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お化けピエロと白鳥の彼

作者: 丸太

 また遊ぼうと約束して10年は会っていない友達の夢を見た。

 彼は夢の中で、昔のコメディアンがやっていたような白タイツに股間からは首の長い白鳥を生やしていた。

 佐渡裕が指揮するフルオーケストラのカルメンをバックに彼は必死に踊っていた。

 なぜ白鳥の湖ではなくカルメンなのか理解に苦しむ。

 彼は僕に向かって何かを必死に伝えようとするがバックのオーケストラがうるさくて聞こえない。

 僕が聞こえないよ!とジェスチャーしているとカルメンのテンポがクライマックスに向けてどんどん早くなっていった。

 トランペットが高らかに吠える。弦楽器がまるで嵐のようにかき荒れる。

 突然どこからともなく現れたピエロが彼をナイフで刺した。

 パンッ!彼は破裂した。宙に幾千の白鳥の羽根が舞い上がる。

「ブラボー!!!!」

 僕は目を覚ました。

 既に日は高く、時計は9時30分を指していた。寝坊だ。

 今日は休みだが、週に1日しかない休日の予定は1か月前から決まっている。付き合ってもうじき一年になる彼女とデートだ。

 僕は寝汗で汚れたシャツを脱ぎ去り、その辺に転がっているジーンズと綺麗に選択されたシャツを着た。

 10分で洗顔と歯磨きをしたところで寒さに気づき、パーカーを羽織る。さあ出発だ。

 僕は車に乗り込むとお気に入りのクラシックをかける。ビゼーのアルルの女。ファランドールだ。

 曲をかけると同時に車に搭載された8つのスピーカーから大音量のファンファーレを受ける。僕はやっと覚醒する。

 寄り道もせずそのまま30分。目的地に到着した。パチンコ屋だ。デートというのは嘘だ。僕には彼女がいない。

 華麗にバック駐車を決めた僕は颯爽と、堂々と、パチンコ屋のドアを潜る。その瞬間ものすごい音が僕を包む。

 今日は日曜なのでやはり人が多い。寝坊したのは痛い。狙い台に座れないかもしれない。僕は焦っていた。スロットコーナーへ急ぐ。

 バジ、全席埋まっている。まどマギ、これもだめだ。もしもの時のために狙っていた沖ドキやモンハンなんかもよさげな台は全部取られていた。

 GODは空きがあったが座らない。あんな台座ってたら頭おかしくなる。実際、GODに座ってる人は見た目からしてキチ〇イだ。

 僕は華麗にジャグラーコーナーへ行った。

 ジャグラーでお茶を濁して2時間ほどしたらまた空き台を探しに行こう。それかたまにはパチを打とうか。なんて考えながら適当によさ台を探していたら

 あった。高設定台が開いていた。この店の店長の癖はお見通しなのでジャグラーの高設定台は打つ前から大体わかるのだ。

 僕は嬉々として座る。そしてすかさず1万挿入。数十ゲームほどでペカる。バケだ。だがこれでいい。高設定だという確認だ。

 1時間後、700ゲーム嵌って死にそうな顔をして打ってる僕がいた。投資は既に2万8千円。時間よ戻れ。

辞めたくてもやめられない。この台は明らかに高設定なのだ。バケ先行でブドウの出現率もいい。僕の運が悪いだけで本当なら2000枚は固い台なのだ。

 この台を信じよう。僕はただ、この台を信じて打ち続けようと誓った。

 8時間後、すってんてんになった僕がいた。

 僕の目はこの世全ての生者を憎んでいた。僕の息はたばこ臭かった。僕の耳は狂っていて、耳鳴りと幻聴が精神を疲弊させていた。

 僕は疲れていた。腹も減っていた。今日は何も食べていないのだ。

 もう午後6時。僕はようやく大事な大事な休日を棒に振って、さらに3万円近くどぶに捨てたことに気づいた。

 ていうか今考えたらあの台はせいぜい設定3が妥当だ。最終的にバケの確率350分の1とかだったし。あーマジ糞。時間よ戻れ。

 なんて考えていたらふと、昨日見ていた夢を思い出した。

 彼は、僕にジャグラーだけは打つなと言っていたのだ。

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