06「三者三葉の三つ巴」
〈二〇二五年 七月二十四日 御加実市 御加実第一高校 校庭〉
─────夜が更ける中、混沌の熱帯夜は御加実第一高校の校庭を中心に広がりを見せる。
「────いや、手前ェ、どこの魔術師だコラ?」
そして、三つ巴となったライカとレイ、そしてチェーンソーの女の間には奇妙な探り合いの間が出来ていた。
「──知り合い?」
「んなわけねぇだろ……てか、ランスの野郎は何してんだボケ」
「こんな、マフィア崩れと一緒にしないで?私は、魔術協会の特務員よ!!」
元気だな、とレイは遠い目で思う。
何も分からないが、ライカの援軍とかではないとレイは判断する。
「チッ、協会派の連中かよ……まァ、どちらにせよ。両方かかってこいよ」
『────さっきまで殺し合ってたのに、なんで若干和んでるんですか……?』
「ええと、その貴方は……敵?」
「そうですわね。あなたたちの好き勝手にはさせないとだけ」
ライカは、それでも自信を湛えて笑う。
レイは、よく分からない涼しそうな女を識別するために問う
リティアは謎に姦しい三者にドン引きしつつ。
最後に、ゴシック調のギャルはチェーンソーのエンジン音を、戦意の表れのように鳴らす。
──ハ、どうやら協調なんてのは無理らしいぜ?とレイに目配せするライカ。
すべてを総合して、レイは協力は出来なそうと判断、殺気を滾らせる。
─────瞬時、戦いの火ぶたが切られる。
最初に動いたのは、微々たる差でチェーンソーのギャルであった。
狙いはライカ、その様子をみた彼女は足で地面を鳴らし、ギャルを宙に跳ね上げる。
即座に、レイがライカの隙を強襲、超至近距離で近接攻撃を打ち合う。
超絶技巧の応酬はライカに軍配が上がり、ライカの動きに釣られたレイの腹部に掌底を叩きこむ。
瞬時に跳ね上げられたギャルはチェーンソーを重力に沿わせ、ライカの脳天をかち割らんとする。
魔術で気流を操作したライカが、唸りを上げる刃を極小だけ逸らし回避する。
同時に弧を描いた飛び蹴りが、ギャルの横面を襲う。
「─────技もへったくれもねぇ!手前ェが一番、釣り合ってねぇんだわッ!!」
そう言い切る前に、ギャルは校舎へと吹き飛ぶ。
入れ替わりに、レイが背後を取り、低い姿勢で足元を狙う。
「────ッ」
適格な崩しに息を呑んだライカは、片足を上げ軸足で回転してレイの頭を踏みつける。
頭を逸らしたレイは回避し、倒立の体勢で体を逸らして蹴りをくり出す。
二撃、そのすべてを防御したライカは、お返しとばかりに地に着いたレイの腕を崩す。
腕の力で宙を舞う、レイはライカの拳撃に手を付き空中から反転して蹴りをライカの腹部に当てる。
「────やっぱ、あのチェーンソーとは比べものにはなんねぇなァ!?」
こちらの技術や攻撃に、想定外の恐ろしい適応を見せるレイにライカもボルテージが上がる。
それも当然とリティアは思う──レイは戦場で成長してきたのだ。
英雄の血をすする、というのはその技術や戦法すら己が物とすること。
それでも、弱体化したレイがここまで善戦するとはリティアにも予想外であったが。
「────それは、私を倒してから言ってッ!!」
舞い戻ったギャルは、瞬時に己のチェーンソーをレイとライカへ振るう。
大ぶりなそれをレイは紙一重に、余裕を持って回避したライカは────カウンターで、大樹をも蹴り砕く回し蹴りを喰らわす。
凄まじい威力のそれを、無防備に食らったギャルの腹部は破裂するように血を吹き──
「─────ああん?手前ェ、さっきの一撃もそうだが死んでる手ごたえだったのに、んで、生きてやがる?」
そう、訝しむライカの視線に居る彼女──ギャルは腹部に穴が開き、首はどう考えても折れ、垂れ下がっていた。
「─────チ、《蘇生》」
ライカの疑問を置いて、舌打ちしてチェーンソーのエンジンを起動させるギャル。
さらに、みるみる回復と言うよりは復元と言った感じで、傷が無かったことになった。
詳細は分からないが、それが彼女の能力なのであろう。
「────よそ見?」
「────バカ言え……よ!」
その様子を隙と考えたレイが、側面から飛び掛かるが、それはフェイントで正面へとズレたレイは腹部へと掌底をかます。
回復したギャルも間に入り、三つ巴は更に過熱していく。
─────レイは、ライカを中心に狙う……身軽さを利用し、ギャルの猛攻の合間を縫うように。
─────ライカは、それでも圧倒的な力による余裕で、二人の猛攻を受け止める。
─────ギャルは得物のチェーンソーを振り、目についた者から片っ端から噛みつく。
その拮抗ともいえる三者三葉の三つ巴は、レイによって維持されていた。
そう、ライカには劣っているレイは、この三角形をより維持しながらライカを削ることに注力していた。
猛獣のようなチェーンソーを振るうギャルを、レイは誘導するように立ち回っていた。
そして、そんな状況を五分に戻そうとするレイを─────ライカが認める筈はなかった。
「────言ってんだろ、手前ェは無粋だ」
攻防の隙を突いた一瞬、レイがあしらわれ、ギャルが無防備になったその時。
