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最初から彼女に恋をしていたのかもしれない。
数学教師になりたくて、体験実習にやって来た。しかも女子校である。
女生徒は男に免疫が無いのだろう、彼女らの視線は強かった。こんなに女の子がたくさんいるところに来たことが無かった。
初めて入った授業は高2の数B。テスト前ということもあり、テスト範囲が終わって自習をしていた。
担当の数学の先生は適当に回っててと声を掛けてくれた。はい、と俺は一つ返事をし、ぐるぐる生徒の周りを回っていた。教えるということが初めてで、一度母校の教育実習には行った事があるがまだまだ慣れなかった。
一人、計算が合わなくて困っている生徒がいた。俺は近寄って一緒に考えた。
「苦しいね、ここはkでくくってみ?」
急に俺が話しかけたので彼女は一瞬びっくりしていたがすぐにノートを睨み言った通りに計算した。
「あ…なるほどです」
その言葉が少しおもしろくて笑そうになった。俺は続けた。
「そうそう。で、こうやって両辺にかけてみる」
「ほう」
「出来たんじゃない?答えは?」
「あ、126です、合ってます!ありがとうございます」
計算ってケアレスミス多いからな…頑張れ。
その後もいろいろ見て回った。やはり生徒に教えることは楽しい。教師になりたいなと思った。
一つだけ、あの子のことが少し頭の隅に残っていた。