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季節は巡り、いつのまにか春から夏になっていた。といってもまだ夏の始まりだけど。
6月の終わり、期末テストの少し前に学校行事の体育祭がある。生徒たちはそれに向けて練習を重ねていた。俺は大学もバレー部だったのでバレー部の顧問をすることになっていて、体育祭もバレーの審判を任されていた。
「先生バレーの審判やるんでしょ?私もバレーにすればよかったなー」
「私も!いいなぁ、バレー部の子は」
授業が終わるとちょこちょこ生徒たちと話す。
「いやいや、やっぱみんなが好きな競技をやらなきゃ。頑張ってね」
「はい!」
微笑みながら手を振った。生徒が集まって何やらコソコソ喋っている。ああ、もう放課後か。
俺は高校生の授業も担当するので、高校棟にも来る。だが、彼女には会えない。高3の担当は無かった。何故か少し残念な気持ちを抱えながら雲が多い空を見上げた。
「せーんせ」
「…!あっ」
「ぼーっとしちゃダメですよ。仕事してください」
「あ、うん…」
想いが通じたのか。
「じゃ、私部活なので行ってくるのです」
怜はうふふっと笑った。肩にはサックスを下げていた。
「あれ、吹部?」
「そうでーす!今忙しいので話しかけないでくださいね」
「れ…じゃなくて綾瀬が先に話してきたんだろ」
「えへへ。じゃ、さよなら」
ぱたぱたと走る後ろ姿は柔らかそうな真っ黒で綺麗な彼女の髪が揺れて可愛らしかった。俺ってこんなに乙女な考えを持っていたのだろうか。最近少女漫画の主人公のような心地になる。