副題 愛と勇気の好きにして
異世界に召喚された勇者が、その世界の危機か、はたまた召喚主の脅威と戦い、安寧と平和をもたらす。ナイスな話である、勇者にはもちろん彼か彼女かの生活における意味のない強力な力が備わっている、または召喚時に備えられるのが王道というものだ。高校生、間且アキラはしみじみとそんな下らない事を考えていた。
これが授業中なら更にナイスな事だろう、彼の嫌いな科目なり分野なりから逃避する事に充てているので、そういう時は飯時か放課のどちらか近いのが常套なのだから。
だが今は最悪だった。
白大理石の石畳に世界史で見た古代建築のような柱が生え、天井は高いか暗いかで見えない。
白い炎が柱の刳り貫かれた部分で燃えていて(間接照明のつもりなのだろう、だが柱に穴を穿ち過ぎているので光源というよりはチラつきといったほうが相応しい)その熱気で空間を熱しているのがわかる。
いや嘘だ、熱気は白い炎(触媒はなんだろうか? 白い炎なんて化学の教科書の後ろのページでも見た事がない)から出ているのではない。
目の前には色々な動物の死体(たぶん人間も混じっている、左手が見えているのだ)と食べ物や種々雑多な物が滅茶苦茶を超えてヤケクソに詰まれており――
――祈祷をする群集が彼を囲んでいたのだから。
「……あ、唱和やめい! やめい、降神はなれり! 降神はなれり!」
アキラを一瞥して一拍間を置き、老人(教皇、法主、つまり宗教組織の首長だろう。千単位でいると思われる人々の中から突出して、豪華で無意味で強圧的で清潔な装いをして一番前にいたからきっとそうであろう)は驚愕と感激を顔に浮かべて群集に沈静を令じた。
潮のように大音声の唱和が引いていき、勢いのある引きの後にはお定まりの轟音が響く。
歓喜の声、黄色い悲鳴、号泣、そんなものが綯い交ぜになって感情そのものとしてアキラへと叩きつけられた。
「静まれ! 静まれ! えぇい静ま――アガッ!」
顔をしかめたアキラを見て、不快な思いをさせてはならぬと焦ったのだろうか? 老人は声を上げて群衆に再び沈静を命じたが、必死になって大声を上げるために背をそらし、腰を痛めたようだ。すぐに傍仕えらしき人間がやってきて彼を支えて脇へと運んでいく。
老人と入れ替わりにまた偉そうな格好の男が入ってくる、老人とは違い傍仕えに女がいる……宗教組織なのにそれはいいのだろうか? それとも清楚といより無垢な雰囲気から巫女かもしれない。
男――壮年に近い彼が両手を挙げると群集は徐々に静まり始めた。(腰を痛めた辺りから騒ぎが止み始めていたとも取れるが)壮年の男は声を上げて演じ始める。
「皆様方! 静粛に! 我らが悲願を、救世の願いを聞き届けてくださって異界より済世者が現れました! これよりは不幸と嘆きの日々は終わり、平穏と安寧の道が開かれたのです!」
その言葉に再び群集が声を上げようとするのを彼は片手を上げて制する。
「以降は係りの者に従い、聖堂より退出を願います! 天魔らの攻撃は近い、避難の準備を!」
喜びを纏っていた集まりに緊張が走り、機能的に動き始める。アキラから顔の判別がつく程度で手近にいる者も、皆一様にどこか悲壮な表情をしていた。
壮年の彼は救世の願い、攻撃が近いと言っていたことから最初に思ったとおりのことでここにアキラはいるのだろう。
どうせ夢かなにかなのだ、群集より体をそらした彼も少し手が空いたと思うので、声を掛けてみる事にする。
「あのう……すいません、これどういうことですか?」
「言葉は通じますね? もちろん我らがそうなるように貴方を、君を呼んだ。今は時間がない、黙って着いてきたまえ」
「はは、よくできた夢――」
「――夢なんて良いものではありませんぞ、着いてきなさい」
