術者である罪劫王ディアナ=モルスが、死滅したからのう。これだけの大質量魔導建造物を維持するのは不可能じゃよ。もうじき、完全に崩壊して、消滅するわい」

「それって、大丈夫ですか? 俺たちは巻き込まれて死んだりしませんか?」


 緊張した声をナギは出した。


「心配いらぬ。ワシが、お前らを魔法で守りきってやるわい」


 大精霊レイヴィアは、微笑した。


「頼もしいです」


 勇者エヴァンゼリンが、安堵の色を美貌に浮かべる。


そう話している間も、振動が激しくなり、もはや立っているのも難しい程に、空間の全てが揺れ動いていた。


「『聖浄アギエスイクノラウル』」


 大精霊レイヴィアが、魔法を唱えた。

 青い魔法光が輝き、球体の光が、ナギたちを包み込む。

結界魔法の一種で、球体内部にいる存在を保護する魔法だ。

 やがて、轟音が響いた。

 同時に、膨大な赤黒い光が弾ける。


「!」


 ナギ達は思わず眼を閉じた。

あまりに膨大な光量に、眼を開けている事ができない。

 耳を聾する轟音とともに、黒曜宮マグレア・クロスが崩壊した。







 気がつくと、ナギたちは草原地帯にいた。

 黒曜宮マグレア・クロスは消滅し、消滅の衝撃からは、大精霊レイヴィアが守りきってくれた。


 ナギは、あたりを見渡した。

 黒曜宮マグレア・クロスに突入する前の風景だ。 


 ふと空を見上げる。

 青空が広がり、太陽が燦然と輝いている。

 陽光が、草原地帯に降り注ぎ、風が吹いていた。

ナギは、思わず深呼吸をする。

 空気が清らかだった。


 間違いなく、黒曜宮マグレア・クロスの外の世界。

 つまり、正常な普通の空と大地だ。


「ようやく出られた……」


 ナギが、吐息をつく。

 風がそよぎ、草木の匂いがする。


「久しぶりの大地ですね」


 セドナが、嬉しそうに大地を足踏みする。


「なんだか、すごく懐かしいよ。本物の土や草の匂いだ」  


勇者エヴァンゼリンが、大地に膝をついて、手で土と草に触れる。

 ナギも、大地に片膝をついて、両手で草と土に触れた。

 草と土の感触が、ナギの手につたわる。


 ふと、気付くと、草花があった。

 勇者エヴァンゼリンが、嬉しそうにピンク色の花弁にそっと触れる。

灰色の瞳の勇者の顔がほころぶ。

 とても楽しそうに草花を愛でる姿に、ナギは思わず見惚れた。


「草花が好きなのか?」


 ナギが問う。


「うん。というか、自然が好きなんだ。ボクは元々農民だったからさ。土の匂いや植物が好きでね」


灰金色の髪の少女が、少し恥ずかしそうに微笑する。


「そうか……」

「魔神を倒したら、また作物を育てたいな……」


 美貌の勇者の顔に、遠い未来を思い描いた。


「必ず出来るさ。さっさと魔神を倒そう」


 ナギが、エヴァンゼリンの肩をたたく。


「うん。そうだね」


 美貌の勇者が、いつもの快活さを取り戻した。

 その時、馬蹄の音が響いた。

 ナギとエヴァンゼリンは立ち上がり、後方を振り返る。


「あの軍勢はなんでしょうか?」


 セドナが、優れた視力で、遠方から近づく大軍勢を見た。


「……ずいぶん多い。数万単位」


 大魔導師アンリエッタが、赤瞳でこちらに迫る軍隊を見る。

馬蹄の響く音が、地鳴りのように響く。

 鋼鉄製の鎧兜を身につけた数万の軍団が動く振動で、大地が揺れる。


「連合軍の軍旗だ」


 槍聖クラウディアが、指摘する。

 こちらに近づく大軍団は、連合軍の軍旗を掲げていた。


 連合軍とは、五つの大国、

 ヘルベティア王国

 アーヴァンウ王国

 エスガロス王国

 オルファング王国

 グランディア帝国


 そして、大陸にある人間族の国家群による精鋭軍だ。


 各国の軍旗と同時に、太陽と月を模した連合軍の軍旗を掲げている。


「つまりは味方じゃの。ほっとしたわい」


 大精霊レイヴィアは、腕を組んだ。


 やがて、大軍団が停止した。

その中から、二つの騎士団が、近づいてきた。兵数は双方とも、3000騎ほどだ。


 一つは、グランディア帝国の軍旗を掲げた、純白の鎧兜に身を包んだ騎士団。

 もう一つは、ヘルベティア王国の軍旗を掲げた騎士団だ。


不死隊ウルスラグナと、ヘルベティア王国軍か」


ナギが言う。


 不死隊ウルスラグナとは、グランディア帝国のカイン皇子の直属精鋭軍だ。


 総数3000人ほどの少数部隊だが、選りすぐりの猛者だけを集めた部隊で、その戦闘能力は、10万の兵士に匹敵すると言われている。

 先頭に、カイン皇子の姿が見えた。


「パンドラ王女殿下もいますよ」


 セドナが、明るい声を出す。

 ヘルベティア王国の騎士団の先頭には、青髪碧眼の10歳の王女の姿があった。

 カインとパンドラ王女が、振り返り、それぞれの騎士団に待機するように命じた。

 そして、カインとパンドラ王女は下馬して、歩いてナギ達の元に来た。


「お久しぶりやわ、ナギ様。セドナさん、皆さん」


 パンドラ王女が、くだけた言葉で笑顔を咲かせる。


「ご無事で何よりです。ナギ殿」


 カインが、端正な顔に微笑を浮かべて、再会を祝す。


 カインは握手をもとめ、ナギはそれに応じた。


(相変わらず、気さくな人だ)


 と、ナギは思いながら握手する。


「ありがとうございます。しかし、随分、早いご到着ですね。黒曜宮マグレア・クロスが崩壊して、すぐとは……」

黒曜宮マグレア・クロスを遠方より、監視しておりました。ナギ殿一行が、黒曜宮マグレア・クロスを攻略した後、即座に動けるように軍隊を編成していたのです」

(有能だな)

 と、俺は感心した。


カイン殿下は、父親である皇帝カスタミアを亡くしたばかりだ。

 それなのに、これだけ迅速に連合軍を統率するとは、並大抵の政治手腕ではない。

 最前線に、王女の身ながら来たパンドラ殿下も、傑物だ。


10歳の王女様が、最前線に来たとなれば、将兵たちの士気は奮い立つ。

 頼もしい味方が来てくれて、心強さで胸が熱くなった。


お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも「面白い!」「続きが読みたい!」と、思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