PPG外伝 1942冬 【突撃お嬢、奮戦ス!!】(短編試供版)
時は1942年、冬……
PPG世界に再び冬が到来した。
サタンクロースから始まるCETO北部戦闘管区加盟国による中部欧州防衛作戦……
【バルバロッサ戦役】
も何とか成功し、安堵するプロイセンだったが、その間隙を突くように北より忍び寄る影があった……
バルバロッサ戦役の消耗よりプロイセンが回復しきれぬ中、再び魔女の大釜が煮沸きたつのだった!!
「ミッコミコにしてあげるっ!」
とある少女装甲将校の戦場手記に残された言葉より抜粋……
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1942年12月、冬……
フィンランド/ソビエト国境地帯
ラドガ湖西岸近隣
「ハンナちゃん、装填お願い! 弾種【高速徹甲弾(HVAP)】!」
「ヤボールですわ!」
車長用のペリスコーブから注意深く周囲を警戒していた少女のコマンドに、打てば響くように、されど優雅さや気品を失わずに答える長身の少女。
するとジャイロにより二軸安定化された砲手用照準機を覗いていた小柄な少女は、
「ウホッ♪ まさに選り取りみどり! 入れ食いとはこのことッスよ〜☆」
「ユッタ! あんま嬉しそうに舌舐めずりすんなって! こちとら雪に足回り取られないように一苦労だっつーの!」
平常運転と言えばまさにそのままの苦楽を共にした仲間……自分と同じくらいの年代の少女達に頼もしさを感じながら、厚ぼったい冬季戦用パンツァー・ジャケットにフィンランド陸軍"少尉"の階級章を付けた少女"ミコ"こと、【ミコワルツェ・バーンシュタイン】は、新進気鋭の前線装甲将校としては少し迫力の足りない笑みで、
「サラちゃんのテクなら問題ないよ! ユッタちゃん、むしろその意気その意気!」
そう短く返すと首輪のような咽頭マイクに繋がれたテレフケン社製の最新型ゲルマニウム・トランジスタ通信機をオンにしながら、
「小隊のみんな、聞こえる!? 知っての通り……今、わたしたちの祖国は、久しぶりのロシアンスキーの大攻勢を受けて絶対絶滅のピンチだけど……」
ミリアは、小柄な肢体に反して強い意思を瞳に宿し、
「それがどうしたって言うの! 数の劣勢なんて、わたしたちスオミ(フィンランド)人にとってはいつものことだよ! だから今度も……」
ミコは一度大きく息を吸うと、
「みんなでバカイワンに"冬の戦争"を教育してあげよっ!!」
彼女の魂が乗り移ったように、原型の吸/排気系と燃料供給装置を見直す事により更にパワフルになったV型12気筒ディーゼルが、450馬力の勇ましい咆哮を上げる!
「小隊全車、パンツァー・フォー!!」
少女達の硝煙と機械油、そして血の匂いにまみれた"鋼鉄の物語"はまだ始まったばかりだった……
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どうしてこうなってしまったのだろう?
「世の中は常にこんな筈じゃなかったことばかりだ」
とは少年魔導師の弁だが、確かにもし世が平和なら、きっと装甲に押し込められた少女達は、今頃きっと暢気に女子校に通い、とるに足らないコイバナな最新のスイーツの話題で盛り上がっていたのかもしれない。
だが、彼女達の生まれた場所も時代も悪すぎた。
彼女達が厳冬のラドガ湖畔で砲火の只中に身を曝すには、いくつかの前提があった。
一つはプロイセンを中心とするCETO北部戦闘管区総軍vsソビエト赤軍を中心とした赤色連合軍が史上空前の規模で激突し、ポーランド等の中部欧州を血の大地に変えた
