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貞操

 ナギにも、それが真実だと一目で分かった。


 『骨斬り』には、ひたすらに人を斬るための刀身としてデザインされている。


 それ故に、余計な装飾がない。


 人斬りの為だけの刀だ。


「これは私の神力を付与してあるので、ナギ様の神剣〈斬華〉と同じく、神剣に属する威力があります。私のお気に入りのコレクションの1つです」


「素晴らしい名刀ですね。そして、それを使って何をする気ですか?」 ナギが神剣〈斬華〉を抜き放って構えた。


「言ったでしょう? 軽い稽古ですよ。私とこれから楽しく、明るく、ゆる~く、打ち合いましょう」


 女神ケレスが、『骨斬り』を構えた。


 黄金の髪と翡翠色の瞳の女神の日本刀を構えた姿は堂に入っていた。


 晴眼の構え。


 まるで歴戦の剣士のような、お手本のような構えだ。


 ただ構えただけで、女神ケレスの威圧感が、数十倍に膨れあがる。


 ナギの額に汗が滲んだ。


「心配しなくて良いですよ? 稽古ですから、殺し合いではありません。ちゃんと手加減しますからね~」


 女神ケレスが、子供をあやすように言う。


 ナギは無言で姿勢を低くして、脇構えにした。 


 完全な臨戦態勢を取る。


 女神ケレスの神力が増大し、圧倒的な闘気が、暴風にようにナギを叩く。


「……いったい、どんな稽古なのか、内容を知りたいですね」


 ナギが、時間稼ぎに問う。


「まずは、色仕掛けに簡単に引っかかる所がいけないと教えて差し上げました~。投げ飛ばされたので気付いたでしょうが、隙だらけでしたね~。私が相手なら良かったですが、敵ならば何度、死んでいましたか? そして、あまつさえセドナ様も奪われてしまいましたね~」


 女神ケレスは、優しく穏やかな声音を出した。


 だが、内容は痛烈であり、ナギを鋭く切り裂いた。


(もし、女神ケレス様が敵ならば……、俺は10回は死んでいる。そして、セドナの命も無い)


 ナギは唇を噛んだ。


 女神ケレス様だと思って油断した。


 簡単に間合いに入られた。


 そして、容易く津軽神刀流の柔術で投げ飛ばされた。


 そして、ふと気付く。


 先程の柔術は明らかに津軽神刀流の柔術だ。


「なぜ、ケレス様が津軽神刀流を使えるのですか?」


「私に稽古で勝てたらご褒美に教えて差し上げましょう」


 女神ケレスが、楽しそうに言う。


「ナギ様の欠点は、お優しい所です。相手を信用すると、トコトン信じる。そして、女子供、特に老人に甘い。もし、敵がナギ様を信用させた上で裏切ったら、ナギ様は多分、殺害されるでしょう」


 女神ケレスが、淡々と指摘する。


 ナギは、恥ずかしそうに頬を染める。


「私を信用して下さるのは光栄ですが、情愛が深いのも玉に瑕です。現にユリウス=カエサル相手にセドナ様が傀儡となった時、ナギ様はセドナ様を愛するあまり判断を誤り、しなくても良い怪我をしました。他に戦術はいくらでもあったのに、身内が人質になっただけで動揺し過ぎですよ?」


 女神ケレスが、諭す。


 そして、ナギを相手に僅かに左回りに動き出した。


「仰せの通りです」      


ナギは答えつつも、女神ケレスの動きに応じて、間合いを取る。


 既に試合は開始されていた。


「お説教ばかりで申し訳ありません。ご褒美を追加してあげますから、本気で稽古して下さいね~」


「ご褒美の追加とは?」


 ナギが、女神ケレスの左側に緩やかに剣技の歩法で歩む。


「ナギ様が勝てたら、私にエッチな事をして良いですよ~。その代わり、私が勝てたらナギ様にエッチな事をします」


 女神ケレスが、妖艶に笑む。


「どっちにしてもエロイ事をするんですか!」 


 ナギが突っ込む。


「ナギ様の貞操をかけた稽古です。頑張って下さいね~。まあ、私は勝っても負けても良いので気楽ですが」


 女神ケレスが、優美な笑声をもらす。


 その間にも、二人は闘気、剣先、肩の動き、歩法、視線。あらゆる方法でフェイントを掛け合い、戦っていた。


 剣や刃物を持った場合、素手での格闘とは全く違う。 


 一瞬で生死が分かれる。


 それ故に、斬り合う前にこうして、しのぎを削るのだ。


「私と試合する意義は大きいですよ~。私は稽古の間にナギ様に神力を注ぎ込んで、ナギ様を飛躍的にレベルアップさせます。稽古の後、どのくらい強くなるか、楽しみですね~」


「稽古の後、五体満足なら良いのですが」


 ナギが、剣先を僅かに上下させて言う。


「あくまで稽古ですよ~。あんまり大きな怪我はありませんよ~」


 女神ケレスが穏やかに言う。


 次の刹那、二人が跳躍した。


 互いの剣が交錯して、激しく火花を散らした。


 ナギの袈裟斬りに対応して、女神ケレスが弾き返す。


わずかな剣撃の応酬だっが、ナギは一瞬で理解する。


(間違いない。津軽神刀流の斬撃だ)


 ナギはそれを確信した。


 女神ケレス様がなぜ、自分と同じ津軽神刀流を使えるんだ?


 女神ケレスが、剣術の歩法で進む。


 間合いを読み取らせない特殊な歩法。


 敵に数センチだけ距離を誤認させる。


 だが、わずか数センチが、刃物の場合は死に直結する。


 素手のパンチやキックと違い、刃物は頭蓋骨を三センチ切り裂けば、脳が損傷して死亡する。


 首の動脈に1センチ深く斬り込めば、人間は死ぬ。


 女神ケレスが、神力を込めて神剣『骨斬り』を振るう。


正統派の横薙ぎの斬撃。


 ナギはそれを神剣〈斬華〉で受け止めた。


「ぐうッ!」


 思わずナギは呻いた。


 重い。


 信じがたい程に重い斬撃だ。


 衝撃でナギの腕の骨が痺れる。


 手加減した女神ケレスの斬撃で、ナギは苦悶した。

 

 女神ケレスの神力は桁違いに強く、神力によって女神ケレスの身体能力はナギを遙かに凌駕しているのだ。



(ミスをすれば死ぬ)


 それ程の恐怖を感じた。


そのまま女神ケレスとナギは鍔迫り合いをした。


 女神ケレスとナギの顔が間近で向き合う。


 女神ケレスは膂力もナギを遙かに上回っていた。


 巨大な岩に押し潰されそうな圧力をナギは感じた。



 ナギは渾身の力で押し返すが、びくともしない。


 ナギの顔から汗が噴き出て、顔をわずかに歪ませる。


「おやおや、ナギ様。形勢不利ですか?」


女神ケレスは、軽い力を込めただけだった。


 涼しい顔でナギを見る。


「ナギ様、頑張って下さいね~。負けたらナギ様を押し倒しちゃいますよ~。初体験で女の子にレ

イプされるなんて嫌でしょう?」


「嫌に決まっているでしょうがぁああああああ!」


 ナギが、叫んだ。







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