プロローグ
英雄譚は終わった。
傭兵とは難儀な仕事だ。近頃魔物の被害も落ち着いてきたため、どこの国も人同士で争う余力ができてしまった。
どこの国も常備兵だけでは足らず、そこらの農民をかき集めては傭兵として日夜戦場に送り込む。だが、どこに行こうとも地獄が待っていることに変わりはない。
東の戦場に行けば凍土で凍え死ぬか、終わらない戦場から抜け出せずに骨を埋める羽目になるし、西ではもっぱら海での戦がほとんど。傭兵になるような育ちの人間が泳げるとでも?傭兵なぞ、海兵連中からすれば良いカモだ。
北の大地は氷河に岩山、荒れ地と悲惨なもので攻める価値などないが、蛮族どもからすればこちらは美味しい獲物。必然防衛戦が多く、籠城戦などの悲惨な戦が多い。
南に活路を求めようとも、そっちには大森林に山脈、大河に大瀑布と攻めにくく、守りやすい地形。そこに住む亜人共は奇襲や夜襲、罠に挟撃ととにかく数の利をこちらが生かせぬように襲ってくる。便所一つ安心してできない緑の地獄だ。
――「それでも、君は傭兵になるのかい?」
そんな話をした幼いころ。あの時は世界がこれ以上にひどくなるとは思いもしなかった。
魔法や火薬といった、かつては魔物に対する刃として人類に使われていたものがその威力に目をつけられ、ヒト同士の戦争に使われ出してから、戦争の悲惨さはより一層ひどいものになった。
最初に魔法をヒトに向けて使ったと公式に記録されているヒトは、エルフの聖女だった。南の戦線で長らく抵抗を続けていた亜人連合だったが、人種の持つ数という力にこのままでは敗北するという事実に発狂でもしたのだろうか。ある日エルフの中から、神の声を聴いたという女が現れた。それから彼女がエルフ国内で何をしたかは記録に残されていない。
ただ、事実として彼女は魔法を用いて我々の所有する城塞都市を4つ、街を7つ。農村はもはや数えられないほど焼き尽くし、我々に捕らえられるまでその蛮行を止めようとはしなかったこと。
そして、亜人連合に身代金を払われなかったその女は女が今までそうしてきたように火刑に掛けられ、聖女ではなく、魔女としてその名を刻まれることとなった。
「こんな筈じゃなかった」
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