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逆恨み部下、引く


「何言ってんだおまえ」


 真剣に意味不明なことを言った志村に思わず半眼になった。


 理解はできないが、絶対に彼女の趣味に結びつく発言であることは、疑いようがなかったからだ。


「…………田山くん?」


「――っ先輩、そういう話ではなく、真面目に相談にのっていただきたいんですよ」


 主任がいることを一瞬忘れてしまっていた俺は、慌てて取り繕う。




 正直、志村に全てを丸投げしたいほど面倒なことになった。




 何かを隠していることに気づいた俺は、殊勝(しゅしょう)な態度で主任の弱味を握ろうと思っていたのだ。


 プレゼンはあれだけ疲れたにもかかわらず、なんとも微妙な結果だった。まるで俺が失敗したようではないか。


 逆恨みに近いとは自覚しているが、だからといってこのまま飲み込むのも嫌だった。だから、主任があからさまに隠していることを掴んでおこうと動いた。


 弱味を得たとしてすぐにどうこうするものではなく、いずれここぞという時に弱味と悟られない使い方をしようと思っていた。



 が、これはガチにヤバイやつだ。



 ただの性癖であればただのネタとして家で笑えたのに。


 めずらしさに興味のまま触ろうとしたのが間違いだった。


 最悪な場面を最悪な女に見られてしまった。


 この際、いつも面倒をみられている志村にここは任せて逃げたい。だが、この女、作り物だと思って真面目に言っている。


 まずは本物だということを認識させて、深刻な事態を把握させる必要がある。



「志村先輩。触ってみてください」


「え? すみません、私にはできません」



 触るだけの何ができないんだ。ずっと思っていたが志村は頭がおかしい。



 猫耳がピクリと動いたが、志村は主任から目をそらして見ようとしない。


「ふざけてないで。主任は本当に困ってらっしゃるんですよ」


「こういうのはお二人で話し合うのがいいと思いますよ。ほら、明日土曜ですし、時間はいっぱいあるでしょう?」



 何故明日も俺が主任に付き合うことになっているんだ!



「っ……先輩、いいから、触って」


「や、やだ、何のプレイをさせるつもりですか!」


「何のプレイでもねえよ!」



 あ。



 イライラして志村の頭を(はた)いてしまった。主任に視線を移すと、主任は目をぱちぱちと(またた)かせていた。


 バランスを崩した志村は両腕をぶんぶん回して耐えていたが、ついには前のめりになり、主任の頭部に両手をついた。



 っしゃ、触った。



 もう面倒になってきた俺は、目の前の成果にこぶしを握った。どうせ来週から入院すると言っていたので、このままうやむやにしてしまおう。


「…………こぉ」


「先輩、申し訳ありません、つい」


 くわっと顔をあげた志村は主任の頭から手を放すことなく、両手で猫耳をそれぞれ()いている。


「お、おぁ、なんっだこの手触り……猫か……猫なのか」


「し、志村くん、やめたまえ」



 うわ。



 血走った目の志村とほおを紅潮させる主任を見て、俺は少し距離をとったのだった。


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