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5.はい、不可解

また、柔らかい感触に包まれている。


うっすら目を開ければ、ベッドの天蓋が見えた。


……そうだ、あの青年は!?


先程までのことを一気に思い出して動くも、ベッドから転げ落ちる。


強かに体を打ちつけて蹲る私を、誰かが優しく抱き上げてくれた。



「お嬢、熱出してるんですから大人しくしといてください」


「騎士様……?」


「おうよ、マリス先生に頼まれて看病してたんですよ。 具合はどうです?」



明るく笑う騎士様に、大丈夫と笑う。


安心したようにまた笑みを深める騎士様を見て安堵が広がりかけて、また不安にかき消される。


あの青年はどうなったんだ、まさか……。


最悪のケースを振り払うように頭を振って、縋るように騎士様へ視線と言葉を投げた。



「あの! ……街で暴れていた魔人は」


「ん? アイツなら、マリス先生とラーセ様と食堂で話をしているはずですよ」


「お父様も……!?」


「はい……って、お嬢!?」



父の名前が出た瞬間、居ても立ってもいられなくなって、騎士様の腕から逃れて地面へと落ちた。


そして、本日2度目となる疾走をする。


お父様……改め、ラーセ・ルミーリス伯爵は厳しい人間だ。


娘の私に対してはただの過保護な父親だが、人を傷つける存在への厳しさが度を越している。


父の声さえあれば、死刑だって下せてしまう。


マリスも、問答無用で魔人や魔物のみを嫌うため、口添えしているとは考えにくい。


あの青年が、殺されてしまうかもしれない。


どうしてこんなにも焦っているのか、自分でも分からないまま廊下を急いだ。


また張り裂けそうな心臓を無視して、ただ祈るように辿り着いた食堂のドアを開け放つ。



「おとうさ…………、えぇぇ!?」


「おや? どうしたのかね、私の可愛いセイラ……また走ったのかい!? 

体に障ってしまう、ほら椅子に座りなさい!」


「すっとぼけた顔してますヨ、お嬢様」



すっとぼけた顔をさせているのはそっちだよ、なんて言う余裕もなく。


父に促されるまま、すとんと椅子に座って、また状況を確認する。


対面へ座り直した父の前には温かな紅茶。


その横で足を組んで座るマリスの膝には、知らない少女。


私の横には、同じく訳が分からないといった顔をしながらパンを頬張るあの青年。



誰か、この状況を説明して…………。



1人で顔を覆い、混沌とした空間が夢なんじゃなかろうかと祈る。


だが、悲しいかな。 恐る恐る顔を上げて再び視界に映った光景は、先ほどと寸分も違いはなかった。



「あの、お父様……? これは一体どういう状況なのですか」


「もう少し話をまとめて、セイラの熱が下がってから説明するつもりだったのだ。 

しかし、もう説明しなくてはいけないね。

簡潔に言えば、あの魔人の面倒を見ることにしたんだ。

他でもない、マリスの口添えもあったからね」



ごめん、お父様。


余計わからなくなりました。


取り敢えず……いや、何を聞けば良いんだろう。



「……貴方のお名前は?」



長考した末に出た質問は、青年に向けたものだった。


これから彼のことを呼ぶ事は増えるかもしれないし、先に聞いておいて損はないだろう。


青年はパンを咀嚼し終えると、たっぷりの間を置いてから小さく呟いた。



「………………サビ」


「サビくんっていうの?」


「くん付けすんな」



なんともまあ、ツンケンした性格だ。


ふいっと顔を逸らされたが、奴隷という立場である彼のことを考えれば……仕方ないことだろう。


それにしても、サビはなぜこの家に迎え入れられたのだろう?


マリスが全てを知っていそうな気がして、無言で見つめ続ける。


ペストマスクで相変わらず何も分からないが、隙間からため息を零して彼は姿勢を正した。


いや、ため息を吐きたいのは私なんだけど。



「まずは、お嬢様。 サビの目元と、この子の頬を見てヨ」


「ん……? 同じ模様ね……?」



マリスの膝にちょこんと座る少女の頬にも、サビの目元にも、同じ雫模様が浮かんでいた。


少し違うとすれば、少女の雫は紫色なのに対して、サビのものは赤色だった。



「それが、ディロの証サ。 

色の違いは、扱える属性によるものだ」


「……つまり、この子もサビもディロということよね?」


「そうだヨ。 ……そして」



マリスがこちらに向き直り、私を真っ直ぐ指差した。



「僕がこの子のアルスだというのと同じく。

貴方が、サビくんの片割れとなるアルスだ」


「…………はい?」



全ての音が遠退いて、世界に置いていかれた感覚がした。

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