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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

人魚の最期

作者: 猫田ミケ

私は今、潮風に包まれている。

目を閉じ、五感で海を感じ取っている。

頬から髪の先まで撫でてくれる風。

ザザーン、ザザーンと一定の音を鳴らすそれは耳から入り脳を癒してくれる。

足元にはその一定の音と共に冷たさを感じさせる水。

口を開ければ、風と共に少し水滴が入りほんのり塩の味がしてる…気がするだけ。

五感で感じてるというのは言い過ぎたかもしれない。

しかし私はこれから嫌と言うほど五感で感じるのだ。

海を、全身で。

それもこれもあの女のせいである。

あの女が。母親が。


さかのぼるのは私が産まれてからである。

普通の初夏の朝方だと聞いた。

体重は3065、父の立ち会いのもと産まれた。

父が言うには綺麗な声で泣いていたと言うがきっと気のせいだ。

女の子だったら母親が、男の子だったら父親が名前を決めるという約束だったので母親が私に最初の贈り物をしてくれた。


それが私の人生を狂わす爆弾になるとも分からずに。


小学生の時、名前で少し男子からかわれた。

変な名前だからだ。

でもその時はまだ大丈夫だった。

友達が咎めてくれてたからだ。

ちゃんとした意味のある名前だと、その時までは信じていたからだ。

5年生の時、作文で名前の由来という宿題が出た。

私は早速、母に聞いた。

母は煙草の煙を吐きながら言った。


「なんとなく?」


半笑い気味にそう言うと出掛けていった。

なんとなく。一行で終わる文書。

私はその文字を消し、こうであったらいいなという言葉を綺麗に並べ提出した。

皆はどんなのだったんだろうと聞きたがったがなんとなくやめた。

皆も私には聞いてこなかった。


中学生になってからからかいがいじめになった。

男子も女子も。

体を殴るや、教科書を捨てるなどはされなかったが遠くから私をいつも笑い、無視をしていた。

思春期だった私はどうしても自分の名前が嫌で母に改名して転校したいと願った。

しかし、母は私の願いを聞いてくれないどころか怒り殴った。

その日から母からの虐待が始まった。

その頃には父は見てみぬふりをしていつのまにか家から消えていた。


高校生にもなるといじめはもっとエスカレートしていき、犯された。

名前通りに、男をとっかえひっかえで寝てるんだろうと何人にも廻された。

家で泣いていると知らない男の人がいて私を襲った。

致しながら男はべらべら喋っていた。

そこで分かったのは母は私を売ったのだということ。

そこからは自分でも覚えてない。

どうやってご飯を食べ、どうやって学校に行き、どうやって生活していたのか。

否、分からなくてもいい。

きっとろくでもない生活だったんだろう。


だから私は海に来た。

精子まみれのこの体を清めるため。

今までの人生から逃れるため。

この汚れた体を綺麗な海に預けにきたのだ。


名前の通りに、消えるため。


少しづつ歩み、それに反映するように海のかさが増していく。

足首から膝へ、膝から腰へ、腰から胸へ。

少し立ち止まり最期の空気を肺に送ると海に潜った。

手と足を動かすこともせず、ただずっと時にを待った。

上を見ると光と波がとても綺麗に揺れている。

それを見ていると心の何かが嫌だと叫んだ。


生きていればまだ何か良いことがあるかもしれない!

色々したいことだってある!

本当の友達と馬鹿して遊びたい!

素敵な人と出会って恋をして笑ったり怒ったり泣いたりしたい!

家庭を持って、子供を育てたい!

嫌だ!まだ死にたくない!

こんなところで死にたくない!


思いっきり手足を動かして上へ行こうとするが体が思う通りに動いてくれない。

体が酸素を欲し、思わず口を開けてしまった。

すると水が口の中に入り肺を侵していく。

鼻からも入り目が







『今日、北海道の○○市付近の海岸で死体が発見されました。死体は4日前のものと見受けられ、20代の女性でまだこれから詳しいことを―――………』







アリエル

泡姫の最期


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