第10話 偶然じゃない
遺跡の部屋は、すっかり静かになっていた。
さっきまで揺れていた床も、今は動いていない。
装置の上に浮かんでいる光の球は、小さくゆっくり回っている。
「ほんとに直ったみたい」
私は装置をのぞきこんだ。
「だから触るなって言っただろ」
クロが言う。
「でも止まったよ?」
「結果論だ」
私は腕を組んで考えた。
「でもさ」
「なんだ」
「もし私が触らなかったら」
クロが嫌な顔をする。
「……言うな」
「暴走してた?」
クロは少し黙った。
「可能性はあったな」
「じゃあやっぱり触ってよかったのでは?」
「よくねぇ」
クロはため息をつく。
「普通は爆発してる」
私は装置を見上げた。
「でも爆発してないよ?」
「それがおかしいんだ」
クロが低く言った。
私は首をかしげる。
「なにが?」
クロは装置をじっと見ている。
光の球。
その周りを流れる魔力。
さっき崩壊したはずの流れが、今はきれいに整っている。
しかも。
「……ありえねぇ」
クロが小さくつぶやく。
「え?」
「魔力の構造が変わってる」
「そうなの?」
「お前が触った瞬間」
クロは装置を見ながら言う。
「一度、完全に崩れた」
私はうなずいた。
「うん」
「普通なら終わりだ」
「うん?」
「だが」
クロは光の球を指さした。
「今は安定してる」
「うん」
「しかも」
クロは少し目を細めた。
「さっきより安定してる」
私はにこっと笑った。
「よかったね」
「よくねぇ」
クロが即答した。
「意味が分からない」
「そう?」
私はもう一度装置を見る。
「たまたまじゃない?」
クロは黙った。
それから、私を見る。
「お前」
「うん?」
「自分が何したか分かってるか」
私は少し考えた。
「えっと」
「失敗した」
「それは見てた」
クロは頭を押さえた。
「お前ほんと……」
私は肩をすくめた。
「でもさ」
「なんだ」
「直ったならいいんじゃない?」
クロはしばらく黙っていた。
それから、ぼそっと言った。
「……それが一番怖い」
「?」
私は首をかしげた。
クロは装置から目を離さない。
そして、小さくつぶやいた。
「偶然にしては」
一拍。
「出来すぎだ」
私はその意味がよく分からなかった。
でもクロはそれ以上何も言わなかった。
「とりあえず戻るぞ」
「もう?」
「依頼は確認だけだ」
クロが言う。
「これ以上触るな」
「はーい」
私は装置をもう一度見た。
光の球は静かに回っている。
さっきの暴走が嘘みたいだ。
私は少しだけ胸を張った。
「やっぱり私すごい?」
「違う」
クロが即答する。
「運がいいだけだ」
私は笑った。
「それでもいいよ」
クロは何も言わなかった。
ただ、小さくつぶやいた。
「……運、か」
そしてもう一度、装置を見た。
その目は、少しだけ真剣だった。




