寝技
「ありがとうございます。ケレス様のお陰でヤル気がでました」
ナギが、神剣〈斬華〉を上段に構え直す。
黄金の髪と翡翠色の瞳をした女神。
黒髪黒瞳の少年。
二人は、対峙しつつ隙を窺い、ゆったりと円を描いて歩き続ける。
刹那、ナギと女神ケレスはほぼ同時に動いた。
ナギが、神剣〈斬華〉を、女神ケレスが、神剣〈骨斬り〉を閃かせる。 双方の持つ神剣が、激突した。
宙空の火花が散る。
ナギと女神ケレスの双方の神力が斬撃にのって光り輝き、白い軌跡を描く。
ナギの神剣〈斬華〉。
女神ケレスの神剣〈骨斬り〉。
双方が、白い強烈な光を放ち、宙空を流れて衝突しあう。
袈裟斬り、逆袈裟、水平斬り、斬り上げ、切り落とし、撃ち落とし。
あらゆる角度の斬撃をナギと女神ケレスの双方が撃ち合う。
凄まじい衝突音と空気を切り裂く剣閃の音が響き渡る。
女神ケレスの指導のもと、女神ケレスの神力がナギに流れ込む。
知らず知らずの間、ナギの魂と心身に女神ケレスの神力が注ぎ込まれ、ナギはドンドン、レベルアップしていった。
一〇〇合にわたる斬撃の応酬の後、女神ケレスは次の段階に移行する事を決意した。
ナギが横切りの斬撃を放つ。
その刹那、女神ケレスが、ふいに身体を沈めた。
ナギの神剣〈斬華〉が、女神ケレスの頭上を流れる。
ナギの斬撃が空振りになったのだ。
女神ケレスは神剣〈骨斬り〉を捨てた。そして、膝の力を抜き、モーションなしでナギにタックルする。
(しまった!)
ナギは心中で呻いた。
既に女神ケレスはナギの腰に取り付いていた。
あまりにも巧妙なタックルだった。
ナギは心理の隙をつかれて、防御する暇も無く、体勢を崩されて、女神ケレスに押し倒された。
女神ケレスはナギを押し倒すと同時に、ナギの右手首に関節技を掛けた。
激痛がナギの右手を襲う。
ナギは神剣〈斬華〉を落とした。
(くそ! 上手い!)
ナギは女神ケレスの体術の上手さに舌を巻いた。
全く抵抗できずに、ナギは仰向けに地面に倒れ、女神ケレスはナギの腹の上に馬乗りになっている。
しかも、女神ケレスの関節技で身体全体の動きを止められ、微動できない。
女神ケレスの左手の親指が、ナギの右手のツボを押していた。
ナギの肉体に電撃が走るような激痛が襲い、まったく動けない。
女神ケレスの一連の技は、津軽神刀流の体技の一つ【地這】である。
タックルで相手を押し倒して、体勢を崩し、同時に敵の関節を決め、さらにツボを抑えて敵の動きを完全に封じてしまうのだ。
「ぐうぅうううう!」
ナギは激痛の呻いた。
なんとか自分の腹の上に乗る女神ケレスは押しのけようとするが、ツボと関節技の双方で動きを封じられて何もできない。
「さ~て、次は寝技で勝負しましょうか~。美少女と密着して寝技なんて最高ですよね~。どさくさに紛れて、胸とかお尻とか、お触りも許可しますよ~」
女神ケレスが、優しい笑顔をナギにむける。
(冗談ではない。お触り所か、動く事もできん!)
ナギは悔しさに歯噛みした。
いかに訓練とはいえ、こうも易々とやられるとは!
相手は女神とはいえ、外見は同い年の少女である。
剣技ならともかく、素手の体術で負けるのは、あまりにも悔しい。
ナギとて男だ。女性に負けるのはプライドが傷つく。
「いい顔になって来ましたね~、ナギ様。男の子らしい闘争心のある顔です。可愛いですよ~」
女神ケレスの挑発にナギは、獣のように唸った。
ナギの闘争心に火が付いた事を確認した女神ケレスは、
「ではスタート~」
と言って、ナギの右手にかけた関節技とツボ押しを解いた。
ナギの身体が自由になる。
「おおおおっ!」
ナギが、自分の腹に馬乗りになる女神ケレスの肩にむけて左手を押し当てた。
寝技で勝負して、女神ケレスを倒すつもりだった。
だが、女神ケレスは絶妙な動きでナギの腕を取り、するりとナギの腕を取って、腕十字固めに移行しようとする。
(まずい!)
ナギは慌てた。このままでは腕十字で関節を破壊される。




