第3話 初クエストは失敗だらけ
「で、次はどこ行く気だ」
ダンジョンを出たところで、クロが肩の上から聞いてきた。
「うーん……ギルド?」
「やっぱりか」
呆れた声だけど、否定はしない。
どうやら、ちゃんと相棒として付き合う気はあるらしい。
*
冒険者ギルドは、相変わらず賑やかだった。
「初クエストなら、これだな」
クロが前足で掲示板を指す。
「薬草採取。危険度低。報酬も安い」
「簡単そう!」
「“簡単そう”で判断するな」
「え?」
言われたそばから、私は依頼書を一枚引き抜いた。
「じゃあ、これにするね!」
――害獣駆除(森の奥)。
「……は?」
クロが固まった。
「待て待て待て」
「なに?」
「それ、初心者向けじゃねぇ」
依頼書をよく見る。
「危険度:中」
「あ、本当だ」
完全に確認不足。
つまり――
――判断ミス。
立派な失敗だ。
体が、じんわり強くなる。
「……今、わざとか?」
「ううん、普通に見落とした!」
クロは頭を抱えた。
「勘で生きるな……」
*
森の奥は、思ったより暗かった。
「なんか、雰囲気あるね」
「引き返せるうちに引き返せ」
「でもクエスト受けちゃったし」
その瞬間。
ガサッ。
「――来るぞ」
クロの声が低くなる。
茂みから飛び出してきたのは、角のある狼型の魔物だった。
「おっきい!」
「感想言ってる場合じゃねぇ!」
私は慌てて剣を構える――が。
「え?」
足元の根っこに引っかかって、派手に転んだ。
――失敗しました。
「今それやるな!」
でも、体は軽い。
さっきより、はっきり分かるくらい。
「いける気がする!」
「その自信、どこから来るんだ……!」
魔物が突っ込んでくる。
私は反射的に、剣を振った。
狙いは外れた。
完全な空振り。
――失敗しました。
「ちょ、ちょっと待って、今強くなって――」
次の瞬間。
私の剣が、信じられない勢いで魔物を吹き飛ばした。
「……は?」
クロと声が重なる。
魔物は木に激突し、そのまま動かなくなった。
「……勝った?」
「……勝ったな」
クロは、じっと私を見る。
「お前、戦い方がめちゃくちゃだ」
「うん!」
「なのに結果だけ合ってる」
ため息。
「最悪だ」
*
帰り道。
「今日分かったことがあるよ」
私が言うと、クロは嫌な予感しかしない顔をした。
「聞きたくねぇ」
「失敗って、種類があるんだね」
転ぶ失敗。
確認しない失敗。
狙いを外す失敗。
「どれも、違う感じで強くなる」
クロは、しばらく黙っていた。
「……その感覚、覚えておけ」
「?」
「失敗できなくなった時、役に立つ」
いつもより低い声だった。
「失敗できなくなる時?」
「そうだ」
クロは、森の奥をちらりと見た。
「この世界はな。
失敗を許さない相手が、必ず出てくる」
私は少しだけ考えてから、笑った。
「そっか。でも――」
肩に乗ったクロを見る。
「その時も、きっと大丈夫だよ」
「どこから来るんだ、その自信……」
「クロがいるから!」
クロは一瞬だけ目を逸らした。
「……調子狂う」
でも、そのまま肩から降りなかった。
――この時はまだ、知らなかった。
次の依頼が、
**「失敗したら終わり」**の仕事だということを。




