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文学系 短編集

想い、残すもの

作者: アリス法式

相変わらず短編はそういう方向です。今までの、短編である程度方向性がわかっている上で読んでください。苦手な方は、逃げてください。

 私には付き合っている人がいます。

ひとつ後輩のあの人は、中性的な顔立ちの、下手な女子より可愛いく、チャラチャラした男たちかっこいい、とても素敵な人です。

デニムにジャケットを着込んで歩く姿は、少々頼りないけど、それでも、私の前を私の手を引きながら歩いてくれるあの人が、私は大好きです。


本当……、私以外の目に触れらせたくないほど大好きです。


今日は二人で、学校帰りにデートに行きました。

あの人は、一人っ子のためか、私の事を姉のように慕ってくれています。私としては、姉より恋人として見て欲しいのですが。

まあ、今は、姉でもいいかもしれません。

二人で、手を組みながら、ウィンドウショッピングしたり、クレープ食べたり……、勿論、先輩である私の奢りです!


そんな時、チャラチャラした他校の生徒にナンパされました。

あれは、隣の地区の男子校の制服でしょうか?

うちの学校の制服は白の下地に青のラインがはいった、この辺では独特なものです。そのためか、今みたいに街中を歩いていると、よく他校の生徒にナンパされます。

通っている子が、お金持ちの世間知らずな子達が多い為、与し易いと思われているようです。


しかし、今回の相手は私達、恋人同士の私たち相手に何を言っても無視です無視。

しばらくしたら、ナンパさんたちは諦めてくれたようです。


私の恋人の肩に手を置いたときは、本気で殺してやろうかと思いましたが……、なぜか私の顔を見てすごい勢いで逃げていきました。

なぜでしょうか?



あの人は、よく私に向かって「愛してる」と言ってくれます。

その言葉を聞くだけで、私はもう昇天しそうになります。

少し小さな細身の体も、クリクリとした大粒の瞳も、肩口で適当に切り揃えられた長めの髪も、形の良い唇も。

すべてが、すべてが……愛おしい。


別にあの人が小柄なだけで、私がデカ女だというわけではありません!……断じてありません!!




だから、だから……。

そんなあの人が、とても可愛らしい女の子に校庭の千年樹の下に呼び出されて、告白されている場面を、たまたま見てしまった時、私は、気が狂ってしまいそうになりました。

あの人が愛おしくて、あの人の前ではにかみながら何かを一生懸命に伝えようとしている、女の子がとても魅力的に見えて……。

あの人が、取られてしまうのではないかと。

私の傍からいなくなってしまうのでは無いかと。


私は、思ってしまったのです。


そんな事を考えていたら、つい注意を怠ってしまったのか……、可愛らしい女の子の横で顔を赤らめているあの人と目があった気がしました。

思わず、縋り付いてしまいたくなるような、そんな、どこか悲しげな瞳でした。



……私は、あの人に捨てられてしまうのでしょうか?






でも、私はもうあの人がいなければ生きてはいけません……。

いっそ失ってしまうならば、あの人への思いを胸に、私はあの人を、私だけの、私だけのモノに……。


私だけの思い出にしてしまえば……。



私は、あの人を呼び出しました。

場所は、千年樹の下。嘗て、私があの可愛らしい女の子と同じように私の目の前に立つ、私の愛しい人に告白した場所。

始まりの場所で、私は全てを終らせたいと思います。


ポケットの中には、カッターナイフ。

人一人の命を終わらせるには、きっとそれだけで大丈夫。


だから終わらせましょう、あなたの、変わらない笑顔だけを、私の瞳に焼き付けて……。







僕の恋人の様子がおかしくなったのは、きっとあの日が始まりだろう。

千年樹の下に佇む僕たちを、悲しげな瞳で彼女が眺めていたあの日から、彼女は今にも泣きそうな顔をして日々を過ごしている。

どうして悲しんでいるの?僕には、貴女しかいないのに……。

有象無象の中から僕を見つけて、僕をすくい上げてくれたのは貴女なのに。

どうして揺らいでいるの?

いつものように、笑っていて。


それが僕の願いだった、それが僕の想いだった。


千年樹の下、彼女が僕を見つけてくれた場所。

彼女に呼び出されて、僕はそこに行く。

千年樹の太い幹に左手をそっと触れさせながら立ち尽くしている彼女、右手は制服のポケットの中。

とても、儚く見えた。今にも消えてしまいそうなほど。

だから、僕は彼女を抱きしめた。


強く強く抱きしめた……。


彼女の体が崩れ落ちていく、彼女より小さな僕の体では支えきれない。

糸の切れた人形の様に、崩れ落ちていく。彼女の脇腹が血で滲んでいた。丁度ポケットの上、彼女が右手を入れていたポケットの……。


彼女は笑っていた。とても、楽しげに、とても儚げに。




なぜ!なんで!




僕は叫んだ。


彼女は笑う、笑って紡ぐ。




あなたを殺して永遠に私だけのモノにしたかった。あなたに私だけを刻みつけたかった。

でも、私はあなたを殺せなかった。

私はあなたを傷つけることができなかった。




僕の制服のポケットからハンカチを取り出して、彼女の傷口に押し当てる。止まらない、止まらない。

白かった僕のハンカチはあっという間に朱に染まる。




だから、私は自分を残すことにした。自分を殺して、あなたの記憶に、あなたの思いの中に刻み付けることにした。


なんで、そんなことを!僕の、想い人は永遠に貴女だけなのに。

僕の隣は、ずっとずっとあなただけの為に、空いているのに。

僕は、貴女だけを愛しているのに!!


いいのよ、無理を言わなくても。いいのよ、もう全てを忘れても。

あなたに愛していると言われるだけで、私はもう満足だから。

私は……、天にも昇るような素敵な気持ちになれたのだから。


そんな……、そんな……。

だったら、ずっと言い続けてやる。貴女がいなくても言い続けてやる。想い続けてやる。

だから行かないで、僕を一人ぼっちにしないで……。


泣かないで……、あなたには、笑顔が似合っている。

だから、笑っていて頂戴。

笑って私を……逝かせて頂戴。


笑うよ、笑うから……、笑えるから。ずっと、笑っているから。

だから……だから。


それでいいの……あなたの笑顔を最後に瞳に焼き付けて……これで私は。






千年樹の幹の下、私を抱きしめながら泣き笑う愛しい人。あなたの笑顔があれば、私は全てを捨てられる。

体から力が抜けていく、でも、気持ちはとてもスッキリしていた。

これで、やっと終わるのだから。

私はやっと……あなたを解放してあげられるのだから。


私の想い、私の願い。そして、貴男という呪縛から……。


だから、私は笑って逝こう。

すべての想いを抱きしめて、私は笑って刻まれる。


あなたの記憶に刻まれる。

今回、話自体は単純にしてみました。まあ、深読みすると色々と見えてきます、頑張ってください。

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