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始皇帝

6月か、7月に、私、藤川未来の新作長編小説を、開始します。


どうか、読んで下さい。

宜しくお願い申し上げます。

視界が変わった。

 先程とは全く別の空間に、ナギ達はいた。

 そこは地平線まで続く草原だった。

 陽光が、強い日差しを大地に投げかけている。

 セドナが、黄金の瞳を瞬かせた。


「あれは……なんですか?」

 

 セドナの視線の先には、長大な壁があった。

 視界の右から左までを埋め尽くす長城。

 万里の長城があった。

山岳の上の稜線に建てられた万里の長城が、圧倒的存在感をともなって、ナギ達の目の前に立ち塞がる。


「万里の長城だ」

 

 ナギが、そのあまりに高名な建造物の名を口にした。

 現存する万里の長城の延長は6,259.6km。

 一説では明時代の最盛期には、8600キロを超えていたという。


「凄いね」

 

 エヴァンゼリンが正直な感想をのべた。

 これ程の規模の人工建造物は滅多にない。

 エヴァンゼリンを始め、全員が感嘆の表情を浮かべる。


「地球の文明とは凄いものだな」

 

 クラウディアが、興味深そうに言った。


「いや、地球でもあれだけの建造物は他に類例がない。単にでかいだけなら、おそらくあれが最大級だろうな」


 ナギが答える。


「ナギ様、あれは、なんのために作られたのですか?」

 

 セドナが、興味津々で尋ねる。


「北方の騎馬民族を恐れた漢民族という民族が、防衛のために築き上げた城塞だ」

 

 とナギは説明した。

 元々、始皇帝という皇帝が作ったとされているが、実際は始皇帝以前から万里の長城は、小規模ながら作られていた。

中原に位置する漢民族は、北方の騎馬民族を恐れ、防衛のために紀元前600年頃から、岩やレンガで万里の長城を作りだした。

 

 北方の騎馬民族は、遊牧民であり、多くの羊を飼っている。 

 そのため羊が通れない程度の小さな壁があれば、遊牧民である騎馬民族は、南下しようとしなくなる。

 初期の万里の長城は、高さが一メートル程度のものだったそうだ。

 それを始皇帝が、大々的に補強して、長大な壁にしたのだ。


「万里の長城となると……。やはりあの男が敵かな?」

 

 ナギは、むしろ楽しそうに瞳を細めた。





 

 万里の長城を越えた奥。

 草原に巨大な城が聳え立っていた。

 阿房宮である。

 秦の始皇帝が、己の権勢を示すために作った当時、世界最大級の大宮殿である。

 

 中国大陸全土から集められた70万人の受刑者が建設に携わり、

 広さは、東西1200m×南北400m。

 中には東西800m×南北150mの宮殿が立ち、金銀玉楼で装飾された華麗極まりない大建造物である。

 その美麗極まりない阿房宮の最奥。

 一際、豪奢な宮殿の室内に、二つの影があった。

 

 一人は、玉座に腰掛けた男。

 一人は、玉座の前に立つ女だった。

 

 玉座に座る男の姿は異形だった。

 男の肉体はゾンビに等しかった。

 顔も、胸も、腕も、足も爛れて腐食し、全身の皮膚がなく、神経や血管が剥き出しになっている。

その腐食した醜い肉体の上に、漢民族の伝統衣装である漢服かんふくを纏っている。服には豪華絢爛な装飾が施されていた。

 男の名は、始皇帝という。

 かつて、中国大陸全土を征服し、中国史上初の統一国家を創設した男である。

 

 始皇帝の前に立つ女は美しかった。 

 だが、その美貌は造花を思わせた。

 美女の年齢は20歳前後。

 赤紫色の髪と瞳をしており、その表情は氷のように冷たい。

美女の名は罪劫王ディアナ=モルスという。

 始皇帝の剥き出しの眼球が動き、幽鬼のような光が浮かんだ。


「罪劫王ディアナ=モルスよ……」

 

 始皇帝の口から殷々として声が漏れる。


「本当に、相葉ナギ一行を皆殺しにすれば、予を不老不死にしてくれるのだな?」


 始皇帝が、縋るような声音で、罪劫王ディアナ=モルスに問う。


「ああ、私は約束は守る。もし、相葉ナギ達を鏖殺することが出来たならば、私と同じく、お前をリッチーにしてやろう。そうなれば、永遠の生命と若さを卿は得るだろう」


 ディアナ=モルスが、氷のような声で告げた。


「おお……」

 

 始皇帝の剥き出しの眼球から、歓喜の涙が溢れた。そして、涙が、爛れた顔につたい落ちる。


「不老不死……。ようやく……。ようやく、予の望みが叶う……」


 始皇帝は玉座の上で全身を震わせた。

 求めて、求めて、求め続け、ついには手に入らなかった望み、不老不死。

 それが、ようやく手に入る!

