episode7
百合(女の子同士の恋愛)要素があるのでご注意ください。
長い髪の毛をそっと右手で撫で、そのまま白い頬に指先だけで触れる。小さく肩を揺らす彼女を見てあたしはやさしく微笑んだ。ねえ、授業サボってこんなこと、どんなきもち?って囁くように言うと、彼女は消え入りそうな声で恥ずかしいです、とだけ言った。
後ろで始業を告げるチャイムが鳴る。保健室の鍵はきっちり締めているし、養護教諭の先生は午後まで戻らない。誰もいないはずの保健室で、ふたりきりのひめごと。中高一貫の女子高の中で王子様ともてはやされ自分のファンクラブまでもが存在することを知らないふりをして本当はずっと前から知っていた。そして――そんなあたしを後ろから熱い視線で見つめる、ふたつ年下の可愛い女の子がいるってことも。
「せんぱいの、二番目でいいんです。なんなら三番目でも。あそばれても、いいから」
帰り際、玄関先で震える手でしっかりとあたしの腕を掴んだその女の子は、精いっぱいの勇気を振り絞ってそう言ったのだろう。今までもラブレターのようなものとか、ほんの戯れ程度の恋愛ごっこはあったし、たとえ女の子同士であったとしても思春期の好奇心を満たすのには十分なものだったけれども。
「すきです、先輩が」
熱っぽい目であたしを捉えるから。
「二番目でいいの?」
その腕を掴んでしまった。
先輩は好きな人いるんですか?首筋に唇を這わすあたしの耳元でそんな言葉が聞こえた。好きな人?そうね、好きよあなたのこと。目が合う。くちづけをするみたいに顔を近づけ、その額に軽く手を当てた。こんなことをする理由は単に女子高だからとか、あたしが男嫌いだからとかそういういたってシンプルなもの。プラスもマイナスもない。それ以上でもそれ以下でもない。そうほんの気まぐれ。青春ごっこ。可愛い女の子の恋愛に付き合っているだけだ。好きよ、と甘くやさしい声で言うとぱあっと熟れた林檎のように彼女の頬が赤く染まる。可愛いね、初々しくて。壊したいくらい。せんぱい、すき。うん、好き。言葉はくるくる。面白い、自分の言葉や指先ひとつでここまで翻弄される存在がいるなんて。不思議。
「でも、先輩はわたしのこと好きじゃないんでしょう?」
甘く、そしてほんのり毒を帯びたような声。白く透き通る肌はカーテンから漏れる光と重なって、ちょっとだけ眩しそうに目を細める彼女を、あたしはただただ、息が詰まる思いで見つめた。そういうことか、元々彼女はあたしが己の好奇心を満たすために付き合っているってことを知っていた。それを知らないふりをしていたのだ、きっと。一枚取られた。侮っていた。ますます彼女という存在に興味を抱かずにはいられない。そして、ほんの少しだけ、胸のあたりが痛くて。今の気持ちを形容する言葉が分からないあたしは、割れ物を触るみたいにひどくやさしい仕草で彼女を抱きしめた。
女子校って謎ですよね。私は中高大と共学なので未知の世界であります。