流麗な動作で近づいたライカは、ギャルへとぬるりと肉薄する。
瞬時に意図に気が付いたギャルは咄嗟に距離を取ろうとし、そしてチェーンソーの根元が爆発する。
「─────ッ!?」
「バレバレなんだわ。手前ェがチェーンソー庇ってんの」
そう、ライカは気づいていた。
ギャルがチェーンソーを無意識に庇いつつ、戦っていることに。
そう、それはほんの少しの仕草からでた、無意識の癖を、ライカの天才的な戦闘感で読み取ったまで。
さらにライカの地雷は、敵の武器にすら設置可能という、凄まじい切り札を敢えてとる豪胆。
それらすべてが、ギャルを追い詰め────放たれるは彼女の《術式》の最大出力。
それを防ごうとするレイは、しかし土の壁に囲われ、一瞬出遅れる。
「手前ェを片すなんざ、片手間だボケ」
─────出力最大、《風閃》
一点に形成された、大気の暴風は轟音とともにギャルを吹き飛ばす。
凄まじい風は、辺りを埋め尽くす砂煙となり、そして─────
─────ライカの隙をレイも、また見逃すはずはない。
ギャルが吹き飛んだとほぼ同時に、レイはライカの至近へと到達していた。
到達、瞬間にレイは渾身の蹴りをライカへと叩きこむ。
────が、その分かりやすい狙いは回避され────
────る、寸前に彼女を予期したように足元が爆ぜ────
────たが、その少女は幻影であり、本物の気配は背後────
「────それはもう見たぜ?」
──だが、同じ策が二度も通じる筈はなく……ほくそ笑んだライカの鋭い手刀がレイを切り割く。
『ええ、存外引っかかるものですよ?一度見たものだからこそ』
そう、幻影を発動したリティアの声が響き、ライカの手刀が貫いたのは──二つ目の幻影であった。
そこに居たのは飛ぶ光の球だけ、ではレイはどこにいるかと言うと────
瞬時に、ライカの背後から衝撃が走る。
完璧な死角、不意の一撃、乾坤一擲の拳がライカの背中に突き刺さった。
そう、二つ目のレイの姿も幻影であり、本物は最初の幻影の背後に居たのだ。
────勝った、そうリティアは判断し────同時に魔術師はほくそ笑んだ。
「────ッ!」
────拳が、ライカを突き抜けたのだ。
そして、レイは土を殴った手ごたえを感じた。
そう、あまりに脆いライカの体は土で出来ており────否、〝ソレ〟はライカではなかった。
『まさか、偽物────』
「────お返しだ、きっちり味わえ」
────出力最大、《風閃》改
小さな少女を飲み込むのはライカの《風閃》を改良し、幾層もの風刃を重ねた毬。
菊の花の如き刃の連なった地雷は少女を切り刻む。
後から追いついた轟音が、少女を形成する血潮が、炸裂する花火のように夜空を彩った。
────破壊の中心に少女の姿はなく、その斬撃の痕だけがすべてを物語っていた。
◆◇◆◇◆
〈御加実市 御加実第一高校 本校舎 1F〉
激闘が終わりを告げる数分前、俺たちは長い旅路を経てついにゴール手前までたどり着いていた。
「────色々、ありましたが遂にたどり着きましたね。ノワ子さん」
「……何故に他人行儀、いや妾も気まずいのは分かるが……少し寂しいぞ」
────困ったことに思ったより気まずい。
あの時、割と言うまいと思っていたことをノリで言ってしまい、正直後悔していた。
そして、この二人しかいない静寂も相まって、とても気まずい。
ノワ子は気まずすぎて顔を赤くして、俯いてそう俺の敬語を優しく咎めていた。
「……ま、冗談はともかく、最後まで油断なくいこう」
そう、ここまで来れれば御の字、だがしかしまだ危険地帯に居るのだ。
脱出するまでが、逃避行……なんか言い方変だな?
「ふ、まさか盟友が妾を覚えていることを、言い出せないほどシャイだったとはな」
「────このタイミングで、イジらないでもらえますぅ!?」
ただ、ノワ子も変な空気を解すためか、緊張を払うためか冗談を言ってくる。
まあ、今回は甘んじて見逃そう、理由の半分はおそらく揶揄うためなので、後で容赦はしないが。
────小声(※当社比)で、下駄箱を抜けると正面に校門があった。
校門前の道を抜けると、遂に脱出を達成するのだが、周囲が開けており注意が必要だ。
「────ともかく、下駄箱を抜けたら、会話は無しだ」
「了解。ハンドサインで応答しよう」
「お前知らねぇだろ、そんな高等なもん」
冗談で応じるノワ子だったが、下駄箱を越えると流石に沈黙を保ってくれた。
そして、辺りを警戒し見回す者の土煙がひどく、視界が悪かった。
今回はその偶然に感謝しつつ、俺たちは危なげなく校門へと向かう。
「「────ッ!?」」
そして────校庭から響いた爆音に俺たちは息を呑んだ。
──────どさり、と何かが落ちた音、そして後から錆びた鉄の匂い。
目を向けると──────そこには、全身に裂傷を刻んだ少女が血溜まりに伏していた。
『──────』
目線を向けると、変わり果てた彼女の瞳とほんの少し交わり──
──────少女は、あの〝親友〟と同じ顔を、同じ瞳をしていた。




