第12話 結果報告
ギルドに戻ったのは、夕方だった。
扉を開けると、いつものざわめきが聞こえる。
冒険者たちの笑い声。
酒の匂い。
木の床の足音。
「帰ってきたね」
私は伸びをした。
「疲れた」
「ほとんど歩いただけだろ」
クロが肩の上で言う。
「でも遺跡って、なんか緊張するよ」
「お前が一番危険だったけどな」
「え?」
私は首をかしげた。
クロはため息をついた。
「いや、なんでもない」
受付のところへ行くと、受付嬢が顔を上げた。
「あ、リリアさん」
「ただいまです」
「依頼の件ですよね?」
「はい」
私は地図を机に広げた。
「遺跡の奥に装置があって」
「うん」
「ちょっと暴走して」
受付嬢の手が止まる。
「暴走?」
「でも止まりました」
「……止まった?」
私はうなずく。
「はい」
「どうやって?」
私は少し考えた。
「触ったら」
受付嬢が固まった。
クロが横から言う。
「信じなくていい」
「事実だ」
受付嬢は少しの間、黙っていた。
それから苦笑した。
「……とりあえず」
「ギルドマスターに報告します」
「また?」
私は肩を落とす。
「また怒られる?」
「怒られねぇよ」
クロが言う。
「むしろ逆だ」
「逆?」
クロは小さくつぶやいた。
「多分な」
しばらくして。
二階の扉が開いた。
「リリア」
低い声がする。
ヴァルドだった。
「報告を聞こう」
「はい」
私はもう一度、遺跡の話をした。
罠のこと。
装置のこと。
暴走したこと。
そして――
「触ったら止まりました」
そこだけ、少しだけ沈黙があった。
ヴァルドは腕を組む。
「なるほど」
クロが言う。
「信じてねぇ顔だな」
「当然だ」
ヴァルドは言った。
「普通ならありえない」
私は小さく手を上げた。
「でも止まりました」
「結果は確認済みだ」
ヴァルドは机の上の書類を見る。
「遺跡の魔力は安定している」
「よかった」
私はほっとした。
ヴァルドはしばらく黙っていた。
それから言う。
「依頼は成功だ」
「ほんとですか?」
「ああ」
私はぱっと顔を明るくした。
「やった」
クロがぼそっと言う。
「奇跡だけどな」
ヴァルドは椅子にもたれた。
「リリア」
「はい」
「一つ聞く」
「なんですか?」
「なぜ触った」
私は少し考えた。
「直せそうだったから」
ヴァルドは静かに言う。
「理由になっていない」
「そうですか?」
「普通は触らない」
私は首をかしげた。
「でも壊れそうだったし」
「だから触った?」
「はい」
ヴァルドは少し黙った。
それから小さく笑った。
「……なるほど」
クロが小声で言う。
「なんか納得してるぞ」
「そう?」
ヴァルドは立ち上がる。
「報酬は受付で受け取れ」
「はい!」
私は元気よく答えた。
部屋を出ようとしたとき。
「リリア」
呼び止められた。
「はい?」
ヴァルドは静かに言った。
「また依頼を回す」
「ほんとですか?」
「ああ」
私はうれしくなった。
「がんばります!」
クロがため息をつく。
「不安しかねぇ」
私は笑った。
そのまま部屋を出る。
扉が閉まる。
静かな部屋にヴァルドだけが残った。
しばらくして。
「……どう思う」
誰もいない部屋で、ヴァルドがつぶやく。
机の上には遺跡の報告書。
魔力装置の記録。
崩壊寸前の魔術構造。
そして――
安定。
ヴァルドは低く言った。
「偶然か」
一拍。
「それとも」
窓の外を見る。
ギルドの前を、リリアが歩いている。
クロと口げんかしながら。
その姿を見ながら、ヴァルドは小さくつぶやいた。
「……まだ分からないな」
そのころ。
私は報酬袋を受け取っていた。
「思ったより多い!」
「危険手当だろ」
クロが言う。
「よかったね」
私は笑った。
「これでまた依頼受けられる」
クロは小さく言った。
「……そうだな」
私はギルドの外に出た。
夕焼けの空。
風が少し涼しい。
私は伸びをする。
「冒険者って楽しいね」
「まだ一件だ」
「でも!」
私は笑った。
「なんとかなったし」
クロは少し黙った。
それから、ぼそっと言う。
「……それなんだよ」
「?」
私は首をかしげた。
クロは遠くを見る。
遺跡。
暴走した装置。
崩壊した魔力。
そして。
安定。
クロは小さくつぶやいた。
「お前」
一拍。
「本当に何者なんだ?」
私は笑った。
「新人冒険者!」
クロは頭を抱えた。
「それは知ってる」
私は空を見上げた。
「明日はどんな依頼かな」
クロは小さくため息をつく。
「……嫌な予感しかしねぇ」
でも。
その予感は、まだ始まりだった。




