エピローグ:新しい明日へ
エピローグ:新しい明日へ
久しぶりにやってきた、ジャズバー。ときどきスペースを貸し出してライブハウスになる、案外安物の酒場だ。我ながら無責任で余計なことをしたものだ、と酒に口もつけずに考えていた。渡さなくてよかったのに。まあ相手は子どもだ、高校に通い始めたらもう忘れているだろう。そんな予想図があまりにも自分に都合がよくて、反吐が出る。それでも、そう思わなければやっていられなかった。
「アルマ君?」
……あんたか。オレはもうバンドなんてしてねえぞ。そしたら向こうは向こうで、今日はここを喫茶店代わりに休憩しに来たという。真っ昼間から酒を飲んでいたので見咎められたが、オレは酒なんて年に2、3回しか飲まない。飲みに行く相手もいないしな。たまにはいいだろうと突き返した。変わらないわね、と向こうは余裕で笑っている。オレはてめえにそそのかされて、道を踏み外したんだぞ。あんたの歌は乱暴なばかりで刺さらない、みんなお客さんのことをもっと考えてるのよ!ってお前はただの客だろうというヤツに怒られた。そして、最後に。
「才能あるんだから!」
……オレに何の才能があるというのか、ないからお前に叱られてるんだ。なのにこいつと来たら、「何かできるのは、たぶん間違いない」とオレに輪をかけて無責任なデタラメを言う。試しに特技を伸ばしてみようと修業場に行ったらこの状態、この世の蟻地獄に捕らわれて出られない。お前に余計なことを言われなければ、就職くらいしたかもしれない。そんな不満を察してくれず、また言いやがる。
「楽しそうでよかった」
最初に見たときよりもずっと楽しそうね、なんてどこからどう見たら思うのか。不満げな顔を見せると、「納得いかない?」。いかないわけじゃない、だが……なんだろうな。そいつが連れていたガキは、オレを物珍しそうに見ていた。ガキにはこの時間はつらいだろうと席を変えさせようとしたのにこいつはガキに挨拶させるのだ。ほら、と言われてガキがおずおずと言った。
「篠田智也です」
ああ、アルマだ。そう言ってようやくしゃべれるようになったかというガキに、手元にあったピーナッツをやった。小袋ごととられてからこれもオレの払いだったと気がついた。……まあいい。お前が余計なことをしたから、もう一人道を踏み外すかもしれない。そんなことがないように、オレは祈ってるぜ。向こうは何のことだか分からなかったようだが、説明する気もなくオレは店を出た。




