表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/28

1-21『雪中会話その①』

 ――ぐつぐつ。旨味を十分に感じさせる蒸気が鼻孔をくすぐる。表面に浮かんでくるアクを取り除いていく。


 料理は重要だ。食欲――どの世界でも飢餓は死に至るバッドステータスだ――という根本的な理由以外に、料理を通じてできあがった食べ物にはささやかながらも長期的なステータス補正がかかるという、冒険者に欠かせない価値がある。

 日中偶然入手したニヴルウォームの肉。どの部位なのかはわからないその塊を、旗の下に埋められていた箱の内容物の一つであるナイフで適度に切り分け、塩や香辛料をまぶす。明日以降残しておくつもりはないので俺達で食べきれない部分は犬にあげる。

 続いてオータルの街で買い付けた三種の野菜。タマネギは微塵切り。ニンジンとジャガイモは大きめにカットする。

 小ぶりの寸動鍋で肉を、底の浅いフライパンではタマネギから炒めていく。タマネギの色がいい感じに変化したところで残りの野菜と共に鍋に投入し、混ざったところで水を投入する。

 浮き出るアクを取り除きながらスープをしばらく煮込み、そしてこのあとセントレアの商人から購入した調合済みのスパイスを加えれば完成だ。


 つまり、カレー。あとは長持ちする硬いパン。これらが本日のメニューだ。


 ――ちなみに調理のほとんどは灯里さんにやっていただきました。私ハルめは雑務担当です。


「……かたじけない」


「んふふ。でも不思議だね。ハルくんも料理スキル低くないんでしょ? 現実で剣を使ったことがなくてもスキルさえあれば大丈夫なのに、料理はダメって変だよね?」


 そうなのだ。AOアーヴオンラインでも空腹は冒険者の永遠の敵だった。

 ダンジョンに長く引きこもる場合その分食料品を多く持ち歩く必要があるが、調理品はスタックが出来ず、限られたインベントリ枠を圧迫してしまう。

 よって食用の肉をドロップするモンスターが出現するダンジョンでは現地調達、それ以外では最大千個スタック可能な豆を持ち込み、必要なときに己の料理スキルで調理品に変え、飢えをしのいでいたのだ。


 俺の料理スキル値は灯里に負けず劣らず。それなのにナイフで肉を削ごうとしたところ、不格好な切れ端ばかりが生まれてしまった次第だ。


「多分だけど――原因はレシピじゃないかな」


 料理の技術は二つに大別される。一つは反復作業によって向上する料理スキル値そのもの。もう一方はレシピの知識だ。

 食材の加工法から料理一品一品を作るためには対応するレシピの習得が必須であり、それら一つ一つにも熟練値が設定されているので料理スキル全体を極めようとすると果てしない道のりになる。


「俺は『肉焼き』と『炒り豆』レシピしか習得してないんだよな」


「……ハルくんって、本当に実用主義なんだね……」


「……少しでもダンジョンを周回する時間にあてたかったんだよ。むしろ『セフィ』がカレーを作れるってのを意外に思うけど」


 ゲームでは料理スキル値さえあれば、たとえ炒り豆でもある程度のステータス補正値が生まれるし、とにかく腹は膨れるので特に気にしたことはなかった。

 それにその二つのレシピは相当鍛えてあるので、この世界最高レベルの炒り豆を提供できる自信はある。需要があるかは不明だ。


 俺の疑問に灯里は『部下の戦士ソルジャーにふるまう男料理は作れるって設定なんだよ』と急に若葉色の眼を輝かせて自分の理想の戦士像を力説し始めた。


「でも思い返すと包丁さばきとかカレー作りの熟練値、こんなに高くなかったと思う。現実の体験も加算されてるんじゃないかな?」


「……灯里は料理、よくしてたんだ」


「そうなんですよ? レシピ覚えたら、いろいろ作ってあげるね」


「……楽しみにしとく。ちなみにこの作業そろそろ終わったりしない?」


 アク取り程度なら料理スキルうんぬんは適用されないらしい。俺の努力が実ったのか、じわじわと煮え立つスープは澄んだ茶色だ。


「……うんうん、ありがとうございました。あとは私がやるね」

「よろしく」


 すべてを灯里に託し、手持無沙汰になった俺は肉の欠片で犬たちに餌付けなどすることにした。

 側壁の空気穴から外を覗くと、雪風はますます強まって既に吹雪の域に達し、びゅうびゅうと吹く風が壁に打ち付けるとわずかだが振動が感じられる。


「このシェルター大丈夫なのだろうか……」


 少し不安になってきた。この空気穴も塞がったりしないんだろうか。

 そんなことを考えつつ、しばらく吹き荒れる白い渦を眺めていた。

 

