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1-17『あかりんが一晩でやってくれました』

 ――二人の女子の間に突如流れた緊張の波。

 何かがおかしいのはきっと寒いからに違いない考えた俺は、二人を連れて今晩の宿へと移動することにした。

 灯里の冷ややかな視線を受け背中のマツリを引っぺがすと、彼女はブーブー言いながらも歩き始めた。


 宿ホテルに到着しとりあえず俺の部屋に行く。おかっぱの小娘は部屋に入るやいなやベッドに飛び込み、暴れてシーツをぐちゃぐちゃにした。

 備え付けの木椅子には灯里が腰掛け、俺は入り口のドアに背中を預けることにする。

 

 俺の一時逃れは全く効かず、微妙な空気はそのままだった。その中で先に口を開いたのはマツリだ。


「……で、セフィってこっちの世界のセフィとかそういうの?」


「……いや、俺達がよく知ってるあのセフィだ。あと本名は灯里あかりな」


 俺は旅の目的、灯里との再会の経緯や、現在は第三のダンジョンを目指して共に行動していることなどを時系列を追って説明する。


「だから、今はマツリと遊びには行けない。ごめんな」


「むぅー……」


 バタバタと、彼女が不満をベッド上のあらゆるものにぶつけるので俺の今夜の寝床はひどいありさまになっている。コイツめ……。

 やがて満足したのかおとなしくなったマツリだが、しばらく黙っていたのちに俺に振り向いて呟くように言った。


「二人は……」


「ん?」


「二人は付き合ってるの?」


「は?」「ふえ?」


 灯里も固まっている。突然何を……。


「マルちゃんにこの街にハルがいるよーって教えてもらって、ボクハルに会えたら絶対言わなきゃいけないことがあって、いざ対面したらどうしていいかわからなくなって、でもハルがセフィと付き合ってるなら意味なくなちょもがもがもががが」


 まくしたてるマツリを掛布団の重しにより封じることで静止したのは灯里だった。


「――ハルくん」


 こちらに振り返った灯里の眼には何か尋常でない光が宿っていた。


「は、はい」


「今日はこの子とお話があるから、連れて行っちゃうね。私の部屋に泊めるから。食料品の整理と明日の準備なんだけど、お願いしてもいい?ごめんね」


 

「あ、ああ。いや任せて」


「では」

「なーにーすーるーぅー」

 

 しゅびっと敬礼した灯里は異様な力を発揮して、逃れようとジタバタ暴れるマツリを引きずっていく。

 わめき声が遠ざかっていき、俺だけが残された部屋は完全に沈黙した。


「……寝るか」


 俺には何が何だか分からなくなっていたので、指示通り素直に晩御飯食べて風呂入って荷物整理して、寝た。

 灯里とマツリが寝ているはずの隣からは二人の話し声が聞こえてくるような気がしたが、内容を窺い知ることはできなかった。



――――――――――――――



 再び出発の朝がやってきた。今日は食事を取ってすぐ街を出る予定になっている。

 身支度を終えて隣の部屋の前に至る。灯里が起床していたらいいなあと思いつつ扉を二回ノックする。


「――起きてるか?」


 返事なし。起きてもらわないと困るのだが、俺が中に押し入るわけにも行かない。

 なすすべもなく立ち尽くしていると、足の運びで床が小さく響くのを感じた。


「ふわ~ぁ。灯里ちゃんならまだ寝てるよ」


 まだまだ眠そうに目をこすり、こちらへ歩いてくるのはマツリだ。

 やはりか。ん……?


「起こしてこようか?一緒に入る?」


「……前者で頼む」


 マツリのみが部屋に入るとやがて家捜しでもしているかのような音が響き始めた。他に宿泊客がいないからいいものを、平時なら苦情を免れないだろう。

 騒ぎが終了すると扉が開かれ、上から下までいつもの通りに着飾った灯里が姿を現した。相当急いだのか肩が上下している。よく見るとさらさらの銀髪にぴょんと飛び出ている部分がある。

 

「――お待たせ」


「おはよう。寝ぐせついてるぞ」


「あっ、もう……マツリちゃんが起こしてくれるって言ったのにぃ……」


 んん?なんか――


「――仲良くなってる?」


 呼び方が親しくなっている。一晩の間に一体何があったのか。俺が再び混乱しているのを見て、マツリは灯里の腰に抱き着き、顔を首筋にこすり付けだした。灯里はそれをくすぐったそうにしているが、嫌がる雰囲気はまるでない。


「へへへー」「ふふ」


 食事中も二人の話には花が咲きまくり、少女たちの関係は一見往年の大親友のようにしか見えない。

 もはや再開時の緊張感や、現在の親密さの理由など俺に知るすべはなく、触れるのも怖いので知り合いの仲が良いならなんでもいいかという結論に落ち着いた。



 ――そしてときは来る。ここから先の旅に馬は使わない。ひとまず雪原までは徒歩で向かうことになる。

 三人で街の北入り口まで。灯里とマツリは抱き合って別れの挨拶をしている。何やら内緒話も行われているようだ。二人が離れたのを見計らって、声をかける。


「マツリ、今更だけど一緒に行くか?ダンジョンには入れないだろうけど、パレッサまででもマツリがいてくれたら心強いし」


 二人より三人の方が旅のリスクを軽減できる。灯里もその方が嬉しいかもしれない。 


「んーやめとく。やっぱり寒いのヤだし。マルちゃんにもハルに会ったら戻ってこいって言われてるんだー」


 マツリ本人がそういうのなら仕方がない。彼女にもベルセルクの副リーダーとしての任務が待っているのだろうか。


「そっか。で結局、俺に言わなきゃならないことってなんだ?今聞くよ」


 俺の催促にマツリはモゴモゴと口を動かして何かを言おうとしていたが、結局意味のわかる言葉は発さず、これだけ言った。


「次会ったら言う」


 では次の機会を楽しみにさせてもらおうではないか。 

 

「じゃあな」「灯里ちゃんにヘンなコトするなよー!」「しねえよ!」


 マツリの見送りを受け、俺達はオータルの更に北西、雪原へと繋がる峠を目指す。

 ゆるい丘を越えて街が見えなくなるまで、振り向くたびに彼女は手を振っていた。

 さて行こう。峠を越え雪と氷の世界、ニヴル地方へ。 

筆が遅いせいで最近ものすごく眠く、またSAOホロウリアリゼーションのビーター期間が始まったので(本題)、もしかすると毎日更新が出来なくなるかもしれません。


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