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6.繋がり

次に瞬きをした時、マリスはいつもはめている手袋を外し、右手を突き出していた。



「見てごらん、ここにアザがあるだろウ?」



なんとか思考を現在に持っていき、言われた通りに彼の手を見る。


薬指に付けられた指輪のように、中指の付け根あたりにはぐるりと輪っか状の黒いアザがあった。


そこから垂れるようにして線が続き、手のひらにある紫色の雫のアザへと繋がっている。


これこそが、アルスの証であると言いたいのだろう。


マリスの促す通りに自分の右手を見れば、同じ形で赤色のアザが私にもあった。


今朝はなかった、全く未知のもの。


……いや、そんなことよりもだ。



「待って、この子がマリスのディロなの?」


「まず驚くとこ、そこかイ?」



すかさずツッコミを入れられるが、気になるに決まっている。


そもそも私はアルスとしての力がある前提でこの世界に転生してきたのだから、自分のアザについてさほど驚けない。


マリスの片割れとなる存在が、こんなに幼い少女だったことの方がびっくりだ。


少女は、くりくりとした桃と水色のオッドアイでマリスを見上げている。


申し訳ないが、彼に不釣り合いなほど純粋無垢な子に見える。


マリスは彼女の水色の髪を撫でてやりながら、聞いたことがないほどの優しさを込めた声を出した。



「この子はアリス、僕のディロだ。

幼い見た目をしているが、お嬢様よりは年上だヨ。 

彼女は吸血鬼……まあ魔人だからネ。 

普段は僕の影に籠もっている」


「……! ……、」



声こそ出さないが、アリスちゃんは頷きながら気持ちよさそうに目を細める。


中々に可愛い子だ、私も撫でようとしたけれど逃げられてしまった。



「……アリスは、親を殺されていてネ。 

それ以来喋ることが出来ない上に、特定の人にしか懐かないのサ。

妻と子供を魔人に殺された人間の僕が、人間に親を殺された魔人の片割れとなったのは、きっと何かの縁なのだろウ。

だから僕は、この子を全力で守り育てると決めた。 ……そのアリスが、サビくんを見殺しにするなと泣いたから、主人を説得して彼を保護したのサ」



語り終えた彼は、一つ息を吐いた。


なるほど、あの時マリスが追ってこなかったのはアリスちゃんが引き止めていたからか……。


マリスに寄り添うアリスちゃんと、それを撫でる彼は、確かに不釣り合いだが家族に見えなくもない。


深い事情は知らないが、失った者同士の絆とでも呼べるのだろうか。


少し歪だが、確かな繋がりが2人にはあるのだ。



お父様も子供好きだから、アリスちゃんが嫌がっていたのを見て、サビの処分を考え直したという感じだろう。


ようやく繋がってきた状況を咀嚼しつつ、私の片割れであるサビを見た。



「……サビは、これからどうしたい?」


「はぁ?

……生き残るには、言う事を聞くしかねえ。

どうせ断れば追い出されて、はいさようならだろうが。 

僕に選択肢なんて無いんだ、好きにこき使えば良いだろ」


「私は、サビと友達になりたいの」


「はぁ…………?」



見定めるように、炎のようなサビの瞳が私を睨めつけた。


雑に伸ばされた黒髪の隙間から、殺気さえ纏っているような鋭い視線。


こんなことを急に言われて、そりゃあ警戒するのも当たり前。


だが、私の願いを叶えるチャンスなのだ。



マリスとアリスちゃんが家族に似た繋がりを選んだように。


私は、生前より願い続けた友達という存在を得るために、彼と友情で繋がりたい。


一方的な押し付けだけれど、だからこそ彼にも私のことを知ってもらわなければ。


そんな思いで差し出した私の手を、サビは変わらず彫像のように見つめていた。



「それに、サビが居てくれたら護衛にもなって嬉しいし」


「……おや? セイラには護衛を付けていたはずだが」



サビではなく、静かに紅茶を飲んで静観していたお父様が、ふいに口を挟んだ。


護衛を付けていた……とは、マリスのことだろうか?



「でもお父様、マリスばかりに頼るのは忍びないです」


「マリスではない。 アルバートへ、屋敷の警備と共にお前の護衛を頼んでいたはずだ」


「……は? 騎士様は、僕に護衛を頼むと言って……いつも屋敷に残っていたはずだヨ」



繋がらない、不測の事態。


皆が顔を見合わせ、違和感を手繰り寄せる。


なぜ、騎士様はそんな嘘を。


誰もが背筋に氷を入れられた感覚を覚えた時、静かに食堂の扉が開いた。



「あーあ、簡単にバレましたねぇ」



ニヤリと笑い、血濡れた大剣を担ぐ者。



アルバート・リィム──見慣れたはずの彼は今、背に黒い翼を背負っていた。

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