勇者教室 ☆ 現役勇者が勇者のなり方教えます!
本拙作は、未完のまま終わります。
そういったモノに納得できない方は、ご遠慮下さいませ。
※大変お手数ですが、詳しくはシリーズの説明をご覧ください。
「くっ……さすがに、強い……」
魔王城の最上階、その最奥の一室。
剣を床に突き立て、俺は崩れ落ちそうになる膝を持ち堪えさせた。
体中が軋む。残された体力も、そろそろ限界だ。
ちらりと後ろを見やれば、そこには気を失い、倒れている仲間たち。ここで俺まで倒れてしまえば、世界は完全に闇に包まれてしまうだろう。
だが――
「世界をお前の好きにはさせないっ!」
自らを鼓舞するように叫ぶと、両手でしっかりと剣を構え、俺は一直線に突進を始めた。
「はははははっ! 良いぞ、勇者! 妾をここまで楽しませてくれた人間は、貴様が初めてじゃ!」
豊満な肢体を漆黒のドレスに包み、風格漂う角を頭から生やした魔王が高らかに笑う。
角を除けば、見た目こそ妖しくも美しい女。だが、その体力・魔力は桁違いだった。
しかし、その魔王も今や手負い。俺たちの決死の攻撃により、五分とは言えずとも、決して勝機のない状況ではない。
「――ぅぉぉおおおおお!」
悲鳴を上げる体に鞭打ちながら、鋭い切っ先を魔王に向け、俺はただ前へと駆ける。
だがそれを見て尚、魔王は余裕の笑みを漏らした。
「良かろう! ならば冥土の土産に、妾の最強魔法を見せてくれよう!」
そう言って、手の平から暗黒の球体を生み出す魔王。そして、それが自身の背丈をも越えるほど膨れ上がったところで、俺へと放った。
「はぁぁあああっ!」
しかし、俺は足を止めない。ここで止まってしまえば、この足はもう二度と前に進まなくなる気がする。
だから俺は、残された全ての光の力を剣に込め、目の前に迫る闇へと突っ込んだ。
そして――
「――い。おい、起きぬか、アーサー!」
「ふぁっ?」
ぼんやりとした意識の中、目を開けるとそこには一人の少女――ルルがいた。
「まったく、この間抜け勇者が……早くせぬと午後の授業が始まってしまうぞ、アーサー」
穏やかな木漏れ日の下、やれやれといった表情で俺を見下ろすルル。
どうやらこの木陰で昼食を取った後、知らないうちに眠ってしまっていたようだ。
「だから、学校内では『先生』と呼べと言ってるだろ……」
「ふん、嫌じゃ。アーサーはアーサー。第一そんな大仰な呼び名、貴様には似合わん」
と、そんな情けないことを言われながらも、俺はのそのそと起き上がり、ルルの隣に立った。
並んで立つと、かなり身長差がある。ルルは比較的小柄な女の子なので、彼女の頭はちょうど俺の胸の高さだ。
だから、当たり前のように腕を伸ばし、
「まあ。とりあえず起こしてくれてありがとな、ルル」
ポンポン、とその艶やかな黒髪を撫でた。
「――っ!」
途端、俺から距離を取るルル。それは一瞬、目で追うことができないほどの俊敏な動きだった。
「きゅ……急に何をするっ!?」
目を見開き、ルルが顔を真っ赤にして肩を震わせる。どうやら頭に触れたことが、気に障ったようだ。
「わ、悪い。そんな怒るとは思ってなかったんだ。本当にすまない、もう二度としない」
「い、いや、その……何だ。急だったもので、少し驚いただけじゃ。べ、別に怒ってなどおらぬ。それに、その……アーサーがどうしてもと言うのならば、と、特別に妾の頭を撫でることを許可しないでもない」
「そ、そうか? ありがとう」
「い、いや。こちらこそ……」
「……?」
最後の言葉の意味がよく分からないが、とりあえず怒っていないようで一安心である。
ルルを怒らせると、何が起こるか分からないから恐ろしい。
何故なら彼女は――魔王だからだ。
――ルルル・シャル・シャルロッテ。通称、ルル。
正真正銘、数ヶ月前に世界を支配しかけた魔王である。
しかしその力のほとんどは今、俺の腰元にある聖魔剣に封じられている。世界の均衡を保つため、闇の要である魔王を倒すわけにはいかなかったのだ。
だから、ルルの姿は夢の中で見た妖艶な美女ではなく、活発そうな美少女となっているのだった。
