腐った女子、妄想を見る
※注意※ 表現としてBLがありますが、ジャンルは違います。
我輩は腐女子である。名前は――――今は、ネコ丸としてやっている。
表の顔は普通の会社員です。無論、隠れ腐女子です。
基本的に二次元だけれど、雑食性を見せ始めた今日この頃。
発生源は、潔癖ナルシストな主任と本性を知っている後輩。正直、予想外だった。
主任は、仕事も多分家事も自分が一番できると思っている無自覚ナルシストだ。清掃業者が掃除をしてくれるのに自分でも掃除をして、たまに部下の整理整頓にも口出ししてくる。女子社員の評判はイマイチ。
仕事のフォローはしてくれるし、そうそう怒らないので上司として私は嫌いじゃない。ただウザい。いいじゃん食べかけのお菓子を引き出しに入れたって。私しか食べないんだし。
後輩は、二歳年下の新入社員。私の高校の後輩で、美術部の幽霊部員だった。行事や大会の時だけ作品を描きあげていく憎い才能の持ち主。まさかの再会でしたね。
当時からバリバリの腐女子だった私と、当時から世の中を俯瞰して見ていた口の悪い後輩は、お互いに気づき、お互いに知らないふりをした。初めて彼の純真無垢な態度を見た時は、キャラの作りように思わず目を逸らしたものだ。
だが、ある時気づいてしまったのだ。
腹黒部下×ナルシスト上司である。
ごめんなさいと思いつつも、誰にも迷惑をかけていないので自重する気はない。
つらい仕事の合間に妄想しつつ、二人のやりとりに耳をそばだてて過ごしています。かろうじて妄想を絵にはしていないです。呟いてはいますごめんなさい。
何度か、私のいかがわしい視線に気づいた後輩の目は笑ってなかった。バレている。
でもまあお互いさまだもんね!
ストレス社会における癒しなのです。
私たちのチームは、小さいお子さんがいる新野さんに気をつかって、社内コンペの打ち上げは週明けランチですることになっている。独身ではあるが、そういうところは気が利く上司である。私も花金をそんなんで潰したくない。趣味の締め切りも近いのです。
社内コンペの結果は残念ではあったが、それ以上でもそれ以下でもない。榊原さんとこは確かにすごかったし、ウチもいい勝負だったとは思うけどね。まあ、年功序列とか、あるじゃん?
それはそうと、私が非常灯だけついている薄暗い廊下を小走りに歩いているのは、理由があります。
理由といっても普通にデスクの引き出しにスマホを忘れただけです。
おりる駅の直前で気づいた時は泣きそうでした。疲れて音楽聴く気力さえなかったんだもん。イベント考えるんなら日常業務の軽減も考えてほしいけど、気合論がまかり通る古い会社だから仕方ないか。
暗い社内って雰囲気あるよね。
怖い方ではなく、妄想が滾る方の。
私は誰もいないと思って、ノックもせずにフロアのドアを開けて入る。
明かりのスイッチを手探りで押す。
腹黒部下×ナルシスト上司があった。
スイッチをもう一度押し、暗い中で首をかしげる。はて、私は夢でも見ているのか。
後輩が主任に両手をのばして抱きしめようとしていた。
妄想でも、もう一度見たい思いで明かりをつける。
やはり、二人がいた。後輩が驚いた表情で私を見ている。邪魔をしてしまって申し訳ない気持ちと、このままでは気まずいだろうなと思い、私は口を開いた。
「ごちそうさまです」
間違えた。
「お疲れさまです。スマホを忘れてしまっただけなので、私のことはお気になさらないで続けてください。あ、このことは誰にも口外しませんのでご安心を」
ただしSNSは別とする。身バレしてないから大丈夫だよ。
私はそそくさと自分のデスクの鍵を開け、スマホを回収。その腕を掴まれた。
驚いて見上げると、後輩が怖い笑顔で「勘違いしてんじゃねえよ」と私にだけ聞こえる声量で言った。そして主任に振り返る。
「主任、こうなったら志村先輩にも相談にのってもらいましょう」
「そうだな…………巻き込んでしまって悪いが、知恵を貸してほしい」
逃すまいと力強い後輩の手に引っ張られ、主任の前に立たされた。そして私は目を奪われる。
主任が、猫耳カチューシャをしていたのだ。
妄想だから楽しいのであって、こんな性癖を目の当たりにされると、とても痛いものがある。相談に乗りたくない気持ちが沸き起こり、私はとりあえず知恵を貸してみた。
「多分、オプション過多なんですよ。眼鏡か猫耳はどっちかでいいと思います」