聖堂を出て直ぐの廊下は一定間隔に置かれた篝火(こちらは橙色の普通の火だ)以外に明かりがなく、照らされた範囲にも窓はない。どうやら採光が考えられていない建築様式なんだろう。その証拠に先ほどからそれとなく壁に手を着いてみても節や継ぎ目などがなく、絹のようにサラッとした感触と石のような冷たい硬さが掌へと伝わってくる。
(大理石なのかな? きっと白いね、これは)
そして前を行く二人、男と巫女を見る。
ぼやっとした照らされ方で浮かび上がる彼の肩は落ちており、巫女の方が対照的に肩を張っているかのように見えるほどだ。
足元でも見ようかしらと言うくらいには落ちている。
肩を落とすということは自分の召喚が期待外れの結果だったのだろう。どうせ呼ぶなら自分だってコナン・ザ・グレートを呼びたい。
蛮人の王コナン、彼はハイパーボレアの魔を払い悪を砕き己の国を作ったほどの男だ……自分が女なら惚れると言ってもいい。
しかし脇道に逸れようとしても思考は現実を突きつけてきている、逃げようとしても無駄だぞという無意識の叫びなのだろう。
その、犬のように吼える現実はこうだ。
『さっきの爺さんは救世だの再生? だのを叫んでいた。高校生のお前が何かできるのか』
アキラは少し歩みを緩める。
(そうだ、俺は何もできないガキじゃねーか! こういう時に役に立つのはなんだったっけ?)
少年は活を求めて十七年の知識と経験を総動員する。
歴史で習った! 数学とか役に立つ! 立たない。ここまでの建築ができるという事は数学なんざお手の物。
科学! 異世界なら魔法とかで科学が発達していない! 脳みそを弄くったのかどうかは知らないがアキラに翻訳機能を与えるくらいには解明が進んでいるのだろう。科学的なアプローチの一つや二つは平気でしているに違いない、というか壁にかかってる篝火と思っていたのはランプだった……。
か、漢字。 必要ない、このような巨大であろう建築物を建てるという事は度量衡の統一といった諸々のことは既に済ませているはずだ、言葉も整理が済んでいるのは翻訳機能を着ける事から推測できる。
じゃあどうするんだ、間且アキラ。
(夢だな、だから目が覚める)
現実逃避が一番だ、現実もクソも無い状況で現実逃避をするということは現実に変えるという事に繋がるだろう。
「俺は布団で寝ている、俺は布団で寝ている……」
右に左にと差し込んでいる爪先らしき黒い動きを見下ろして、アキラはブツブツと救済の呪文を唱える。
「……だから夢じゃないですよ、思いっきり殴りましょうか?」
物騒な声掛けに顔を上げると、先を行く男の傍仕えらしき巫女が肩越しにこちらを睨んでいた。
羽毛のような柔らかさと羽のような鋭さを持った目は赤く照らされている。
「いや、あの……その……まだ飲み込めなくて」
「シェゲ、年が近そうに見えても実態はどうかわからん方だ。それに大聖様に対して言葉が過ぎるぞ」
「え、と……急いでるのでしたね、すいません……歩きながら話をしませんか」
気を紛らわしたかったアキラが会話を求めるも、すげなく巫女――シェゲは却下する。
「必要ございません大聖様、巫女といえども貴方様にとっては下賎なものです」
「シェゲ、よすんだ」
再度の制止にシェゲ、彼女は歩調を乱すことなく沈黙だけで答えている。
男の方ならまだ事務的な会話くらいは許してもらえるかもしれない
「あー……その、僕の名前は間且アキラと申します」
「マガツアキラ、それが名前かね……いや名前でございましょうか」
口調を訂正する辺り、見た目の年齢と格好からするとなかなか砕けた人物なのかもしれない。もしくは先ほど感じたようにアキラに諦観を見出しており、憤り始めているやもしれないが……。
しかし、返事をしてくれたのは大きな一歩だろう。話を続ける事にする。
「はい、アキラが名前で。姓は間且です」
「家名を持つのか――、はぁ……私の名前はゴポク。法主、先ほど君の前で迷衆らに声を掛けていた方に準ずる位を賜る一人だ。得度したので家名は無い」
「はぁ……」
