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1-19『狩りとテイムのRPG』

 

 ――世界は身一人で動き回るには広すぎる。

 

 全身に風を受けながら思う。今俺の乗っているソリは四頭の犬に牽かれ、北へ北へと移動している。これがオオカミと言われればそう思えるほど獰猛そうないでたちの、大きな犬だ。気性は見た目負けの慎重派だが。

 今は昼。そして快晴だ。異常気象の中心、《パレッサ宮》の冷気。その放出には周期性があり、ピークは真夜中。その時間帯に何者かが動いているというわけだ。


 今俺達が使用しているソリは朝発った雪原の村で購入したものだが、犬はそこらへんで仲間にした。

 調教テイムスキル。野生のモンスターを一定時間自分の支配下に置くことのできるこの能力は誰でも使える。


「そっちのソリは問題ないかーっ?」


「大丈夫だよーっ」


 並走する灯里のソリも順調そうだ。

 予定通り。俺達のいう予定通りとは、俺達が出せうる最高効率で動けているという意味だ。

やっていることは日中に動けるだけ動き、動けない時間に次にできることをやる、考えるというだけ。

 しかしそこを世界最高レベルの能力値をもってギリギリまで妥協せずに行っているので、計算通りなら今も後続の冒険者を引き離しつつ進んでいるはずだ。

 

 差はあるだけあっていい。何が起きるかわからないからな。


 ――そう考えたのに呼応するかの如く、地面が揺らいだ。ソリが揺れたというわけではなさそうだ。振動はだんだんと強くなる。犬たちが速度を緩めないよう手綱を操作する。

 ゴゴゴゴ。

 地震ではない。足元を何かが移動している。俺にできるのは『ソレ』なるべく犬がやられないよう移動の軌跡を左右に振るくらいだ。相手は雪中にいるので、事が起こるのを待つしかない。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ。振動はますます高まっていく。


「うがっ」


 ――次の瞬間、横からの衝撃で俺は吹っ飛んでいた。大破したソリが一緒に宙を舞っている。襲撃者は、俺のすぐ横を飛んでいた。

 全長十メートルはあるだろうか。真っ白く皺だらけでブヨブヨした皮膚に、感覚器の類と思われる赤い突起が並んでいる。芋虫のような造形だが頭部は蛇、に近い何か。《ニヴルウォーム》。一応龍らしい。


 ゴロゴロと雪の上を転がる。やわらかい雪がひんやりと気持ちいい。


「って寝てる場合じゃないっ」

 

 バッと立ち上がって状況確認。ソリは大破。犬は無事。灯里も大丈夫。しかし敵はもう雪の中へ潜ってしまったようだ。地面の下を蠢く音がメキメキと響いている。

 厄介なやつだ――なぜなら好物が犬なのだ。よりにもよって。


「イヌを回収してくれ!」


 俺はバッグから干し肉を取り出す。噛み続けるとジワジワと旨味が出てくるがあまり腹は膨れない、食料品というよりは嗜好品。なんの肉かはわからないコイツは、異様に臭い。

 顔から遠く離しても嗅覚を刺激し続ける肉を持って仲間たちと逆の方向へ駆ける。振動の位置で足元を這う音がこちらに狙いをつけているのがわかった。


 ――再び揺れが最高潮に達したそのとき、干し肉を宙へ投げ捨てる。餌に見事食いついた芋虫龍は雪中に逃げ去る前に、俺の長剣の閃きに胴体を寸断された。

 

「おっ」


 インベントリに新たなアイテムが追加されていた。《ニヴルウォームの肉》。動物系モンスターは大概肉系の食用アイテムをドロップする。そういえば、まだ得体のしれないモンスターの肉は食べたことがないな。旨いのかな……。


 ――灯里がソリを操ってこちらに近づいてきた。俺のソリから離脱した犬たちは、残らず彼女のそれに繋がれていた。


「ソリはまだあるけど――」


「う、うん、けど節約できるならこれでいいかなって。それに――」

「……なるほど」


 

 彼女がソワソワしている理由が俺にもすぐわかった。また辺りが揺れてきたのだ。しかもしこたま揺れている。今度はどこにいるとかそういう規模ではない。

 ――そこら中にいる!


「――失礼っ」

「はいっ」


 そこにしかスペースがないので、考える間もなく灯里の後ろに跳び乗る。彼女の手綱を引き取って犬達に発進の命を下す。全速前進。かつなるべく直線軌道を避け、敵をかく乱。

 飛び出てきたニヴルウォームの群れ。弾き飛ばされ崩れ落ちる雪の音がドドドドドと鳴り響く。


「おおおぉぉお」

「わあああぁぁ」


 ニヴルウォームがすぐ脇に潜ったり、出てきたりするたびに雪の塊がこちらにぶつかってくる。大量の巨大生物が雪原を移動する音で、突然大瀑布が出現したかのような騒ぎになっている。

 降り注ぐ龍族の雨に飲まれつつもなんとか犬を操り切り、第一波を躱す。まだまだまだいる。追いかけてきている。


「しっかり座ってて」

「うん。よろしくお願いしますっ」


 よくよく考えると後ろから抱きしめるような形になっているが、今はそれをどうこうしている暇はない。手に握る紐に神経を集中し、俺の騎乗スキルと、文句一つ言わずに走り続けてくれている犬達に祈りを捧げる。


「行くぞっ!」

 

 障害物競走の始まりだ。


 


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