 始皇帝の口から喜悦の笑声が零れた。

 巨大な広間に始皇帝の笑声が、響き渡る。


「始皇帝よ」

 

 罪劫王ディアナ=モルスは、始皇帝を見下ろしながら言った。


「我が主君、《魔神》は全知全能の力を有する神だ。我らに与する限り、卿の望みは全て叶えよう。だが、もし、失敗したならば卿の望みはおろか、命さえもないことを肝に銘じよ。相葉ナギとその仲間たちを確実に鏖殺せよ。これは主命である」


 ディアナ=モルスが宣告すると、始皇帝は玉座からおりた。

 そして、ディアナ=モルスの前に跪き、大地に両手を投げ出して、ディアナ=モルスの足に口づけする。


「……予は誓う。魔神とそなたの命令に従う。どうか、どうか、予を不老不死にしてくれ……」

 

 始皇帝の声が、希望と絶望の狭間でゆれた。


「期待しているぞ。卿は古代の地球において、最も邪悪で強大な偉人の一人。その力を使い、魔神のために励むが良い」

 

 罪劫王ディアナ=モルスは、氷の彫像の様な美貌に微笑を浮かべた。

 やがて、罪劫王ディアナ=モルスの姿が、忽然と消え去った。

 始皇帝は、ディアナ=モルスが消えると立ち上がり、口から涎とともに、息を吐き出した。


「不老不死……、不老不死が手に入る……」

 

 始皇帝の目に、妄執の焔が宿る。

 彼の脳裏に生前の記憶がよぎった。

 



 

 始皇帝は、紀元前259年2月18日、古代中国の戦国時代の「秦」という国の王子として生まれた。

王として即位した後、圧倒的な指導力と、軍才によって、紀元前221年に中国史上初めての統一国家を創設し、乱世を終結させた。

 まさに英雄の中の英雄である。

 だが、始皇帝はその後、狂い始めた。 

 

 自らを神に最も近き者、「真人しんじん」だと主張しだした。

 過酷極まりない法の統治により、民衆を大弾圧した。

 焚書坑儒を初めとして、大量虐殺が横行した。

 酷吏が跋扈し、苛烈な法律が適応され、無数の民が逮捕され罪人となった。

 当時の秦の人口が約2700万人であったが、一説ではその内、100万人ほどが罪人にされたという。

 

 始皇帝は、更なる権勢と栄華を求め続け、ついには不老不死を願いだした。

 未来永劫、権力を握り続けたい。

 その一心で不老不死になるためにあらゆることをした。

 医師に命じて、不老不死の薬を作らせ、寿命が延びるとされた薬を毎日食した。

 

 その薬の中には、ヒ素や水銀が混じっているモノもあった。

始皇帝は、強熱的なまでに不老不死を求めたが、当然不老不死になれる方法などある筈がなく、紀元前210年。始皇帝は、49歳で崩御した。



 死後、始皇帝は輪廻の渦の中に入った。

 輪廻の渦の中、魂だけとなっても、始皇帝は不老不死への妄執を抱え続けた。

 時間、空間が消滅した輪廻の渦の中、始皇帝は不老不死を求め続け、彷徨った。

 永劫の存在になることを求め、苦悶し続けた始皇帝の魂はある日、突然、召喚された。

 

 召喚したのは、罪劫王ディアナ=モルスである。

 ディアナ=モルスは魔神の命令により、戦力となる人材を求めていた。 地球において、一定レベルの業績を上げた者。

 

 偉人、英雄、犯罪者などはその魂に強烈な力を宿している。

 ディアナ=モルスは、始皇帝の魂を見つけ出すと、異世界フォルセンティアに召喚し、その魂の形状にあわせた肉体を始皇帝に与えた。

 始皇帝の魂は、ディアナ=モルスの禁術により、強大な魔力を付与され、異能を授かった。

 ディアナ=モルスは始皇帝と誓約し、彼を臣下にした。


「不老不死が欲しければ、相葉ナギたちを鏖殺せよ」

 

 ディアナ=モルスの命令に、始皇帝は魂から屈して忠誠を誓った。


 


「永遠の生命……。不老不死……。ようやく予の望みが叶う!」


 始皇帝は玉座の上で、狂笑した。

 始皇帝の魔力が増大し、異能が発動された。

 

 


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