「この娘はシェゲ、君の傍に仕える事になる」
「はい……」
「そしてこれから君は……あー」
言葉に詰まる彼が常識的な男でない事を祈る、このくらいの男がアキラのような少年に言い淀む時は厄介事だと常識で決まっているからだ。救世はわがままな老人の肩を叩いてまわることだろう。きっとそうに違いない。
少しおどけて返事をしよう。
「あー?」
「そうだな、世界を救う。そして人々から感謝されて歴史にも名が残る。われわれは子々孫々に至るまで君に感謝を忘れない。という所だな」
「うわぁ、ありがたいはなしですね」
「そうだ、ありがたい御方が、貴方が今ここにいる理由です」
「……具体的にどうぞ、気遣いなどお構いなく」
気遣い無用の言葉に巫女の歩みが止まり、こちらへ振り向く。睨め上げるようにして彼女はアキラを見つめて呪文を唱えるように囁いた。
「あなたはこれより異界の邪神を倒すのです、皆の希望と救世の願いを負って」
アキラは思いっきり目を閉じた。一番聞きたくない言葉を一番言ってほしくない人間の口から出たのだから。
年の近い女に言われなけりゃまだ駄々をこねるように断れたろうが、下らない見栄で返事を渋るくらいしかできない。
誰でもいいから変わってくれ、みんなの大好きな勇者物のお話だぞ。
「誰でもいいというわけじゃない! このような結果では納得しかねますぞ!」
暗い回廊を抜け、アキラ二人分ほどの高さの大扉を潜ると紙と記号と汗と体臭が充満する広間に出るとゴポクと近い年を思わせる怒声が響いた。
明暗の差にアキラの目が焼かれてしまうと、刺激を送ってくる。数度瞬く内に成れていき、先ほどの印象が間違っている事を理解した。
充満なんてものじゃない、雑然として溢れ返っている。大きな卓の上には色々な図や表の書かれた紙が広がっていて、その上にはティーカップか茶飲みであろう耳着きの椀が積まれている。卓から離れた方には山となって茶場や食べカスの着いた空き箱が詰まれており、量からしてかなりの人数が飲み食いをしたか、かなりの時間をここで過ごした事を物語っている。
そしてゴポクと年が近いなんてものじゃない、明らかに老人がいる。法主と同じか大して違わない年齢の、禿頭で、皺だらけで白い顎鬚を蓄えた老人が、彼よりも矍鑠として辺りの人間を……特に白尽くめである宗教関係者を怒鳴り散らしていた。
「もちろん、閣下の言うとおり誰でもいいわけではありません。かの天魔に相対し、それを凌駕するものを召喚したのですから」
広間に足を差し込むよりも早く、広間に差し込む足よりも柔らかくゴポクが訂正をする。
「ふん! どうだかな、まったく法連らも地に落ちたものだ! 少年に頼るなど嘆かわしい!」
「我ら全てが地に落ちる時は天魔が勝利を得る時のみです。そしてあなた方、衆連のご活躍でそのような事は起こりえないことは十全に承知していただいているはずです」
「それで貴様らを地から遠ざけるために今以上に若者やら弱者の死体を重ねるわけだ」
「責務の重圧からの救問をお望みでしたら、いつでもお引き受けいたしますよ」
「クソガキが!」
愚痴りたいだけ愚痴ってから老人は椅子を回して背を向けた。
「改めてご紹介しましょう。我らが救世の御方、済世者、大聖マガツさまです」
回廊での態度とは打って変わってそこには法主に準ずる位階の男がいた。
広間にいる人間がいっせいに値踏みをするかのような視線でアキラを見る。
そこにいるのは十七歳のただの少年、おまけに詰襟の学ランを着ているので白を尊ぶであろうここの宗教とは相反する色を身に纏っている事になる。
頼りないわ、罰当たりだか縁起が悪いかの服装をしている少年を見て期待する奴はバカだろう。
そしてここにはバカは一人もいない、おそらくこの国中でトップの人間ばかりいるのは間違いが無い。
アキラは値踏みの視線がだんだんと敵意や不信のそれへと変わっていくのを肌で感じた。