「これで終わりっ。あとは待つだけです。……完成までお話させてもらっても、いい?」

「ああ。俺もそう思ってた」


 ――昔のチームメイトだったとはいえ、実際に俺達が出会ってからわずか三日しか経っていないのだ。互いの実績を信頼し旅の進行を優先したために、俺達は相手のことを最低限しか知らない。


「じゃあまず改めて自己紹介からね! 灯里です。レベルは三百七でビルドは魔法剣士。武器のマスターは剣術、刀と弓矢だけ。けど攻撃魔法ならどの属性、範囲も最低マスターだよ」


 スキルレベルに上限はない。マスターとはスキル発動時のエフェクトが変化するスキルレベル『千』に達していることを意味し、同盟クランの加入条件に利用される場合もある。やはり相当な魔導士だったか。


「名前はハル。レベル三百九十四でビルドは灯里と同じ魔法剣士だけど魔法でマスターなのは氷結系くらいだな――ってどうした?」


 灯里の顔つきには驚きと怪訝さがあらわになっている。


「……何やったらそんなレベルになるの?」


 説明は簡単だ。


「毎日朝十時から夜二十四(じゅうに)時まで高レベルダンジョン周回してればなるよ」

「ニートさんなんだね……」


「職業冒険者ってやつさ。話戻すけど、やっぱり片手剣が一番得意ではあるけど、戦術系スキルは大体マスター以上」


「ふうーん……ハルくん何歳?」


「? 唐突だな……俺の年……二十一かな?」


 自分の年齢なんてすぐに思い出せない程度には意識していない情報だ。中学卒業してから、ずっと引きこもり。そこから少し経って、AOを始めてからはずーっとそれだけの生活だった。


「誕生日は? 血液型は? 好きな色、食べ物の好き嫌い、犬派猫派? あと兄弟いる?

「待て待て待て。とりあえず兄弟はいない」


 質問の連射。それ知ってどうするんだということを他にも様々訊かれた。知りたがりなのかな。


「マツリちゃんとは付き合い長いの? あとアーサーくんとか……マルグレーテさんとも仲良いの?」


「マツリはそうだな。一緒にゲームしてなくてもよく音声通話ボイチャで話してた。アーサーとはたまにギミック重視の二人専用ダンジョンやるくらいだな。それ以外は《円卓》のメンバーと一緒に行動してるし。あとマル? アイツは一回パーティ組んで、そのあと《ベルセルク》に誘われたくらいだよ」


「ふぅーん……完全ソロプレイヤーかなあと思ったけど、『解散』したあとでも私以外とは結構繋がりあったんだね」


「あの時灯里も誘ったけど断ったろ……」


 俺は『固有の装備とスキル(ユニーク)』の構成上、最高効率を達成するために自身と敵以外の要因から完全に隔離された戦場を選択せざるを得ない、というだけで別段他のプレイヤーとの交流や、パーティプレイそのものが嫌いなわけではない。

 俺達がいた同盟クランが解散した後、俺は当然のごとく『セフィ』にも今後も一緒にダンジョンなどやらないかと尋ねたのだが、『やはり私は孤高の戦士(ソルジャー)。これより先、戦友ともは要らぬ』とかなんとか言われてしまったのだ。


「俺は灯里のこと、結構見かけてたけどな。最近だと《デスタイラントワイバーン》戦とか」


 そのモンスターは数百人から千人規模で討伐される、超大型の『フィールドレイドボス』だ。最も討伐に貢献したプレイヤーから優先的にレアドロップが与えられるシステムになっており、そこが灯里のメインステージかつ独擅場だ。


「あれ、来てたの?」

「ワンパンだけしにね」


 少し程度の低い行為だが、フィールドボスに一発ダメージを入れて最後までそこに居れば基本素材ドロップが期待できるので、どうしてもそれらの素材が必要なとき、野外フィールドではよくそれで済ませていた。目立ちたくなかったから。

 『ワンパンはダメだよー』と少し真面目げに叱られてしまう。


 話を切って立ち上がった灯里はカレーの具合を確認し、満足気に頷いた。


「うんうん、そろそろ食べごろだよ」

「待ってました」


 漂う香気に腹の虫が暴走状態になっている。

 金属皿によそられたカレー。スプーンで野菜をつつくと程よい固さ。味もちゃんと染み込んでいそうだ。

 そしてあの芋虫みたいな龍の肉。果たしてその実力とは。早速食すとしよう。


「「いただきます」」



「――美味いっ!」


 ニヴルウォームの肉、イケるじゃないか。

少し遅い時間になってしまいましたが投稿できました。

ご感想ブックマーク、是非よろしくお願いします。

次話は早くて水曜日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