【バルバロッサ防衛作戦(バルバロッサ戦役)】
だ。
"サタンクロース"から始まり、結果的にプロイセンとソ連の中部欧州での全面衝突に発展した42年最大と称していい一連の戦いは、補給線が短いというメリットが最大限に生きたせいもあり、辛くもCETO側の勝利(防衛成功)という形で幕を閉じた。
確かにソ連は一時的に息切れを起こし、作戦本部をポーランド東部まで移したが、かといって戦争を諦めた訳では断じて無かった。
つまり、
「正面突破が駄目なら、搦め手から攻める」
という戦力判断に切り替えたのだ。
☆☆☆
具体的に言うなら先ず最初に行われたのは、黒海を時計回りに回り込む"南侵"だ。
だが、意外と言ってはなんだが……
南侵はフランスとイタリアを中心とするCETO南部戦闘管区総軍の"予想外の善戦"により頓挫する事になる。
実はこの二国、確かに陸軍に限れば取り立てて見るべき所はないが、中々に優れた防空軍を持ち、またプロイセンを凌ぐ海軍力を持っていた。
何の事はない。
録な海軍力を持たないソビエトに対し、アメリカが対日戦で猛威を奮った
【海上からの陸上施設/拠点直接艦砲射撃】
という戦術を、大規模にそして徹底的に実行したのだ。
艦艇は言うに及ばず、空陸含めてもまともな対艦兵器を装備してないソ連は、地中海からダーダネルス海峡を通り押し寄せる仏伊戦艦部隊になんら有効な手立ては打てなかった。
更に手がつけられ無かったのは、後に合流した【バルバロッサ戦役】では脇役に甘んじていた、プロイセン海軍機動部隊だ。
戦艦の数は劣るが、CETO加盟国では唯一まともに空母を運用していたプロイセン海軍は、艦数の関係から本家米国に比べれば威力も迫力もかなり落ちるとは言え、ロングレンジ(あるいはアウトレンジ)からの攻撃を敢行し、手酷いダメージと出血を強いた。
南欧州は古来より、とにかく複雑に陸地に入りくんだ海路と沿岸部の補給路を確保しないと、途端に難易度が跳ね上がる。
例えばアルプス山脈は古来より自然の要害として機能しており、当然のように大規模な機甲兵力の展開や自動車を用いた大規模陸運にはとことん向かない。
また機甲化した部隊であればこそ、人馬の時代に比べても格段に消耗する物資は膨大で、輸送ロジックへの負荷は大きい。
そんな状況にありながらもお膝元の黒海すらも制海権を奪われ好き放題に砲爆撃が連日のように続けられれば、流石に数に物を言わせるソ連でも有効な打開策は打ち出せなかった。
ならばいっそ中近東から中東に乗り出す事も考えられたが……
冷静に考えればそれこそ無謀という物で、下手にアフガニスタン辺りに南下して回り込むように西侵すれば、インドや中東に膨大な権益を持つ"かろうじて中立を保って"いる英国が、今度こそ黙ってないだろう。
主に宗教的心情と植民地経営的な経済観点から、CETOと共産主義者達の武力闘争に関わる事を是としないブリテン人も、自らの"財産"が危機にさらされれば指をくわえて見てる事など有り得ないのだから。
そして如何に巨大な赤い帝国でも、まさか単独世界2位の海軍国を加えて敵に回しかねない判断は、流石に躊躇したのだった。
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かくてソ連は南ルートを遂に諦めた。
ならば残るは"北侵"……
つまりスカンジナビア半島の付け根を通り過ぎ、プロイセンの【柔らかい脇腹】を直接叩くという戦術を選択した。
ならば守るも攻めるのももっとも邪魔なのは40年に攻めきれなかったフィンランドとなるのは必然だった……
こじつけるなら、これが歴史の修正力という物であろうか?
