序章
荒れた大地。
見渡しても、人影はない。
当然だ。
この世界にはもう人はいないから。
いないのなら、生き物はいるのか?
それは否だ。
何かが動く気配はない。
獲物を追いかける動物もここにはいない。植物が根を張り巡らせて、空に向かって背を伸ばしていくこともない。
風が吹き抜けることもない。
光がこの場に届く子もない。
そんな世界になってしまったのだ。
静けさが辺りに満ちていた。
自分が動かなければ物音一つしない。
寂しすぎる世界だった。
今がいったい何時なのか?
太陽が見えないから夜かもしれないけど、元々太陽は空に隠されていたから、自分が機械に頼ることなく、時間を知ることは出来ない。
今がいったいどの季節なのか?
目に入ってくる情報からではわからない。
春のような陽気な暖かさもなく、夏のようなじめじめした感じもなく、秋のようなひっそりと寒さもなく、冬のような凍えるような冷たさもない。
今がいったい何年なのか?
毎日が毎日でなくなった。
だから、暦を気にすることもなくなった。知ろうと思えば知ることはできる。だけど、知ってしまえば、この世界があの時からどれほど経ったのか、わかってしまう。
あの悲劇は忘れていたい。
忘れてしまいたい。
しかし、そうすることが出来ない。
こんな世界にしてしまった自分の罪を忘れることはしてはならない。一生抱えなければいけないのだ。
少年は見上げる。
空に顔を向ける。
青かった空は、今は全体が黒ずんでいた。
その黒ずみは、やがて世界を飲み込んでいくはずだ。
そして世界は終わりを迎える。
空から響くのは、終わりを告げる鐘の音だ。