第2話
最初の敵を倒した後は特に別のプレイヤーと接敵することなく、ギアをスピードギアからティア3のヘヴィギアに切り替え。
「もうちょい取れ高的に誰か来てほしいんだけどねえ」
なんて話しつつ、エリア縮小に合わせて移動。ワールドブレイカーのバトルロイヤルの場合、時間経過でステージそのものが外から崩れていく。落下は即死だ。移動は余裕をもってしないといけない。
「おっと。誰かいるな」
次に探索しようとしていた建物には先客がいたようだ。なぜわかるって? 目が合った。なのでとりあえずグレネードを投げ込む。
「出てくるかねえ」
正直に玄関から出てきたらハンマーで殴り倒すつもりだったが、ガラスの割れる音。裏から逃れたようだ。
「足音が二人分。ということは分身だな」
シャドウギアというギアの能力だ。出された分身は装備を持っていないので攻撃力こそ低いが、意外としぶとく、処理に手間取ると本体の攻撃で一気にやられてしまう。
2つの足音は建物の左右に分かれ、それぞれ同じような挙動で向かってくる。うまい。これだとどっちが分身かわからない。なので判別することもなく片側にロケットランチャーを撃ち、すぐにもう一方に距離を詰める。振り抜いたハンマーが近くの壁ごとアバターを叩き、それは大きく跳ね飛ばされた。
「こっちは偽物。てことはあっちが本物か!」
爆発の向こうから銃弾が飛んでくる。音からしてサブマシンガン。斜め方向に前進し、いくらか被弾しながら距離を詰める。シャドウギアは特殊能力を持つ分基礎スペックは低めだ。一方じぇいは鈍重だが強靭で怪力のへヴィギア。無理矢理にでも接近戦に持ち込むのがベスト。それがわかっているのだろう。相手はサブマシンガンを撃ちながらバックステップし、弾切れのタイミングで逆の腕を天高く上げる。
「ワイヤーフック!」
壁に刺さったワイヤーの巻き上げでシャドウギアが上に逃れていく。ならば。じぇいはロケットランチャーを構え、ワイヤーフックの着弾点を爆破した。落ちる黒いシルエット。
「うわっ!?」
「おらぁっ!」
着地の瞬間にインパクト。勢いの乗せた叩きつけを浴びせる。それだけではまだ倒し切れないが、この距離まで詰めれば逃げ切れないし、武器は弾切れ。勝負ありである。
「おっし! ワイヤーフックゲット!」
倒したところで、さっそくじぇいはロケットランチャーをワイヤーフックに持ちかえる。解説動画なんかもあげているじぇいは、一通り武器の特性も使い方も知っている。ただやはり得手不得手というものはあるわけで、ハンマー、ワイヤーフック、へヴィギアの3点セットがいつもマッチで使う基本装備だ。プレイヤーの間では機動ハンマーと呼ばれる、ワイヤーフックで機動力を確保しつつハンマーとヘビィギアの大威力をお見舞いするスタイルである。ティア3で揃えられてはいないが、これでだいぶ戦いやすくなる。
「生き残りは、40人くらい。中盤戦ってところだな」
そろそろプレイヤーの減る頻度も下がってくる時間帯だ。序盤の突発的な戦闘は収まってくると同時、プレイヤーの装備も整ってくるので、勝ちを意識しだし、死ぬことを惜しいと思うようになる。
じぇいもまた及第点の装備は確保できた。武器、防具だけでなく、回復などの消耗品もある。
「次のエリア移動まで籠るかねえ。えっと、この中型ビルBでいいかな。場所はいつも通り」
手近で強い建物を捜し、中に入る。近未来都市のため建物は数多くあるが、ランドマークになるような特徴的なものを除いて、その構造は20個くらいしかない。だから守りやすい建物、攻めやすい建物、籠りに適した場所や攻略のセオリーなんてものがあって、そのあたりももちろん解説動画を作っている。
ビルの4階、ちょうど階段から上がってきた敵を狙い撃ちにでき、かつ外からは見られにくい場所に陣取る。
「普通は3階より下に籠った方がいいんだよ。4回以上の高さから落ちると落下ダメージが発生するし、着地の硬直も長くなるから。ただ今の俺はワイヤーフックを持ってるからね。辺りの建物の配置次第だけど、もっと高いところにこもってもいいんだよ。詳しくは解説動画を上げてるから、それを見てねー」
