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第5話 失敗しない方法は、失敗しないことじゃない

 森の中は、思ったよりも静かだった。


「鳥も鳴いてないね」

「だから嫌なんだって言ってんだろ」


 クロは私の肩の上で、耳をぴくぴく動かしている。


「魔物の気配は?」

「薄い。だが――」


 クロは言葉を切った。


「人の痕跡が新しい」

「え、誰か先に来てるのかな?」

「来て“た”可能性の方が高ぇ」


 私は首をかしげた。


「同じ依頼の人?」

「だったらギルドが言う」

「そっか」


 地面には、確かに足跡があった。

 でも、慌てた様子はない。


「慎重に行くぞ」

「うん」


 クロは前足で、地面を指す。


「ここから先は、俺の指示を聞け」

「了解!」


 少し歩くと、淡く光る結晶が見えてきた。

 魔力結晶――依頼の対象だ。


「よし。まず周囲の確認だ」

「分かった」


 私は一歩、前に出た。


 ――その瞬間。


 足元の小枝が、ぱきっと音を立てた。


「……おい」

「あ」


 クロが低く唸る。


 結晶の光が、一瞬だけ強くなった。


「リリア、下がれ!」

「え? でも今――」


 空気が揺れる。

 魔力が、わずかに乱れた。


「失敗だ……!」


 クロが叫んだ、その時。


 私の中で、いつもの感覚が走った。


「あ、大丈夫」


「は?」


 私は、すぐに一歩引いた。

 そして、地面に落ちていた小石を拾って、結晶の横に転がす。


 ――光が、落ち着いた。


「……収まった?」

「うん。ちょっとズレただけだったみたい」


 クロは目を見開いていた。


「お前、今なにした」

「えっと、失敗したから、戻した?」


「意味が分からねぇ」


 私は首をかしげる。


「だって、完全に失敗する前だったし」

「そういう問題じゃねぇ……!」


 周囲は静かなまま。

 結晶も、安定している。


「ほら、失敗しなかったでしょ?」

「今のは“失敗しかけた”んだ!」


 クロは頭を抱えた。


「失敗できない依頼だぞ!?」

「うん。でも――」


 私は結晶を見ながら言った。


「失敗しないって、失敗しないことじゃない気がする」


 クロが黙る。


「失敗しそうになったら、戻せばいいんだよ」

「簡単に言うな!」


 その時。


 森の奥で、かすかな物音がした。


 クロの耳が、ぴんと立つ。


「……やっぱりだ」

「?」

「誰か、見てやがる」


 私はそっと息を潜めた。


 結晶は無事。

 でも、この依頼は――

 思っていたより、ずっと面倒らしい。


森の奥で、かすかな音がした。


クロの耳が、ぴんと立つ。


「……やっぱりだ」

「なに?」

「誰かが、見てやがる」


私は結晶を見た。

失敗は、していない。


――でも。


この依頼は、もう“二人だけの仕事”じゃなかった。

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