口ひげを生やした中年の男がゴポクに尋ねる。
「彼で勝てるのか?」
「定めがそうあるなら。ですがアレだけの時間と犠牲を払って勝てないでは余りにもこの世は非情でしょうな」
「わからないのか?」
「未来視をするものたちは一様に黙しておりますゆえ」
ゴポクの返答で口ひげの男の表情は険しい者へと変わっていく。
「……黙っているなら首肯をさせるとかあるだろう」
口ひげの男の左斜向かいの席、三十路半ばほどの比較的若年の男がとぼけたような事を言って迫る。
「ご存知の通り、未来視をするものは未来を視ることで我々の時間と差が生じておりますゆえ……」
アキラから興味が去ったのか質問が逸れようとしたその時に再び椅子を回転させて老人、閣下が声を上げる。
「今は! そんな寝ぼすけどもの是非を問う時ではない! その少年で! 我々が! どういう風に! 活路を見出せるかどうかだろう!」
閣下に賛同を表すことなく皆が再びアキラへと焦点を合わせる。
「彼はどのくらい戦える? 最低、どれほどの時間を稼げる?」
「皆様方が発掘した遺物の威力によります」
「おい! 遺物だ! さっさと持って来い! ウスノロども! ノンビリすればするほど地獄の入り口が走って近寄るぞ!」
閣下の音声が放たれるや否や、右の大扉から騒音が聞こえる。
「あの……ゴポクさん、遺物って? それに戦うとか?」
アキラがゴポクへと問うと顔を合わせずに彼は答えた。
「聖なる遺物だ。我々が召喚をした異界の者はかならず超常の力と膂力を備えている」
「えっと、何と戦うのですか?」
「天魔だ」
先ほどから誰も詳しくアキラに求められている事を教えようとはしない。テンマテンマと口にはしてもそれが何を示すのか説明すらしない。救済を求めるのなら説いて当然のことをしないということは避けているということだ。
破れかぶれに問いを重ねる。
「テンマとは?」
「異界より攻めてきた邪神だよ」
「じゃ、邪神ってそんな! 僕みたいな子供には相手できませんよ!」
「邪神も君のような子供……児童神だよ」
「は?」
片手で顔を抑え、ゴポクは黙り込む。
「そうら! さっさと封を解け! こっちには大聖がいるんだろ! 呪われる事は無い! 呪われたくらいでビビるなガキども!」
広間では一番あの世が近い閣下が誰よりも元気良く吼えていた。そして右の大扉が開かれると――。
――一気にアキラの思考は加速した。
どう見ても邪悪さ丸出しの意匠を凝らした鉛のような金属製の棺おけが、勝手に独りでに運び手たちの手から離れてアキラの前に刺さるようにやって来る。箱の邪悪さに諦めきった彼は既に世界より感覚を閉じているのでその衝撃は感じない。棺おけが開く、開いた端から黒い光線が辺りを逆に白く染めていく。女や赤子の泣き叫び声を伴っており、その時点で運び手は目と鼻と耳と口から血を吐いて絶命をする。だのに大声を絶叫をあげて苦悶の声を響かせる。そして彼らの体から魂と思える透き通った似姿がこれまた邪悪な笑い声を上げた死神たちに刈り取られていく。窓の、閣下の背にある窓には目が幾重にもアキラを眺めており笑みの形を浮かべてその時点からアキラの耳には哄笑が響き渡る。哄笑は模していた、今この場で力なく呪いに苛まれて死ぬ人間たちの絶叫を模して笑っている。全てを嘲笑っており、全てを冒涜していた。喧騒も乱痴気騒ぎも虐殺も終わっていない広間を見ると重臣と思しき先ほどまで質問をしていた歴々は高位の宗教者たちの張るバリアのようなものやそれぞれが抜き去った獲物で死神を追っ払っている。獲物は棺おけとは違い刀身が光を集めたものだ。ずるい。開いた棺おけより鉞が飛び出す。赤と黒の石英、に苦悶に満ちた表情の人面と人骨をエッチングだかカーヴィングだかエングレーブだかしたそれが現れる。
