第1話 ハズレスキル【失敗】を引きました
「――鑑定、終了です」
ギルド職員のお姉さんが、ちょっと困ったような笑顔でそう言った。
目の前の水晶は、静かに白く光っている。
「えっと……結果は?」
私が首を傾げると、お姉さんは一度だけ咳払いをした。
「スキルは……【失敗】ですね」
その瞬間、周囲がざわっとした。
「え、失敗?」
「そんなの聞いたことあるか?」
「ハズレじゃん……」
あー、なるほど。
これは、あれだ。たぶん、あんまり良くないやつ。
「【失敗】は、行動が失敗した際にごく微量の成長補正が――」
「へぇ〜」
説明の途中だったけど、私は素直に感心した。
失敗すると、ちょっと強くなる。
……なんか、地味だけど、悪くない気がする。
「ですが、成功した場合は何の効果もありません」
「ふむふむ」
「なので、正直に申し上げますと……」
お姉さんは、申し訳なさそうに言った。
「冒険者向きではないスキルです」
周りから、同情の視線が飛んでくる。
でも私は、首を振った。
「大丈夫です! 失敗なら、わりと得意なので!」
「……え?」
お姉さんが固まったけど、私は気にせずギルドカードを受け取った。
――リリア。
それが、私の名前。
剣も魔法も、まだ全然ダメ。
スキルも【失敗】。
だけどまあ、なんとかなるでしょ。
*
その日のうちに、私は街の外に出た。
最初の目的地は、初心者向けの小さなダンジョン。
「まずは実践だよね」
そう言って一歩踏み出した瞬間。
「わっ」
足元の小石につまずいて、派手に転んだ。
――失敗しました。
頭の中に、そんな感覚が流れ込む。
同時に、体がじんわり熱くなった。
「……あれ?」
立ち上がって、軽くジャンプしてみる。
「おお?」
さっきより、体が軽い。
明らかに、さっきよりも。
「もしかして……」
私はにんまり笑った。
「失敗、大当たりかも」
*
その後も私は、順調に失敗を重ねた。
段差で転ぶ。
扉を思いきり押して、実は引くタイプだった。
魔法を詠唱しようとして、言葉を噛む。
そのたびに、体が強くなっていくのが分かる。
「……え、楽しくない?」
ダンジョンの奥で、私は一人で頷いた。
そして、調子に乗って進んだ結果――
「……あ」
床が、抜けた。
「ちょっと待ってぇぇぇ!」
落下。
完全な失敗。
でも、なぜか怖くなかった。
どんっ、という音と共に着地すると、私は無傷だった。
「……生きてる」
しかも、さっきよりずっと強い。
「これはもう、確信だね」
私は拳を握った。
「失敗すればするほど、私、強くなる」
そのとき。
「……なんで強くなってるんだよ」
どこからか、呆れた声が聞こえた。
「?」
振り返ると、暗がりの奥で、
目つきの悪い黒猫がこちらを睨んでいた。
「……いや、意味わかんねぇからな?」
どうやら――
私の冒険は、ここから本格的におかしくなるらしい。




