1-2『戦闘と覚醒』
悪天候と共に襲来したガーゴイル。
俺を取り囲むように四体。視界に入る分だけで数十体は下らない。街道の先に目を凝らすとゾンビ系MOBにオーガ、ダークオークに吸血鬼ととにかく魔物の大集団が確認できる。
レベル三十から六十そこらのこいつらは俺にとっては雑魚でしかない。しかしリブルク周辺には出るはずのない強さを持つ闇のモンスターたちでもある。何かのゲリライベントの再現なのだろうか。
「ギュルルルァラララァ!」
「うっひいいぃぃぃ」
疑問の答えは斬撃で返ってきた。採集師の男は情けない悲鳴をまき散らしながらも、巨体に見合わないスピードで城門の方へ逃げ去っていった。
俺は咄嗟に左手に握った長剣 《レギンレイヴ》を構えて振り下ろしを受け止めると、反撃の意志がそのまま見事な切り返しとなってガーゴイルの胴を薙ぎ払い、生命力を一発で奪い去った。
現実に剣術の心得があるはずはなく、まさにもやしの貧弱な肉体の持ち主である俺だが、この場合無限のダンジョン生活で鍛えに鍛え上げられたゲーム上の筋力と剣術スキルが襲い来る物理攻撃を受け止め、敵を倒そうと意識し動くだけで剣技の連なりを披露してくれるようだ。四体のガーゴイルは一瞬で亡骸となり体は時間経過とともに霧散していく。
「すごく楽しいぞこれ」
体感型無双系アクション。もしかすると本家AOより面白いかもしれない。これが俺の想像力から成っているとすれば大したものだ。
この思い出の残響と俺の理想が融合した夢の時間がいつまで続いてくれるのだろうと想いを巡らせたその直後――
「ギュルルリィラァ!」
俺の意識は覚醒した。させられた。
世界が何か変調をきたしたわけではない。元の暗い部屋に戻ったわけでもない。
腕だ。
背後の空より強襲してきた新たなガーゴイル。振り向いたとき左手に握った剣で防ぐにはもう遅く、反射的に右腕を構えた。
振り下ろされる湾刀が無防備な俺の腕と交差し――容赦なく皮膚を裂き小さくない切創を刻み込んだ瞬間。
「いっっっつぅっ!?」
右腕から発せられた痛みのシグナルが俺の脳を揺らし、視界を明滅させる。痛い。痛すぎる。
これも与えられた防御力 のなせる技なのか、考えればあの刃渡りで切り付けられたにしてはあまりに大事なかったが、真皮のその先深くまで断ち切られたであろう傷からは流血があふれだし血のしぶきが地面に染みを作り始めている。これは――――
思い出される。
この痛みは“あの日”現実に感じた痛みと同質のものだ。実質的に俺をネット世界へ放り込んだあの災厄の折に受けた傷――それと同じ事実をこのガーゴイルが今俺にもたらした。
二つの傷が同質のものであるからには、次にこの悪魔が俺に授けようとするものは一つしかない。生命の危機。終わり。
――死だ。
今起きた現象から俺は即座に確実に状況を認識することができた。
これは俺の想像力が生み出した夢なんかじゃないましてやゲームでもない――
「――――『現実』だ!」
10/9:1話を分割しました。