「オバーハッハッハッハッハッハッハ! 我が復活はなれり我が復活はなれり! 愚かな人間どもよぉおお! 我を裏切りし亜人どもよぉおおお! 我を苛みし神々よぉぉぉ! 我を厭うた世界よぉぉぉ! 復讐の時はきたれり! 我が復讐の時は来たれりぃぃ!」
鉞の帰還を告げる吼え声が広間の隅にいたであろう最後の静寂を食い散らかしていく。
「そうだ! 復讐だ! あんのクソボケども、ド畜生どもを皆殺しにするのだ! 女子供問わずにぶち殺して豚の餌にしてやるときが来たのだぁぁぁっぁぁぁ!」
老人も合わせて吼えた。
「我を振るえ、異界の童よ! 我を振るえ! 我を振るえ! 我を振るえ! 我を振るえぇぇぇぇ!」
鉞が迫ってくるがもうそんなものはどうでもいい。
ぎりぎりと、首を捻りながら、アキラはゴポクのほうを見やる。
「これがじゃしんですか?」
「いや邪神はこれじゃない、神代の傍迷惑な大量殺戮兵器の一種だ。邪神はこれより遠いがすぐ近くにいる」
「近くって?」
ゴポクはすっと、窓を指差した。
振るえ振るえとうるさいマサカリを脇へとポイ捨てをしアキラは窓へと歩む。
窓の外では難民らしき群集が骸骨と腐乱死体の群れに食い散らかされていくのを警備隊らしき兵士が必死に食い止めている。
先ほどに多様な事を見たので直ぐに興味がうせる。これじゃないだろう、これだったらゴポクの態度はもっと判り易い物だ。
うごうごと立てられた建築物の間で謝肉祭が繰り広げられる、その先には城壁だ。ここは城塞都市だったのだ。
城壁の先には地平線があり、その手前には難民以上に数をそろえて整然とした人らしき集団が地面に敷かれていた。
そして窓をぶち割って大音声が響く。
「ゴミクズども! 死出の準備はできたかー! この私、絶対正義の絶対誅伐者が貴様らもろとも邪悪の根を根絶してあげちゃう! 自害する時間はくれてやる! 死ぬか殺されるか選べぇぇぇ!」
アキラは足を天に向けて倒れた。これでようやくこの悪夢が終わる。今度こそ終わる、終わって当然だ、終わっちまえクソが!
そんなはずはないのだ、ありえることではないのだ、夢だからありえるし夢だからこうなるのだ。
夢でなければどうしてこのように酷く悪夢的で突拍子も無く脈絡も無い事が起きるのだ。
夢であるからしてこれは不思議でもなんでもない。
声だけじゃない、そう、見えたのだ。
幼馴染の女が、佐藤エリカが白一色の武装に身を固めて、どう見ても邪悪には思えない人々を指揮している姿が見えたのだ。
時を遡り、アキラ召喚が成る半年前……我々で言うところの24ヶ月前の事。
様々な人種が大挙して集い、救世を願っていた。
「ぉぉぉぉ! 神よ、聞き届け給え! 我らが苦急に慈悲を!」
「神よ!」
「ぉぉ! 神よ!」
少数民族連合の聖地で人々は祈っていた。組織化から大国化への変化を恐れた列強に先手を打たれ、連合が瓦解し全滅を待つ身である人々は救いを求めた。
彼らには導くものがいない、導くものとはこの聖地、人々が強圧的な列強に去らされるよりも遥か過去の、栄華と共栄を誇ったこの聖地だけだった。
強国の強兵らに街を家を焼かれて追われ、寄る辺の無くなった人々が今救世を願っていた。
捧げる物など無い、捧げるほどの気力すらない人々はただ只管に、無心に、真摯に祈った。
神よ、救いたまえ! 我らを救いたまえ!
その時、不思議な事が起こった。神かさだかではないが、祈りに答えるものがいたのだ。
純白の光が爆発したように広がっていき、辺りに舞う塵が太陽に照らされたブリザードのように光を乱反射させる。
まるで光の翼を携えた天使が降天し、その羽を散らしたかのように人々は錯覚をした。
そして――そこには一人の少女がいた。
「……んあぁ~まだねむいー、もうちょっと寝かせて」
救世主の降臨に歓喜の声を上げようとして――喉を詰まらせる。
とにかく寝かせよう、救世主様が寝たいとおっしゃっているのだから。
邪神高校生・佐藤エリカ 前説 終わる
すんません、あらすじに書いてしまいました。
ほんとすんません。