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第11話 成功とは

 王都。


 高い塔の最上階に、その研究室はあった。


 机の上には大量の書類と魔術式の図。


 壁には複雑な魔法陣が描かれている。


 部屋の中央に立つ男は、静かに紙を読んでいた。


 白銀の髪。


 細身の体。


 冷たい目。


 アルヴェイン・クロウ。


 王国魔術研究機関の責任者だった。


「報告書です」


 部下の魔術師が一枚の書類を差し出す。


 アルヴェインはそれを受け取る。


「遺跡装置の件か」


「はい」


「結果は?」


 部下は少し言いにくそうに答えた。


「……停止しました」


 アルヴェインは紙に目を落とす。


「原因は?」


「それが」


 部下は言った。


「新人冒険者です」


 アルヴェインの手が、わずかに止まった。


「新人?」


「はい」


 報告書には名前が書かれていた。


 リリア


 アルヴェインは静かにページをめくる。


 遺跡装置。


 古代魔術。


 暴走寸前。


 そして――


 停止。


 アルヴェインはゆっくり言った。


「ありえない」


 部下が言う。


「私たちもそう思います」


 アルヴェインは机の端にある魔法陣に触れた。


 空中に魔術式が展開する。


 光の線がいくつも重なり、計算が始まる。


「装置の魔力量」


「構造」


「崩壊確率」


 次々と数式が浮かぶ。


 アルヴェインは静かに結論を出した。


「成功率」


 一拍。


「0.3%」


 部下が息をのむ。


「そんなに低いんですか」


 アルヴェインは答える。


「違う」


「ほぼゼロだ」


 計算式が消える。


 部屋が静かになる。


 アルヴェインは言った。


「成功とは何か分かるか」


 部下は少し考える。


「努力の結果……でしょうか」


 アルヴェインは首を振った。


 そして静かに言う。


「成功とは」


 一拍。


「計算通りに進むことだ」


 部下は黙る。


 アルヴェインは報告書を机に置いた。


「だが今回」


 紙を指で叩く。


「計算と違う結果が出ている」


 部下が言う。


「偶然では?」


 アルヴェインは少しだけ考えた。


「偶然は存在する」


「だが」


 報告書をもう一度見る。


「観測する価値はある」


 彼はリリアの名前を見つめた。


「新人冒険者、か」


 それから小さくつぶやく。


「面白い」


 部下が聞く。


「どうしますか」


 アルヴェインは迷わなかった。


「監視だ」


「監視?」


「この少女」


 アルヴェインは言う。


「もう一度、結果を出すかもしれない」


 そして静かに微笑んだ。


「そのとき」


「理由が分かる」


 部屋の窓から王都の景色が見える。


 遠く離れた街。


 そこにいる少女のことを思いながら。


 アルヴェインは小さく言った。


「成功とは」


 もう一度つぶやく。


「計算通りに進むことだ」


 一拍。


「……だが」


 報告書を閉じる。


「計算を狂わせる存在がいるなら」


 その声は静かだった。


「それもまた」


「研究対象だ」

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