史上では【継承戦争】と呼ばれるフィンランドとソビエトの二度目の戦いは、PPG世界では多少の間をおき、
【第二次冬戦争】
という形で会戦した。
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史実よりは状況は大分マシとはいえ、それでもフィンランドは苦しい戦いを強いられていた。
何しろソビエト赤軍はかつてより更に大規模に、尚且つ先の冬戦争(第一次冬戦争)では、泥縄式にごく少数の試作型が投入されただけの、だが潜在的には恐るべき力を秘めていると誰もが考えていた【T-34戦車】を主力とし、それを前面に押し立て怒涛のように侵攻してきたのだ。
その赤軍兵力数はフィンランドの予想を遥かに上回り、単純兵力だけでも6倍強にもなった。
そう、欧州中部や南部での消耗すらも、共産党の驚異的な動員力の前では"致命的損耗"には至らなかったのだ……
☆☆☆
しかし、"北の名将"と名高い【カールグスタフ・マンネルハイム】が漫然とこの情況を傍観していたわけではない。
ソビエトの再侵攻は必然と考えていたマンネルハイムは、最大限の準備を行なっていた。
第一次冬戦争でもソ連の侵攻に備え【マンネルハイム・ライン】を建造した彼である以上、一切の妥協や手抜かりは無かった。
それはマンネルハイム・ラインの強化や単純な戦力の増強だけでなく、
【国内をより戦争に適応させる為】
のプロパガンダも含まれていた。
そして、そのプロパガンダを思案中にとあるプロイセン訛りの強いスオミ語を話すアドバイザーは、その一案として……
「戦意高揚の為にプロパガンダ部隊を設営してみては?」
と発言したのだ。
あながち荒唐無稽でも独創的でもない。
何しろプロイセンではとっくに【ブリッツェン・ワルキュリア(雷鳴の戦乙女)】隊と呼ばれる実戦を想定した
【美女と美少女だけを集めたアクロバット・エアチーム】
が編成され、華々しくプロイセンの空を飾り、プロパガンダに明け暮れているのだから。
☆☆☆
しかし、同じくエアサーカスを作ったのでは、二番煎じの謗りを受け、宣伝効果は半減しかねない。
そこでアドバイザー……中佐の階級章をつけた伊達男は、
「閣下、別に空に拘る必要は無いでしょう」
「? どう言う意味かね?」
この目鼻立ちに花のあり、知性を他人に疑わせない軍情報部中佐に、若き頃に日露戦争を経験したという戦争の生き字引のような老将が問うと、
「空を華麗に舞う戦乙女も絵になりますが、武骨な鋼鉄の獅子を駆り、地べたで粘り強く戦う乙女もまた、その健気さでスオミ人を心打つと思われますが?」
一瞬の絶句……
マンネルハイムは重々しく口を開き、
「【シェレンベルク】君……君はあらゆる意味で空より悲惨な戦いになるであろう陸戦に、うら若き少女達を戦車に送り出そうというのかね……?」
すると、シェレンベルク……プロイセン統合軍情報部中佐【ワルター・シェレンベルク】は事も無げに、
「死体は痛みも屈辱も絶望も感じません。何をされてもね」
そう呟きながら真っ直ぐにマンネルハイムを見ると、
「【エルフリーデ・バーンシュタイン】"臨時"少尉」
その名にビクッと小さく反応する老将にシェレンベルクはうっすらと微笑み、
「既に貴国は40年の時点"立派な前例"があるではないですか」
何故に年端もいかぬ少女達は、過酷な戦場に身を投じる事になったのだろうか……?
そして、【バーンシュタイン】一族の宿命とは?
それはまたいつか機会があれば語られるかもしれない。
血と鋼と硝煙の物語と共に……
皆様、ご愛読ありがとうございましたm(__)m
短編とはいえ久しぶりの執筆作品、皆様いかがだったでしょうか?
皆様の目にどう映ったのか激しく不安です(汗)
腕が著しく劣化してたらどうしよう……
いや、暗い話はさておき、せっかく読んで頂いた皆様に蛇足ながら簡易キャラ設定表を公開します。
ミコワルツェ・バーンシュタイン
決して尽きる事なき、小柄な肢体から溢れんばかりの戦意を持ち、【前線装甲指揮官に必要な要素の全てを持っている】とまで称される、熱血系の"生粋の装甲将校少女"。
まだ名前や規模の明かされてない【女性だけのスオミ装甲群】で、車長兼小隊長を務める。
元ネタは、某美少女戦車物のヒロイン、その転校前の時代。
愛称は"ミコ"。
ユッタ
フルネームは不明。
小隊長車砲手で、ミコ同様に【戦意不足】という評価だけは受けた事がない。
「ッス」という言葉を語尾につける口癖がある。
噂では【ミコに一目惚れした百合少女】疑惑がある。
"JJ(ヤークト・ユッタ:猟師ユッタ)"の二つ名があるらしい……
ハンナ
同じくフルネーム不明。
装填手。
グラマーで長身。ついでに小隊一の馬鹿力。
かつてはその馬鹿力故にコンプレックスがあったという噂がある。
実は家柄も小隊随一かもしれない。
サラ
同じくフルネーム不明。
操縦手。
ある意味において小隊長車で一番普通に"見える人"。
口は時折悪いが、【乙女思考の持ち主】説がある。
とまあ、今公表できるのはこれぐらいですf^_^;
実は元々、中編書ける程度の設定(例えばIV号戦車の最終形態とか……)はあるので、かなり無茶に切り詰めてみた試供版ですが、もし需要があるなら余り早いペースではありませんが、少し書いてみたいなとか思ってますが、果たしてどうでしょう?(滝汗)