で、そんな魔王を封じた勇者である俺が今、何をやっているのかと言えば『先生』である。
実は魔王が世界を支配しようとしたのは、今回が二度目。先代の魔王――つまり、ルルの父がおよそ百年前に一度、世界を闇に包もうとしていたらしい。
しかし、それは失敗に終わった。当時の勇者だった俺の祖父に、封印されたからだ。
そして二度目の今回で、現国王は悟った。「二度あることは三度あるんじゃね?」と。
というわけで俺は今、この王都立騎士学校に新設された『勇者科』にて、次世代の勇者を育てる先生をしている――というか、させられている。
正直、戦いが終われば故郷の村で静かに暮らそうと思っていた。しかし現実は、今まで以上に厳しい戦いの日々だった。
やっと訪れた平和な時代で、これから必要とされるかどうかも分からない勇者になりたいと思う人間が、普通であるわけがない。
結果、勇者科に集まったのは国中の問題児たちだ。魔法使いやら、盗賊やら、忍者やら。
そして、その極めつけが魔王である。
ルル曰く、
「妾を入学させねば、読心魔法で貴様がこれまで手を出してきた女中たちの名を暴き、妃にばらすぞ」
と、国王を脅し、堂々たる裏口入学を果たしたらしい。(何やってんだ、あの国王は)
ちなみに、そうまでして入学した理由を訊いたところ、
「わ、妾の力を取り戻すためじゃ。べ、別に聖魔剣を狙うふりしてアーサーに会いに来てるとか、そ、そんな理由ではあらぬからな! か、勘違いするでないぞっ!」
とのこと。
まったく、油断できない魔王である。
「あ。そういえば、この間話したダンジョンのトラップ見学の件、どうなった?」
「万事問題ない。この近くに建設中のダンジョンがあったからな、担当のゴブリンたちに話を通しておいてやった」
「おお、ありがとう。ホント、ルルがいてくれて助かるよ」
「べ、べ、別に礼を言われるようなことはしておらんわ。わ、妾は隠し事はせぬ性分じゃから、当然のことをしたまでじゃ。だ、断じてアーサーに頼まれたからではあらぬからなっ!」
そう言い捨て、突然教室に向かって走り出してしまうルル。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ! どうしたんだよ、急に?」
慌てて俺も、その遠ざかる魔王の背中を追う。
――こうして今日も、現役勇者が教える勇者教室が始まるのだった。
『人物紹介』
★アーサー・ローゼンシュタイン・アイザックハワード・ギルバーノ
『爽やか笑顔100万ボルト』
世界の楔・聖魔剣に選ばれた二代目勇者。世界を救って終わりだと思っていたら、適当な国王に問題児だらけの教室の先生に抜擢される。
先代の勇者である祖父がかなりの女好きだったらしく、それが嫌いだった父親に厳しく育てられた。そのため稀代の好青年にも関わらず、女性と付き合った経験がなく、その手のことに度を越して鈍い。
聖魔剣を抜くことができるのは自分だけなので、ルルに奪われることは正直あまり警戒していない。また、ルルについては『何だかんだ言って真面目な生徒』くらいにしか思っていない。
ちなみに名付け親は祖父。冒険の途中に出会った伝説の黒魔術師が由来らしい。
★ルルル・シャル・シャルロッテ
『ツンデレ純情系魔王様』
父の遺志を継ぎ、世界を支配しようとした二代目魔王。「勇者まじイケメン」と見蕩れている内に、アーサーに負けてしまった。
妖艶な容姿で周囲に勝手に経験豊富だと思われていたが、高嶺の花過ぎて男性とはほぼ無縁の生活。なので目の前に現れた勇者に、白馬の王子様的に一目惚れしてしまう。ただし経験がないので、奥手というか不器用というか。
力を封じられて少女の姿となっているが、一般人よりは遥かに強く、数多くの魔法も使える。また、極めて高度な読心魔法も使えるが、本心を知るのが怖いのでアーサーには使ったことがない(魔王戦でも使わなかったのも敗因の一つ)。
最近の悩みは、幼馴染のサキュバスが自分たちに悪戯してくることと、結婚したらアーサーのことを『アーくん』と『アーちゃん』のどちらで呼ぶか。