なんて、マーケティングをして。そのあともリスナーに向けしゃべり続ける。勝ちにこだわるならそんなことに意識を割くよりも、黙って周囲の状況を敏感に察知するよう努めるべきなのだけれど、じぇいはあくまでもエンターテイナーだ。参考になるような、あるいはうますぎて参考にならないような超絶技巧が見たければ本戦の大会に出ているようなプロの動画を見ればいいわけで。じぇいの役割はあくまでも楽しませること。腕前だって、うまいほうではあるけれど、ランクはSに届かずA止まりである。
ただし、対人系のゲームで手抜きはご法度。そういうのはリスナーにもすぐばれる。今だってマイクをオフにして声がゲーム内では出ないようにしてある。
「待って。なんか来た」
聞こえた音にトークを中断し、外に意識を向ける。
「うわ待ってなんかすげー嫌な予感すんだけどこの音。たぶんそうだよねこれ」
窓からこっそりと、外を覗き見る。道路に存在したのは、ロボットのような兵器だ。大きさは大型車両と同じくらい。下半分はキャタピラで、上部は2門のマシンガンと2門のグレネードランチャーを備えた人型ロボットのような見た目のグランドーザー。マップに隠された3つのパーツを揃えることによって召喚可能になる最強ビークルの一つ。
「うわーまじか。あれ揃えたの?」
がんばって探して運がよければ揃えられるかもしれないというレベルのコンテンツだ。それに揃えたからといって、勝ちが確定するほど甘くもない。何しろでかい。目立つ。召喚タイミングや立ち回りを工夫しないと、嫌がらせのような遠距離攻撃で削られスクラップになってしまうのが落ちであり、今目の前のビークルも、そういう状況にあった。たぶん、グランドーザーを召喚できて浮かれているのだろう。今回は参加者を抽選したエキシビション。高ランクのプレイヤーもいれば低ランクのプレイヤーだっている。
「俺はここで観戦させてもらおっかなー。カメラは任せろー」
じぇいはガッツリ射程内に入っているし、飛び道具もない。なのでここは動かず観察。カメラがじぇいを捉えていれば、良いアングルで取れているだろう。
グランドーザーには、ちまちまとした攻撃が2か所くらいから飛んでくる。一つはスナイパーライフル。もうひとつはオブジェクト破壊に特化したロックオン式ミサイルか。
ビークル破壊もまたリスキーな行為ではある。一般的なビークルはただの移動用だからいいとして、グランドーザーほどのビークルになると反撃が怖いし、壊すのに時間がかかるから位置ばれしてほかに狙われる危険もある。
「あっちのミサイルの方、漁夫ろっかなー」
じぇいもそれを狙ってたり。まあ、今動くとカメラうんぬん以前に位置的に音でグランドーザーにばれる。動くのはグランドーザーが移動するか、じぇいに構っていられなくなるほど追いつめられたときだ。
なんて思っていたら、遠距離攻撃にキレたのかグランドーザーが周囲にグレネードをばら撒き始めた。もちろん攻撃の飛んでくる方向にも撃つし、それ以外、つまりあらゆる方向で爆発を起こしまくる。しかも本体の動きも一気に激しくなり、ビークルの耐久が削れるのも構わないとばかりに近くのビルに激突した。
つまり、じぇいの隠れているビルに。
「のわっ!?」
大きく揺れる、だけではすまない。グランドーザーは戦車みたいなものだ。しかもグレネードもいくつか受けている。それらの攻撃はビルの大事な柱をへし折ったらしく、足元から一気に崩れ出す。
「ちょっ!? これ! やばっ!」
ワイヤーフック装備なら4階以上に隠れても問題ないのは、ワイヤーフックを使って外にスムーズに脱出できるからだ。だけどじぇいはうまいほうではあってもトッププレイヤーではない。手持ちの武器でちまちま足場を崩されるならともかく、グランドーザーなんて規格外の兵器で一気に破壊されて、とっさにワイヤーフックを撃ち込めるほどの腕前はないのである。それどころか突然の事態に混乱してしまい、落下ダメージ覚悟で跳び下りるという次善策すらとれなかった。崩落に巻き込まれ、そのまま奈落に落ちるがごとく瓦礫と一緒に落下していく。これ、死ぬんじゃね? そう思いつつ、もはやじぇいに取れる策もなく。




