プロローグ:「はじまりはいつだって」
砂上を踏みしめ歩き続ける。
怪物を殺すために、ただ独り。
…獲物が近くに潜んでいる。
殺さなければ。
害為すモノを殺さねば。
己の役目を忘れるな。
内なる声がそう語りかけてくる
使命に突き動かされ動く肉体
砂嵐が吹き付け視界不良の中
気配を頼りに、歩を進める
ギシギシと、疑似骨格が悲鳴を上げているがしったことか
追いつき仕留めるために速度を上げる
砂嵐の向こうに手負いの獲物を視界に捉える
銃を構え照準を合わせる
狙いを定め———
無音で放たれた弾丸が砂の嵐を縫って獲物へと命中した
派手に倒れる姿が見え、銃を降ろす
荷物を抱え直し、倒れた怪物のもとへすすむ
ひゅぅ…ひゅぅ
荒い呼吸をする、黒々としたもの
狙いが逸れてしまったのだろう
本当は、弾丸で仕留めるつもりだったのに
深手を負い、もはや死を待つだけの哀れな姿
生命を刈り取るために、ナイフを突き立てようとしたその時———
『ォ…ウチ』
振り降ろそうとしていた腕を止めた
『カェ…ラ…』
今、コレは言葉を口にしたか。
否、違う。
早く、殺さなければ。
殺せ、動け、早く、早く。
役目を果たせ。
何をしている。
役目を、果たせ。
お前は、お前は兵器だろう。
祖国のために、命を刈り取り、命をささげる。
それがお前の使命だ。
果たせ。
国のために生まれ国のために死ぬ。
それが役目だ。使命だ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。果たせ。
思考が直接身体に届かずエラーを吐き出し始める
警告音一色のうるさい脳内
どれだけ経っても体は動かない
呆然とその怪物を見つめる眼だけが機械的に瞬きをするだけ
いつの間にか、砂嵐はやんでいて青い月明りが砂の海を冷たく照らす
ソレに瞳らしきモノは無く、十数本ある足、鋭く尖った黒い爪は月明りが透けて見える
ボロボロになって使いようが無くなった黒曜石の鱗に覆われた翼
体長は恐らく3~4mの巨大な怪物
怪物としか言いようのない、正真正銘の異形
いつも仕留めてきた怪物と同じだというのに
『ォウ…チ…カェ…ラ…ナキャ』
次は、はっきりと耳に届いた
その言葉を聞いた瞬間握っていたナイフは手から滑り落ちて冷たい砂の上に落ちる
体か勝手に動き始める
他人の、ましてや怪物の手当てなどしたことはない。
だというのに荷の中にある物資から、治療用の物資を取り出し
荒く息をする怪物へ手を伸ばす
殺めるためではなく、命を救いあげるために
怪物は抵抗することもなくされるがまま
思えばこれが転換期だった
この出会いが正しかったのか今の俺もわからない
だが、確かにこの世界が変わった音がした
——— はじまりはいつだって、夢から覚めた時だ




