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episode6

 目が覚めたとき、時計の針は午後二時半前を差していた。ベタつく体を起こして、裸のままでシャワーへ向かう。三時には家を出て息子の薫を保育所へ迎えにいかなければならない。

「目覚めたか」

 シャワーから出てくると、島津はミネラルウォーターを投げて寄越した。

「何で起こしてくれなかったのよ。薫を迎えに行くって言ったじゃない」

「いや、あんまりにも気持ちよさげに寝てたから、起こしたら悪いと思ってな」

 この男はわざと私を起こさなかっただけだ。はぁ、とため息をついて水を飲み干す。薫を迎えに行って、帰りにスーパーで夕飯の買い物をして、それから、と考えていたらふいに後ろから抱き締められた。

「もう行くのか」

「当たり前でしょ、急がなきゃ。だから離してちょうだい」

 島津ははいはいと軽く笑うと、私を拘束していた腕を離した。

「なぁ、あんた、体大丈夫か?」

「なにが」

「ゴム着けてなかったけど、ガキ出来ねぇの?」

 ああ、と私は笑って

「安全日だしね、それに、ピル毎日飲んでるもの」

「成田さん前に早く二人目が欲しいって言ってたぜ」

「そりゃあ都合良いときに子供を気紛れに構うだけの人は楽よ。薫だってようやく手が少し離れてきたっていうのに。あの人、薫のオムツひとつ替えようとしなかったのよ」

 お義母さんにどれだけ気を使わないといけないのか、とか、いろんなことに気を揉んでいるかなんてあの人は知らない。たぶん今夜も七時前に夕飯はいらないから、と電話が入って私は薫とふたりで食事を摂る。仕事が忙しくて、を言い訳にしてどこぞの若い女と寝るあの人のために今日も私は、それでも夕飯を作らなければならない。

「なあ、成田さん」

「それは旦那の名前よ」

「――じゃ、響子さん。旦那とは別れないの?」

 別れないわよ、と私は笑った。遊んで帰る旦那は、自分の元部下と自分の妻がこういう関係だなんて少しも想像していないだろう。考えるだけでおかしくて堪らない。

「俺も会社辞めるんじゃなかったな」

「どうして?」

「成田さんに俺たちの関係ばらしたら、どんな顔するか見てみたかった」

 私は島津の頬を撫でると軽く舌で頬骨を舐めあげた。

「――殺すわよ」

「何、あんなろくでもない男をまだ愛してるのか」

「違う違う。殺すのは私じゃなくて、あの人よ。貴方、成田に殺されるわよ」

 あの男は、私と島津の関係を知れば間違いなく島津を殺すだろう。長年子供が出来なくてようやく待ち望んで産まれた一人息子なのだと、結婚してから義母に死ぬほど聴かされた。甘やかされて育って寂しがりやで、わがままで、それでいて人一倍独占欲が強い。

 ふうん、と島津はおもしろそうに笑った。私はコートを羽織ると車のキーを手にとった。

「ね、私のこと好き?」

「俺はあんたみたいな女、だいっきらいだね」

 島津はそう言って噛みつくみたいなキスをする。

 この男は私を愛して仕方ないのだ。

 息子を迎えに行って、夕飯の支度をする。今日も、明日も。たまに島津と昼から寝て、子供を欲しがる旦那とセックスをして、私は毎日ピルを飲む。たぶんこれからも。


残り4話です~。お付き合い頂ければ幸いです。

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